【雑記帳(漢方)】


期せずして、いつの間にかライフワークとなってしまった漢方薬。病や悩み事に関わる
仕事は避けたいと思いつつ...もう遅い。漢方屋として見聞する東洋医学周辺の話題を
幾つかとりあげて見ます。

 

漢方エキス製剤
ワシントン条約
薬 膳
漢方治療
漢方薬の副作用について

 


漢方エキス製剤

最近は、あまり話題に上らなくなったが問題が解決した訳ではない。漢方エキス顆粒や錠剤などの成分が、処方どうりの分量含有されていなかったという報告。

漢方エキスと同じ処方、同じ分量の生薬を配合した煎じ薬をと較した結果。エキス製剤には表示量の2〜6割程度の成分しか含まれていなかったという。複数の大学の研究室で調査されたものである。業界の誤魔化しで、複数のメーカーが原料の生薬を半分程度しか使っていなかったことを認めている。

湯剤を調剤している漢方家の間では、今も、エキス製剤の濃度に対する疑問をもつ人は多く、湯剤の1/5程度の濃度というのは、ほぼ定説と言ってよい。誤魔化しばかりではなく、製造工程で揮散する精油成分や変質する成分、技術上抽出されにくい成分も考えられる。原典に丸・散で服用の指示のある処方は、有効成分に油性成分があり水性エキスとしては抽出され難いのである。

同じ処方でも原典どうりに服用するのが最も効果的で、エキス製剤となったものは似て非なるものもある。これは現場で感じることであるが、この報告が出たときは納得させられた。

エキス製剤の便利さは、誰もが認めるところである。手軽、便利、持ち運び可能。しかし失った効果は重い。効果の薄いエキスを保険が利くからということで漫然と服み続けている人も多い。「漢方は長く服まなければ効かない。」というのはこの場合、恰好の言い訳、説明となる。薄くて効くなら納得もゆく、しかし効きもしないものを服み続けるのは生薬資源の無駄でもある。検討を要するところである。

中医は日本の処方の3〜5倍量を使う、重症や、即効を得たいときはそれくらい使う必要を感じる。これからするとエキス製剤は1/10〜1/20程度でしかない。最近煎じると部屋が臭くなるということで湯剤を敬遠する人が増えつつある。煎じる面倒さも理解できる。しかし正に苦しんでおられる方は、湯剤を選択される。湯剤を敬遠するくらいが健康でいいのかも知れない。

 

ワシントン条約

絶滅の恐れのある野生生物を保護する、ワシントン条約で取引を禁止されている動物を使う生薬がある。熊の胆嚢、ジャコウジカのオスの性腺、犀の角、一角鯨など、高級そうな漢方薬の老舗のショーウィンドウを飾る生薬のひとつでもある。

これらのものを得るためには捕獲しなくてはならない、ジャコウジカのオスを捕らえるため仕掛けた罠には、メスも子鹿もかかり、1kg程度のジャコウ嚢を得るため100頭近いジャコウ鹿が犠牲になるという。

こうして入手した生薬は本当に必要な時に使われているのだろうか?ジャコウや熊胆はどんな薬に配合されているのか。有名な求心、六神丸、奇応丸など心臓発作や高熱、意識障害など救急薬として少量配合されている。また少量でよく効く薬でもある。ところが精力剤や難病の薬として大量配合された超高価な製剤が幾つもある。教科書にはない使いかたで、一体だれのために、何の目的で販売するのか疑問である。有効・有限な資源を濫用してゆけば本当に必要な時、入手できなくなるのは目に見えている。なのにメーカや薬屋のエゴでどんどん浪費されてゆくのは見るに耐えない。

ワシントン条約で禁止されている以上、容易に輸入は出来ない筈なのだが、なぜか入手できる。密輸ということになるのだろうか?麻薬や覚せい剤とは一線を画すべきだが、ワシントン条約で禁止されているペットの密輸は良く聞く話である。以前、熊胆を仕入れ、皮を裂いていたら鉛が出てきた。鉛で重さを誤魔化したものであろう。なかには熊胆の皮に牛や豚の胆汁を詰めたものもあるとの事。鉛が混入したものは本物の証拠であると聞いたことがある。

 

薬 膳

いつの頃からか流行り出した薬膳料理や薬膳レストラン。テレビで若い女優さんやアナウンサーが食客としてレポートする。話は余談になるが、正にこれらの連中は業界に巣喰う食客(しょっかく)である。意味を調べてみた。

しょっかく(食客)
1)自分の家に客分としてかかえておく人。
2)他人の家に寄宿し、養われて生活している人。よその家に寄食する人。居候。

スタッフ一同、取材という大義名分の元、総勢10人程度で押し寄せてきて、たかが10分の映像のために半日〜1日かかって撮影。ご苦労な事だ。無精ひげ、長髪、ジーパンの汚い恰好のカメラマンが厨房へと、お座敷へと遠慮会釈なく入り込み撮影する。女優が「おいしい!」と、なんの意味もないコメントをだす。店にとってもそれが大きな宣伝になるらしく、取材を受けることは名誉らしい。この時は、日頃、客に講釈を垂れる料理の鉄人や拘りの料理人も愛想よく、温厚で誠実な演技をする。こうして映像は作られてゆくのだ。その後はお決まりのコース、腹を空かせたスタッフ一同の宴席である。したたか喰い飲みして「ご馳走さま」と帰ってゆく。

「代金は○○円」と請求もせず見送る料理の鉄人。これは私の創作ではない業界の常識らしい。あまりの美食で体調を壊した話も知っている。わずか5分〜10分の映像のためタダ喰いさせる鉄人も、鉄人である。余談が長くなり過ぎた。これは一般的なグルメ番組だが、薬膳料理もこのようにして作られ演出されたものを有難がっているのである。健康に良い薬草を使い、漢方の考え方によって調理された料理だからといって異質といえるほどの特性はない。それをたまに「ハレ食」として楽しむことにより意義があるのみで講釈とは別物である。こんな面白い料理を食べたという珍食奇食グルメだ。

薬膳は、古代中国で皇帝の不老長寿を願って作られる宮廷料理が起源といわれる。普段の食物の中から病気に対する効用を見出そうという「薬食同源」の実践である。

一度食べたくらいで病気が治る訳はない。普段の食物、つまり「ケの食」で実践してゆくことこそ本当の薬膳であると思う。食材の特性と体での栄養の動態を考え必要があれば薬草を使い調理する。ただ、見世物、楽しみだけの薬膳では情けない。メディアに媚びる、拘りの料理人や鉄人には幻滅である。「取材費を払え、料理代を払え」と言える鉄人であって欲しい。

 

漢方治療

西洋医学の検査で異常が見当たらない時、それでも体の不調や苦痛はある。西洋医学では、自律神経失調症や不定愁訴などと曖昧で実態の知れない病名をつける。これは仕方のないこと。検査が発達してなかった過去の時代は医者の診察と経験で病名が付けられたものである。その頃も、そして今も病名どうりの病気でないことはある。苦痛に対処する投薬が行われるが苦痛がとれないとき、更に西洋医学に頼り続ける人もあれば、そこで代替医療に向かう人もある。

いまはどこの薬屋でも漢方薬や健康食品が販売されている。「素人の自己診断は危険だから専門家に相談しましょう。」と言うものの、漢方薬を扱っているから専門家とは限らない、私も、漢方のイロハから学びはじめた頃、店頭に立っていたが、詳しい素人のお客様から随分教わった。もともと漢方薬など難しいものではない、数ヶ月店頭で販売しておればいつの間にか覚えてしまう。一般のお客様に素人判断などと申しあげるのも憚られる。素人でも良い、知識を増すことに何のためらいも要らないそして出来るものは、どんどん素人判断するべきである。

私は、ある程度、お客様の自己判断を優先する。専門家と自負するほど勉強もしていないので、お客様の話に関心する事もある。お客様のタイプも様々であるが、殆どの人は長く服まないと効かないと思っておられるようである。その様なものもあるが、これには訂正も要る「風邪が1ヶ月後に効いてどうします。」「風邪など数時間の内に効かなければ効いたとはいえないのです。」このような会話を交わす。この事は大きな誤解の一つである。効いた効かないはあくまでも自己判断であり、自覚症状であるが、薬草であっても反応の時間は早い。漫然と辛抱強く服み続けることの意義は考え直さなければならない。また客観的結果として病院での検査数値も参考にはなるが、薬局で検査などする事は出来ないので、やはり各自の観察、自覚症状に委ねる事になる。

漢方薬は果たしてどこまで利用できるのか、薬局でどこまで可能なのか考えるたび壁にぶつかる。本来検査などの医学的管理のもとにやるべき事と思っている。だから難病、重病の人の相談は相当な配慮をする。無責任に勧めた漢方薬でトラブルが生じた時、脈をとり、責任を負う自信がないし、力量もない。さらに制度上も不可能である。

薬局、薬店で販売される薬は自己判断で服めるように効能や適応が表示してある。そこに難しい病名はない。同じく薬局漢方もこの程度が仕事の限界ではないかと思っている。医師と同じく、またそれ以上に学習を深めても、自ずと違いは出てくる。漢方の限界や守備範囲ではなく、自らの限界や守備範囲の事を考える。

病気や症状によっては、新薬や得体知れずの健康食品より、薬草や漢方薬が良いのではないか?服みかたや分量、応用、効果、さらに健康や食のアドバイスや雑談が出来るなら、隙間産業として微光を放ってゆけるのではないかと思う。

 

漢方薬の副作用について

本来ないとされてきた。あってもそれは誤治であって副作用ではないとして、特に大家(専門家をこう呼ぶ...)においては、副作用など出るわけがなく、それは患者が悪いか瞑眩(めんげん)反応であろうといわれてきた。吉益東洞の言葉「瞑眩なくして病気の治癒はない。」が語源である。薬の薬理作用が現れなければ、病気は治らないという意味がいつの間にか、治癒の経過上みられる激しく厳しい反応と解釈されるようになった。最近では瞑眩といわれてきたものは副作用であり不適応とするのが殆どの漢方家の見解である。

小柴胡湯による間質性肺炎で、死者の出た副作用は記憶に新しいが、それ以降も注意すべき薬方が次々と追加されていった。もともと長い臨床応用の結果淘汰されたもの、という根拠なき根拠で医薬品とされているものである。超法規的措置で臨床試験を免れているのだ。

漢方薬に限らず食品でも、頭痛や腹痛、吐気などの症状は最も出やすい副作用でもある。これらの症状はプラシーボでも発現する、だからこそプラシーボが頭痛や腹痛に有効という証拠にもなるのだ。東洋医学会で報告されたものを掲げてみる。

  

症 状

症例数(%)

症 状

症例数(%)

胃腸障害 530(50.8) 発疹 204(19.6)
浮腫 63(6.0) 薬疹 39(3.7)
低カリウム 15(1.4) かゆみ 15(1.4)
めまい 15(1.4) のぼせ 13(1.2)
血圧 12(1.2) 頭痛 11(1.0)
動悸 10(0.9) 附子中毒 10(0.9)
脱力感 7(0.7) 鼻出血 7(0.9)
発汗(脱汗) 6(0.6) 口内炎 5(0.5)
肝障害 4(0.4) アルドステロン症 4(0.4)
しびれ 3(0.3) その他 62(5.9)
漢方と健康保険に関するアンケート(第2回)。721例中の
複数回答より、、合計のべ1043例

 

【副作用の経過】

対 応

症例数(%)
中止で好転 26(63.4)
減量で好転 7(17.0)
服みつづけて好転 5(12.2)
食後服用で好転 2(4.9)
不明 1(2.4)

 

副作用の78%が投与後3日以内に現れ、10日以内に全例が出現しているとの事。服用して2週間以上たって出現した不快作用は漢方薬が原因でないことが殆どと考えてよい。漢方薬の副作用は報告を見る限り、また私の経験上も重篤な障害をもたらすものは殆どない。たまに出現する副作用も中止か薬を代えるかで殆ど解決できるものである。最も注意すべき副作用は治療家自身の慢心とプライドである。西洋医学で治せないのを治せるとか、治療家のもとに訪れる患者の信頼に安住し、絶対治るとか、漢方薬で大丈夫という思い込みが危険なのだ。その間、有効な治療から遠ざかったり、根治といって苦痛を長引かせてはいないのか反省が求められるところである。そして、むしろ漢方薬を服まない事が有効なこともあるのだ。

皮膚病の薬で皮膚の不快症状が現れたり、不眠症の薬で覚醒したりということが起りうると考えなければならない。薬の95%以上が肝臓を通過し肝臓で代謝されるため、極めて肝臓の状態が良くない人には、たとえ漢方薬でも、さらに過剰なカロリーの食物でさえ負担になるのである。次に比較的高頻度に見られる生薬の副作用を掲げてみる。

 

生薬

症  状

処方例

大黄 浮腫・腹痛・下痢 乙字湯・大柴胡湯
防風通聖散・桃核承気湯
大黄甘草湯
甘草 浮腫・発疹・発赤・かゆみ・頭痛
血圧上昇
殆どの処方に配合される。
特に分量の多いものは
甘草湯・桔梗湯・人参湯
麻黄 発汗過多・全身脱力・不眠
食欲不振・胃部圧迫感・悪心・嘔吐
葛根湯・麻黄湯・小青竜湯
麻黄附子細辛湯・神秘湯
附子 食欲不振・胃部不快・腹痛・下痢
発汗・熱感・発疹・発赤・かゆみ
のぼせ・動悸・しびれ・神経障害
桂枝加朮附湯・真武湯
八味地黄丸
麻黄附子細辛湯
地黄 食欲不振・胃部不快・下痢・嘔吐 八味地黄丸・六味地黄丸
四物湯・十全大補湯
人参 胃部不快・腹痛・下痢・浮腫
血圧上昇
人参湯・小柴胡湯・六君子湯
補中益気湯
石膏 胃部不快・食欲不振 白虎湯・麻杏甘石湯
防風通聖散
桃仁 胃部不快感・食欲不振 桂枝茯苓丸・潤腸湯
大黄牡丹皮湯

 

おおよその記述であるが、この他の生薬、または症状についても、何でも起り得ると思っていたほうがよい。私の経験では大黄で腹痛、麻黄で不眠、地黄で胃部不快や吐気、人参で血圧上昇、石膏で胃部不快、稀にではあるが附子でしびれ、のぼせの副作用発現があった。附子とはトリカブト。これで殺人事件もあった。トリカブトの極量が0.5gで致死量が2gといわれる。最初は焙(ほうじ)附子を恐る恐る0.1gくらいから使い始めたが、やがて慣れるに従い2〜3gを使うようになった。更に採集した強力な烏頭を使うようになった。これをフライパンで焙じる時は唇や顔がしびれるほどである。加熱により附子の成分(アコニチン)は弱毒化されるので、附子の配合された薬方はより長く煎じなくてはならない。

附子、、特に注意するべきは妊婦の服用である。温熱作用、鎮痛作用、強心作用とともに走鼠作用という体中に薬効を巡らす作用で、流産の危険性がある。ほかにも妊婦の禁忌生薬と配合処方を参考までに、、、いくつか。

 

妊婦に禁忌

芒硝(硫酸Mg)

下剤 防風通聖散・桃核承気湯

センナ

下剤 単独で、またはダイエット茶

莪 朮

活血薬 健康食品・胃腸薬

桃 仁・牡丹皮

活血薬 桂枝茯苓丸・桃核承気湯

紅 花

活血薬 薬草茶、折衝飲・通導散

牛 膝

活血薬 牛車腎気丸・疎経活血湯

麝 香

開竅薬 六神丸・求心・牛王丸

妊婦に慎重使用

桂 枝・麻 黄

解表薬 桂枝湯・葛根湯・麻黄湯

牛 黄

清熱薬 六神丸・求心・牛王丸

大 黄

下剤 大柴胡湯・大黄甘草湯

木 通

清熱利湿薬 五淋散・消風散

乾 姜

温裏薬 人参湯・大建中湯・小青龍湯

枳 実

理気薬 大柴胡湯・大承気湯・排膿散

 

一般薬としての漢方薬。医療用としての漢方薬に配合される生薬を挙げているが、中国からの輸入薬や健康食品など成分・分量を明確に表示しないものにも、危険なものが混入している恐れは充分にある。

すでに述べたように、漢方薬の場合、極度に神経質になるような副作用はそれほど多くない。しかし不調や不具合が見られた場合、処方した医師や販売した薬剤師に問い合わせることは是非しなくてはならない。その対応で治療家の資質も問われる。「瞑眩反応」、この言葉をいまだに使っている代替医療業界もある。健康食品業界などでは、副作用を糊塗し、それを治すためと詭弁を弄し、さらに多く服用するよう勧める販売員の話も聞く。金銭の損失や悲劇を生まないためにも、自らは自らで守るための知識も要するところである。

 

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