【漢方薬の寒熱と帰経・清熱剤】


【黄連解毒湯】

構 成 分量 寒熱数 心包 小腸 大腸 膀胱 三焦
黄今 3.0 -2.0 -1.0 -1.0 -1.0       -1.0 -1.0 -1.0      
黄連 2.0 -2.0 -0.6 -0.6 -0.6 -0.6       -0.6 -0.6 -0.6    
山梔子 2.0 -2.0 -0.7 -0.7 -0.7           -0.7 -0.7   -0.7
黄柏 1.5 -2.0         -1.0     -1.0     -1.0  
入経生薬数 3 3 3 1 1   1 3 3 2 1 1
寒熱数合計 -2.3 -2.3 -2.3 -0.6 -1.0   -1.0 -2.6 -2.3 -1.3 -1.0 -0.7
寒熱総数 合 計 5.3 5.3 5.3 1.6 2.0   2.0 5.6 5.3 3.3 2.0 1.7
-17.0 順 位 2 2 2         1 2 3    

 

清熱剤とは熱のある病態に適用し、まさに東洋医学の寒熱の考え方を体現させるものである。熱の状態は炎症、充血、脳の興奮性の増大、機能亢進、自律神経の過興奮、異化作用亢進、脱水などに伴って生じる熱感、のぼせ、ほてり、いらいら、口渇、濃尿などが見られる。西洋医学の病名で○○炎というものは凡そこの病態に属する。清熱のためには、消炎、解熱、鎮痛、抗菌、抗ウイルス作用をもつ寒熱数(−)の寒涼剤を主に用いる。黄連解毒湯は三焦の実火(実熱・熱盛)に対する基本処方である。三焦の実火とは全身の炎症を意味し、これに伴い脳の充血や興奮性の増大、自律神経系の興奮がみられる。また血熱妄行といい、炎症や興奮による血管透過性増大による出血や発疹にも用いる。さらに湿熱(炎症性滲出や水分代謝異常)、心火旺・肝胆火旺・胃熱(のぼせ、目の充血、不眠、動悸、悪心、上腹部痛、歯痛、口内炎など)にも用いられる。本方はすべて苦寒薬で寒熱総数-17.0、五蔵六腑の殆どに帰経する生薬で構成されている。強力な清熱作用を発揮させるためには、その作用を緩めてしまう甘草は配合されない。

黄連、黄今、黄柏、山梔子はすべて消炎、解熱作用を持ち、広い抗菌スペクトルを示す。黄連、黄今は白血球貧食能や免疫能の増強に働く、黄今は抗アナフィラキシー効果を持つ。黄連、黄今、山梔子は利胆作用。黄今、山梔子は肝庇護作用がある。これらの生薬の働きで消炎、解熱、抗菌、抗ウイルス、鎮痛、利胆、止血、利尿、降圧などの効果が期待できる。苦寒性が強いので熱証以外に用いると、体力や新陳代謝の低下を招く。また利尿作用と熱邪が相まって陰液を消耗するため脱水症状に注意がいる。止血についても熱証であることが適応の条件になる。熱証の出血は、鮮紅色で量も多く勢いがよい。気虚や血於の出血には用いないが、外傷などの出血には基礎的な証に構わず必要に応じて頓服的に用いる。黄連解毒湯は下血、血尿などの下部の出血、次に述べる三黄瀉心湯は吐血、鼻血など上部の出血に用いる。苦寒剤の薬理上、冷やして服用するほうが効果的である。

 


【三黄瀉心湯】

構 成 分量 寒熱数 心包 小腸 大腸 膀胱 三焦
黄今 3.0 -2.0 -1.0 -1.0 -1.0       -1.0 -1.0 -1.0      
黄連 3.0 -2.0 -0.9 -0.9 -0.9 -0.9       -0.9 -0.9 -0.9    
大黄 3.0 -2.0 -1.0   -1.0 -1.0   -1.0   -1.0   -1.0    
入経生薬数 3 2 3 2   1 1 3 2 2    
寒熱数合計 -2.9 -1.9 -2.9 -1.9   -1.0 -1.0 -2.9 -1.9 -1.9    
寒熱総数 合 計 5.9 3.9 5.9 3.9   2.0 2.0 5.9 3.9 3.9    
-18.0 順 位 1 2 1 2       1 2 2    

 

康平傷寒論では3味とされているが、宋版傷寒論、成本傷寒論では大黄黄連瀉心湯という2味の処方になっている。黄連解毒湯から山梔子、黄柏を去り、大黄を加えた処方と考えることもできる。瀉心湯には心下部(みぞおち付近)のつかえを取り去るという意味があり、清熱や利尿や瀉下などによって心下の熱邪を征するものである。前項の黄連解毒湯は利尿によって毒素を排出するが、三黄瀉心湯は瀉下作用によって排出する。昔から漢方家の間で打撲、損傷、刀傷などの出血に頓服として振り出しで服用させた。振り出しとは煎じるのではなく沸騰した湯を注いで抽出するものだ。服用するときは熱いものではなく、冷まして体温以下、あるいはもっと冷ましたほうが好ましい。

大黄は解熱、消炎、抗菌、利胆作用を持ち、血液凝固促進作用で止血を助ける。瀉下作用があり腸管内の毒素は糞便で排出される。黄連、黄今は前項で述べたとうりである。寒熱総数-18.0、ほぼ黄連解毒湯とおなじ働きで、便秘傾向のものに用いる。しかし、外傷の止血については便秘の有無に関わらず使用して良い。3味を粉末で服用すると大黄の瀉下作用が強く、ときに腹痛を催すことがあるが振り出しであれば瀉下作用は緩和され清熱止血の効果が生きてくる。

 


【温清飲】

構 成 分量 寒熱数 心包 小腸 大腸 膀胱 三焦
熟地黄 3.0 +0.5 +0.4   +0.4   +0.4   +0.4          
芍薬 3.0 -2.0   -2.0 -2.0 -2.0                
川弓 3.0 +2.0 +1.5   +1.5     +1.5     +1.5      
当帰 3.0 +2.0 +1.5   +1.5   +1.5              
黄今 1.5 -2.0 -0.5 -0.5 -0.5       -0.5 -0.5 -0.5      
黄柏 1.5 -2.0         -1.0     -1.0     -1.0  
黄連 1.5 -2.0 -0.4 -0.4 -0.4 -0.4       -0.4 -0.4 -0.4    
山梔子 1.5 -2.0 -0.5 -0.5 -0.5           -0.5 -0.5   -0.5
入経生薬数 6 4 7 3 3 1 2 3 4 2 1 1
寒熱数合計 +2.0 -3.4 ±0.0 -0.9 +0.9 +1.5 -0.1 -1.9 +0.1 -0.9 -1.0 -0.5
寒熱総数 合 計 8.0 7.4 7.0 3.9 3.9 2.5 2.1 4.9 4.1 2.9 2.0 1.5
-7.5 順 位 1 2 3         4 5      

 

東洋医学の病理には陰陽いずれかが虚し、それに乗じて相対的に実の症状が出現するものがある。本方は血虚・血熱といい栄養不良状態や慢性の炎症、出血、脳や自律神経系の興奮が続き、熱を抑えるエネルギーが不足して熱症状が暴走するものである。皮膚につやがない、頭のふらつき、目のかすみ、爪が脆い、手足のしびれ、筋肉のひきつりなどの血虚の症状とともに、のぼせ、ほてり、いらいら、不眠、目の充血、口渇などの熱証や鼻出血、不正性器出血、下血など鮮紅色の出血がみられたり、灼熱感のある暗紅色の発疹、皮膚炎、口内炎などが生じる。黄連解毒湯の清熱作用と、四物湯の補血、滋養作用を併せ持つものである。寒熱総数は-7.5、全体では清熱に働くが、個々の生薬をみると補益しながら清熱するため、(-)と(+)の混在した構成である。肺経で寒熱数(-)の生薬は体表の炎症に働き、発疹や皮膚病を治す。一方、発表剤では肺経に寒熱数(+)の生薬を用い病邪を発散させる。

黄連、黄今、黄柏、山梔子、当帰、芍薬、川弓はすべて鎮静作用をもつ。黄連解毒湯の消炎、解熱、鎮静、抗菌、抗ウイルス、利胆、止血、利尿、降圧の効果と、四物湯の滋養強壮、循環改善、月経調整、鎮痛、鎮痙、鎮静などの効果を併せ持ち増強する。血虚・血熱の程度、病態に応じて生薬を加減したり、分量の比率を変えて対処する。日本の後世方の漢方医・森道伯は人の体質を1)解毒体質、2)於血体質、3)臓毒体質の3つに分類し、そのうち解毒体質に荊芥連翹湯、柴胡清肝散、竜胆瀉肝湯を用いた。これらの処方の基本となっているのが温清飲である。

 


【茵陳蒿湯】

構 成 分量 寒熱数 心包 小腸 大腸 膀胱 三焦
茵陳蒿 4.0 -2.0     -1.6 -1.6         -1.6 -1.6 -1.6  
山梔子 3.0 -2.0 -1.0 -1.0 -1.0           -1.0 -1.0   -1.0
大黄 1.0 -2.0 -0.3   -0.3 -0.3   -0.3   -0.3   -0.3    
入経生薬数 2 1 3 2   1   1 2 3 1 1
寒熱数合計 -1.3 -1.0 -2.9 -1.9   -0.3   -0.3 -2.6 -2.9 -1.6 -1.0
寒熱総数 合 計 3.3 2.0 5.9 3.9   1.3   1.3 4.6 5.9 2.6 2.0
-16.0 順 位 4   1 3         2 1    

 

熱邪と湿邪が結びついたものを湿熱といい、炎症とともに炎症性浮腫、炎症性水腫(関節、心嚢、胸水、腹水など)や水分の吸収、排泄障害がみられる。湿熱の部位によって脾胃湿熱、肝胆湿熱、大腸湿熱、膀胱湿熱などがあり、茵陳蒿湯は肝臓、胆嚢の炎症や自律神経の失調を主とする肝胆湿熱になる。口苦、口渇、頭汗、いらいら、体の熱感、悪心、嘔吐、食欲不振、胸腹部膨満、濃尿、便秘、黄疸、発熱などがあり、女性では黄色帯下、外陰部の掻痒なども見られる。湿熱の黄疸に繁用され、効果も顕著である。主に肝胆経に帰経する寒熱数(-)の生薬が配合され、オーバーヒートを抑えて解毒作用を助ける。

主薬は茵陳蒿で胆汁分泌を高め、胆嚢収縮作用がある。山梔子も胆汁分泌作用があり、茵陳蒿や大黄との配合で利胆作用が増強する。程度は異なるが三つの生薬はいずれも消炎、解熱、抗菌作用をもつ。茵陳蒿は利尿によって、大黄は瀉下によって毒素や代謝産物の排出を促す。湿熱のうち湿の症状が強いときは茵陳五苓散を用いるが、炎症があるときは補陽の桂枝を除いた茵陳四苓散が好ましい。茵陳蒿単独でも効果があり、10〜20gを5〜10分ほど煎じて服用する。茵陳蒿湯のエキス顆粒や錠剤を服むより単独、大量服用のほうが効果的である。しばしば黄疸の聖薬とも言われる。

 


【乙字湯】

構 成 分量 寒熱数 心包 小腸 大腸 膀胱 三焦
当帰 6.0 +2.0 +3.0   +3.0 +3.0 +3.0              
柴胡 5.0 -1.5     -1.9     -1.9     -1.9     -1.9
黄今 3.0 -2.0 -1.0 -1.0 -1.0       -1.0 -1.0 -1.0      
甘草 2.0 ±0.0 ±0.0 ±0.0 ±0.0 ±0.0 ±0.0 ±0.0 ±0.0 ±0.0 ±0.0 ±0.0 ±0.0 ±0.0
升麻 1.0 +1.5   +0.4   +0.4       +0.4   +0.4    
大黄 0.5 -2.0 -0.2   -0.2 -0.2   -0.2   -0.2   -0.2    
入経生薬数 4 3 5 4 2 3 2 4 3 3 1 2
寒熱数合計 +1.8 -0.6 -0.1 +3.2 +3.0 -2.1 -1.0 -0.8 -2.9 -0.2 ±0.0 -1.9
寒熱総数 合 計 5.8 3.6 5.1 7.2 5.0 5.1 3.0 4.8 5.9 3.2 1.0 3.9
-1.0 順 位 3   4 1 5 4   6 2      

 

脱肛、痔出血に用いる有名な処方で清熱剤に分類される。清熱作用はそれほど強くなく寒熱総数も-1.0で、寒熱の度合いに拘らず普遍的に用いることができる。肛門挙筋、直腸縦走筋などの緊張低下による直腸や痔核の脱出と、肛門括約筋の痙攣による鬱血、浮腫、充血、出血などがみられる。

清熱剤の黄今、大黄は大腸下部、骨盤内の充血、炎症を抑制し、利尿によって浮腫を除く。さらに大黄は糞便を排出することで直腸内の圧力を低下させる。痔にとって便通の悪化は病状の悪化にもつながるので、便通があってもある程度大黄を配合するほうが好ましく、大黄で清熱作用の調節もできる。柴胡も清熱に協力的に働くが、この処方では升麻とともに升提の作用を期待して配合される。肛門挙筋や直腸縦筋など骨盤底を構成する筋肉の緊張を正常化し、脱出した肛門や痔核を引き上げる。痙攣や疼痛が強いときは緩和作用を持つ甘草を増量したり、鎮痙作用のある芍薬を配合する。鬱血や腫脹があれば駆於血作用のある当帰を増量し桃仁、牡丹皮などを配合する。脱肛のなかで容易に脱出する弛緩性のものは中気下陥と言い、補気薬の人参、黄耆などを配合した補中益気湯を用いる。

 

BACK  NEXT