【繁用漢方処方集(1)】
漢方図書や漢方関係のサイトを探せば、もっと詳しく専門性を持った情報が 入手できるに違いありません。ここでは、漢方が初めてという方にも理解い ただけるように、難解な用語を極力排し、日本で流通する代表的な処方を 紹介します。加減・合方・類方なども参考に書いてみました。この他、治療 家ごとに独自のものが多数あり、それがまた、治療家の個性や力量を問わ れるところです。出来合いのエキス顆粒や錠剤を漢方薬と思うのは、漢方 の考え方に対する誤解でもあります。生薬の一味一味の本草的、現代薬 理学的薬効をも検討しながら、配合し運用していくことこそ漢方医学の面目 躍如たるものです。 |
処方集(1) |
処方集(2) |
|||||||
安中散料 | 四君子湯 | 清上防風湯 | 半夏瀉心湯 | |||||
茵陳蒿湯 | 四物湯 | 清心蓮子飲 | 白虎湯 | |||||
黄連解毒湯 | 炙甘草湯 | 疎経活血湯 | 平胃散料 | |||||
葛根湯 | 芍薬甘草湯 | 大防風湯 | 補中益気湯 | |||||
加味逍遥散料 | 十全大補湯 | 釣藤散料 | 防已黄耆湯 | |||||
銀翹散料 | 十味敗毒湯 | 猪苓湯 | 防風通聖散料 | |||||
桂枝湯 | 小建中湯 | 桃核承気湯 | 麻黄湯 | |||||
桂枝茯苓丸料 | 小柴胡湯 | 当帰芍薬散料 | 六君子湯 | |||||
荊芥連翹湯 | 小青竜湯 | 当帰飲子 | 苓甘姜味辛夏仁湯 | |||||
五苓湯 | 小承気湯 | 二陳湯 | 苓桂朮甘湯 | |||||
柴胡桂枝湯 | 消風散料 | 人参湯 | 六味地黄丸料 | |||||
三黄瀉心湯 | 真武湯 | 麦門冬湯 | 紫雲膏(外用) | |||||
四逆散料 | 参蘇飲 | 半夏厚朴湯 | ||||||
【処方】桂皮・延胡索・牡蛎・茴香・甘草・縮砂・良姜 【解説】胃弱の人がストレスや冷飲食、食べすぎなどによって起る症状。胃痛、動悸、 胃内停水、心下痛、胸焼け、腹満、食欲不振、悪心、嘔吐、冷え症。また慢性の痙攣性疼痛、下腹部の牽引性疼痛。消化不良で食物がいつまでも胃に停滞する時、生薬の芳香性の成分が胃腸の働きを助ける。 胃弱の人に限らず、暴飲暴食による胃もたれや胸やけに頓服しても効果的。 茴香の芳香成分がサバなどのアニサキスの殺虫効果があるとして有名である。その恐れのある食事の時は安中散を忘れずに。胃の停水は程度の差はあっても大方の人に認められるので、安中散加茯苓という加減方を用い茯苓で水を捌くと更に良い。 【加減】
【合方】
【類方】柴胡桂枝湯加茴香牡蛎、人参湯、茯苓飲、平胃散、半夏瀉心湯 |
【処方】茵陳蒿・山梔子・大黄 【解説】黄疸の「聖薬」として使われる。体に湿気と熱が充満してくると腹が張り苦悶や不快感を訴える。頭眩(頭のくらみ)、口渇、発黄、食欲不振、便秘、尿減 少。一般には肝機能障害や胆石症、胆嚢炎などに用いるが、体力や抵抗 力が著しく低下した人にはあまり使わない。湿と熱を目標に、蕁麻疹、皮膚病、口内炎などに応用する。大黄の量は便通の状況で加減するが、便と共に水毒が排出される効果もある。 【加減】
【合方】
【類方】茵陳五苓散料、大柴胡湯 |
【処方】オウゴン・黄連・山梔子・黄柏 【解説】全身の実熱によって起る炎症や充血をともなう症状に使う清熱剤の代表。症や熱が胃や心を犯すと、顔面が赤く、のぼせ、不安や不眠、心悸亢進などが生じる。その熱を苦寒の生薬で冷ます。口内炎、歯肉炎、諸種の出血、皮膚の発赤、掻痒、胃炎、高血圧などに応用され、他の薬方と合方して用いられる事も多い。 【加減】
【合方】
【類方】三黄瀉心湯、黄連湯、半夏瀉心湯、大黄黄連瀉心湯 |
【処方】葛根・大棗・麻黄・甘草・桂皮・芍薬・生姜 【解説】風邪などの熱性疾患の初期で悪寒、発熱、肩から首への凝りを目標に使う。発汗が少ない事が特徴で、手を握ったり首筋に手をやると乾燥している。未発汗の為体表に血が充血し炎症や凝りを引き起こすと考えられる。このため麻黄で汗腺を開いて発汗を促し病毒を発散させる。発汗の見られるものは麻黄の配合されない、弱い発汗性の桂枝湯や桂枝加葛根湯を用いる。この発散する性質を利用し、風邪をはじめ鼻閉、蓄膿症、気管支炎、喘息肩こり、筋肉痛、皮膚病などに応用する。あくまでも発散し表を解するもので炎症、裏に熱毒があり激しいときは逆効果。 【加減】
【合方】
【類方】麻黄湯、桂枝湯、桂枝麻黄各半湯、葛根加朮附湯、升麻葛根湯 |
【処方】当帰・芍薬・朮・茯苓・柴胡・甘草・牡丹皮・山梔子・薄荷・生姜 【解説】丹梔逍遙散ともいう、逍遙散加減方として繁用され、加減すると便利で応用範囲も広い。ストレスや疲労で肝の血が消耗すると、肝気が滞り、それが脇腹の張りや痛みとなってくる。肝炎にも似ているが、西洋医学で言う自律神経失調症の多くは、逍遙散の症状に見られるものである。いらいらしたり怒りっぽくなり、不眠、鬱などの精神症状もみられその訴えは多彩である。多彩な訴えを目標に加味逍遥散を処方するという漢方薬の本もあるくらいだ。 肝血が消耗している為、食欲はいくらかあるが、疲れやすい、凝り、頭痛動悸、目まい、不眠、不安などの症状、女性であれば月経異常や更年期症候群と言われる症状がみられる。ホルモンの失調で熱くなったり寒くなったりする事もある。 【加減】
【合方】
【類方】抑肝散加芍薬、当帰芍薬散、小柴胡湯、四逆散、柴胡桂枝乾姜湯 |
【処方】金銀花・連翹・薄荷・豆鼓・荊芥・竹葉・芦根・桔梗・牛蒡子・甘草 【解説】風邪には寒気から始まるものと、いきなり熱や咽喉の乾燥や炎症を伴って始まるものがある。寒気がするものは温め発汗を促し、寒を追い払う。熱や炎症を伴うものは解熱させる。しかし風邪は体表にあるので穏かに発散させ なければならない。銀翹散はその代表処方で、清熱薬と解表薬を配合し目的を達成する。ところが風邪の実態は寒・温に明確に分けられるようなものでもなく寒・温の風邪の程度によって加減合方し、病状に合わせなければならい。 【加減】
【合方】
【類方】桑菊飲、駆風解毒湯 |
【処方】桂枝、芍薬、大棗、甘草、生姜 【解説】悪寒、発熱、頭痛、自然発汗のある風邪の初期に用いる指示があるが、桂枝湯単独では殆ど使うことはない、少し軽作業をこなせば、脈は浮き汗が滲んで来る。悪寒を除けば日常生活のありふれた症状に似ている。体表の気血の巡りを調和させる働きがある。これを基本モデルに多くの加減合方がある。江戸時代の漢方医・吉益東洞の処方の七割は桂枝湯加減方だったと言われている。 【加減】
【合方】
【類方】葛根湯、桂枝加芍薬湯、柴胡桂枝湯、桂枝加朮附湯、小建中湯 |
【処方】桂枝・芍薬・桃仁・茯苓・牡丹皮 【解説】漢方特有の概念であるオケツの代表処方である。のぼせ、頭痛、肩こり、目まい、下腹部痛(盲腸周辺...)、下肢の冷え、月経異常など婦人科によく使われるが、女性とおなじく男性にも繁用される。疲労や凝りなど翌日に持ち越さないためにもお勧めしたい薬である。これで日々生じるオケツを処理しておけば、やがて積み重なった結果起こるであろう重度のオケツや病気や怪我の予防にもなる。殆どの病気に大なり小なりオケツは関わっているのでオケツ薬の配合される頻度は高い。丸という薬は丸を酒で服用するよう指示がある。その成分を湯剤にしたものを「料」という表現で区別する。 【加減】
【合方】
【類方】大黄牡丹皮湯、当帰芍薬散、加味逍遥散、温経湯、抵当丸 |
【処方】オウゴン・黄柏・黄連・桔梗・枳実・荊芥・柴胡・山梔子・地黄・芍薬・川弓・当帰・薄荷・白止・防風・連翹・甘草 【解説】漢方家の数ほど流派があるといっても過言ではない。西洋医学と違い標準治療というものがないので、治療家の思惟に大きく左右される面が多い。漢方流派のひとつに一貫堂というのがある。古方という流派は傷寒論の処方をもとに五行を空理空論として排除するが、後世方という流派は五行を重んじる。このように相反する理論でも治癒が起り得るところが面白い。後世方派の森道伯という漢方医の流れを汲むものが一貫堂である。まず人の体質を大きく(1)解毒体質 (2)オケツ体質 (3)臓毒体質に三分類する。そして、以下の様にそれぞれに対応する薬方を用意する。
森道伯の晩年にはこの5処方の組み合わせのみで、全患者の60%に対応したという。そのため早朝から大きな盥に予製剤を調合するのが弟子の役目だったらしい。年齢と共に胎毒が形や出所を変えて出現し病気の原因になるという考えであった。例えば小児の頃のアトピー性皮膚炎は成長に伴いやがて青年期になると鼻炎や蓄膿症という病気に形を変え、成人以降は高血圧動脈硬化などに変遷するというのだ。それぞれの時期、病態に対応するよう考えられた処方のひとつが、荊芥連翹湯である。青年期にみられる蓄膿症、副鼻腔炎、扁桃腺炎、中耳炎、皮膚炎などに用いられる。薬味数が多いので、加減はまだしも合方となると楽に20種を越える生薬が配合される。一般に薬味の多いものは守備範囲が広く緩和な作用をもたらすが、切れ味が落ちる。逆に古方派は薬味数が少ないので対極の主張をする。後世派は五行を重んじるとはいえ薬の運用を見る限り、「経験や口訣」を基の感がしないでもない。この一派からは後に中医学の大家や指導者を数多く輩出している。 【加減】
【合方】
【類方】温清飲、柴胡清肝散、竜胆瀉肝湯 |
【処方】沢瀉・蒼朮・猪苓・茯苓・桂皮 【解説】水分代謝の調整に使われる代表処方である。何らかの原因で体の水分の代謝が狂えば消化管や下半身に水が蓄積し、上部の水分が少なくなるという事がおこる。尿量は減少し水は消化管に留まったまま、乾いた組織へと移行する事が出来ない。そのため口渇が起り、水を飲んでも飲んでも口渇は止まらない。摂取した水はどんどん消化管や下半身に蓄り続ける。少し体を揺すると胃に水の溜まった音が聞こえてくる。溢れる水で腹痛や下痢、嘔吐もみられるようになる。水分が上昇しない為、頭痛、発熱めまいなどの症状が見られる時もある。漢方を学び始めたころは、口渇、尿量減少の2つを目標に使うように教わった。しかし病態が把握できれば、目標に拘らず必要に応じて使えば応用範囲の広い処方である。腎炎、膀胱炎、浮腫、目まい、頭痛、皮膚病、糖尿病、暑気あたり、乗り物酔い、二日酔いなど。五苓散または五苓湯を服むと反射的に嘔吐することがある。しかし時間を置いて繰り返し服用することで胃の水滞が除かれ薬も徐々に吸収される。吐剤(吐いて毒を排除する薬)の働きも考えられる。 【加減】
【合方】 【類方】分消湯、茯苓沢瀉湯、苓桂朮甘湯、猪苓湯、茵陳五苓散 |
【処方】柴胡・半夏・オウゴン・甘草・桂枝・芍薬・大棗・人参・生姜 【解説】小柴胡湯と桂枝湯の合方と考えてもよい。その両方の薬効を兼ねた繁用処方である。桂枝湯は病が体表にある時、小柴胡湯は病が胸郭(半表半裏)にある時用いる。風邪でいったん解熱して軽快したあと、咳がとれない、食欲がわかない、微熱があるなど、新薬ではなかなか解決出来ない。漫然と服み続けると自然治癒さえ妨げられる。これは、病が胸郭にあり軽い炎症が続くものと考えられる。漢方独特の考え方であるが、このときは柴胡という薬草の配合された処方で胸郭の微熱を取り除く。風邪に限らず胃、脇腹などが痛む時、新薬の痛み止めでは、殆ど効果のない場合がある。このような時、柴胡の配合された処方を服用すると見事に治る。病が胸郭にあるという科学的証拠はないが、治癒の結果から、仮説に正当性が得られる。風邪などの熱性疾患はじめ肝炎、胃炎、胆嚢炎、腹膜炎、慢性膵炎、大腸炎、鼻炎、中耳炎、神経痛、ノイローゼ、不眠など。 【加減】
【合方】
【類方】小柴胡湯、大柴胡湯、柴胡加竜骨牡蛎湯、柴胡桂枝乾姜湯、四逆散、加味逍遥散、補中益気湯、乙字湯、十味敗毒湯 |
【処方】オウゴン・黄連・大黄 【解説】心や胃の熱の為心下部や胃がつかえることがあり、それを瀉する意味で名が付けられている。清熱剤なので体温より冷たくして服むのが好ましい。特に出血に使う場合は温服を避ける。大黄という下剤が配合されているが、各々の成分を丸剤にしたものは下剤として効果があるが、湯剤で服むと瀉下作用はそれほど強くない。湯剤(振り出し)にする事で各成分間に、ある種の化学変化が起るのではないかと思われる。急性の出血。心や胃の熱でのぼせたり、顔面が紅潮した時。またその熱により起る高血圧、心悸亢進、耳鳴り、精神不安、口内炎などに用いる。慢性化した出血には使わない。 【加減】
【合方】
【類方】黄連解毒湯、半夏瀉心湯、甘草瀉心湯、黄連湯 |
【処方】柴胡・芍薬・枳実・甘草 【解説】肝は肝気を巡らせる。西洋医学的な表現では自律神経のコントロールをしていることになる。漢方で肝とは肝臓に留まらず、脳や子宮、腎などの働きも合わせ持った概念である。その気が肝に停滞すると、気が手足まで届かず末梢部の冷えが起る。その肝気を伸びやかにし、オーバーヒート気味の肝の熱を冷ます。その基本処方に相当するもので、加減・合方によって用いることが多い。痛みや筋肉の緊張の激しい疾患の鎮痛、鎮痙に使う。胸脇痛、腹痛、結石痛、胃炎、潰瘍、肩こり、筋肉痛や柴胡の抗炎症作用で各種炎症を伴うものに応用される。 【加減】
【合方】
【類方】柴胡疏肝湯、大柴胡湯、逍遙散、抑肝散加芍薬 |
【処方】白朮・人参・茯苓・甘草・生姜・大棗 【解説】脾胃の機能が低下したときや、素質として脾胃の弱い人の基本処方である。消化能力が落ち栄養の運化作用が失調すると、気血の生成にも支障をきたす。食欲減退、倦怠感、顔色不良、胃不快感、腹部膨満感、悪心、下痢手足の冷えなどの症状が見られる。人参で元気を補い脾胃の機能を助ける基本処方である。 【加減】
【合方】 【類方】六君子湯、人参湯、安中散、半夏白朮天麻湯、茯苓飲 |
【処方】当帰・川弓・地黄・芍薬 【解説】オケツに使う薬方の中で血を補う働きを持つ代表処方である。貧血や皮膚乾燥、顔色不良、長期の出血、冷え症や貧血による微熱などに気血を補い 改善する。単独で使うことは稀で、他の処方と合方して用いる。 【加減】
【合方】
【類方】当帰芍薬散、温清飲、弓帰膠艾湯、七物降下湯、十全大補湯 |
【処方】地黄・麦門冬・桂枝・大棗・人参・生姜・麻子仁・炙甘草・阿膠 【解説】虚労というのは、運動、労働などで体力を消耗し疲れたことをさす漢方用語である。心臓の虚労に使うのがこの処方である。心臓が疲れると動悸、脈の結代、頻脈、息切れなどが起ってくる。心の気血の循環が順調に行かない為皮膚枯燥、疲労、手足のほてりなど血の不足状態に似た症状がみられる。心臓の働きが正常に行かない場合に用いて、凡そ一定の効果が得られる。加減・合方によって心臓や心臓に関連する疾患に広く対応出来る。 【加減】
【合方】
【類方】木防已湯、冠心二号方、柴胡加竜骨牡蛎湯、柴胡桂枝乾姜湯 |
【処方】芍薬・甘草 【解説】わずか二味の薬方だが、この組み合わせは平滑筋の鎮痛、鎮痙作用があり、この組み合わせを持つ処方は多い。骨格筋の痙攣性疼痛にも効果がある。肩こり、腰痛、捻挫、打撲、胆石症、尿路結石、潰瘍、胃痙攣、急迫性腹痛、月経痛に用いられる。 【加減】
【合方】
【類方】桂枝加芍薬湯、小建中湯、四逆散 |
【処方】黄耆・桂枝・地黄・芍薬・川弓・白朮・当帰・人参・茯苓・甘草 【解説】病気による体力の消耗、出血や発熱時の発汗による血や体液の損耗で気血が衰えたとき用いる。疲労倦怠が激しく顔色不良、皮膚の栄養も悪く、貧血など症状がある。各種疾患・術後の体力低下、貧血、低血圧、冷え症、化学療法や放射線療法の副作用軽減など。滋養生薬が配合されているものは、胃腸にもたれる性質があるため、陳皮や縮砂など胃のもたれを防ぐ生薬の加味が望ましい。 【加減】
【合方】
【類方】人参養栄湯、補中益気湯、小建中湯、六君子湯 |
【処方】桔梗・柴胡・川弓・茯苓・防風・甘草・荊芥・生姜・桜皮・独活 【解説】江戸時代、華岡青洲の創製した経験方で、皮膚病の漢方薬として広く多く使われている。皮膚に限定されず化膿性疾患の初期や湿潤期に用いられる。また、アレルギー体質の解毒などに応用される。蕁麻疹、膿皮症、白癬、接触性皮膚炎、中耳炎、副鼻腔炎、扁桃腺炎、麦粒腫、リンパ節炎など。発散性の薬草が配合されている為浅い患部に適応する。またその発散性のため一時増悪し軽快することもある。 【加減】
【合方】
【類方】荊防敗毒散 |
【処方】芍薬・桂枝・大棗・甘草・生姜・膠飴 【解説】桂枝湯の芍薬を増やすと桂枝加芍薬湯になる。桂枝湯は表に向かう薬方であるが芍薬を増量しただけで裏へと向かう薬方に変わるのである。桂枝加芍薬湯は腹痛、下痢、便秘、腰痛など、主に腸の薬として使われる。それに膠飴(麦芽飴)を加えると、虚労(疲れ、衰弱)に応用される。体を上中下に分け、上の虚労に炙甘草湯、中の虚労に小建中湯、下の虚労に八味地黄丸を使うと言う漢方家もある。つまりその虚状の元は腹部にあり、冷えたり腹部の力不足で緊張したり弛緩したりして起る症状に適用される。体質虚弱な小児に必須の処方である。腹痛、下痢、夜尿症、盗汗、神経過敏、低血圧など小児に限らず応用範囲が広い。膠飴が栄養補給の役割を果たしているが、エキス顆粒では膠飴を充分量溶解出来ないので効果は著しく落ちる。 【加減】
【合方】
【類方】桂枝加芍薬湯、黄耆建中湯、当帰建中湯、大建中湯、帰耆建中湯、桂枝加竜骨牡蛎湯 |
【処方】柴胡・半夏・オウゴン・甘草・大棗・人参・生姜 【解説】既述した柴胡桂枝湯の基本処方になる。胸郭にある病であってもより表に近い場合と裏に近い場合があり、それに対応する方剤や加減方を選択する事になる。小柴胡湯はあまりにも有名な漢方薬である。エキス・錠剤などの製剤で最も生産量も使用量も多い。しかし、私は小柴胡湯単独では殆ど使わない。一年に1〜2回、煎じ薬が服めないという小児にエキス顆粒を使うくらいである。小柴胡湯は処方そのものより、処方の持つ「考え方」が重要である。漢方を学んで「得した。」と思えるのは、小柴胡湯と桂枝茯苓丸を知りえた事だ。西洋医学では考えも付かないし、その教科書から抜け落ちている概念である。小柴胡湯(少陽病)...病が胸郭にあるという仮説だが、それに対応する生薬を適用すると、症状は見事に改善する事がある。それは仮説から始まったプラシーボかも知れない。しかし西洋医学で手詰まりの時、打開策に試みても良いのではないか。「肝炎に小柴胡湯」というエキスメーカの営業戦略に乗せられた結果、あまりにも安易に、あまりにも多く使われすぎ、そのための副作用も報告されるようになった。 【加減】
【合方】
【類方】柴胡桂枝湯、大柴胡湯、柴胡加竜骨牡蛎湯、柴胡桂枝乾姜湯、四逆散、加味逍遥散、補中益気湯、乙字湯、十味敗毒湯 |
【処方】半夏・甘草・桂皮・五味子・細辛・芍薬・麻黄・乾姜 【解説】アレルギー性鼻炎や花粉症による鼻水、涙目、充血などの症状に対し新薬のように使われているが、それで結構効果がある。肺が冷え、本来蒸気で気化発散されるべき水が水滴となって起る鼻水や涙を、肺を温める事で血行を良くし、水を気化させる。肺や体表が冷えることによる頭痛や悪寒、水の気化が妨げられて起る気管支炎、喘息、咳、痰などに適用される。肺は「上の水道」腎は「下の水道」と言われ何れも水の代謝に大きく関わっている。肺の病気に腎を治し、腎の病気に肺を治すという漢方薬の応用が為されることもある。エキス顆粒や錠剤、あるいは煎じ薬にしても、水で服んだり冷たくして服んでは効果は相当落ち、効果が全く見られない事もある。必ず熱くして「ふうふう」と冷ましながら服むべきである。この原理でいくと軽度の鼻水や痰なら小青竜湯など必要なく、熱いお湯又はしょうが湯などでも間に合う場合もある。実際、その様な症例は幾つも経験している。寒冷が原因なので薄い鼻水や痰にこそ有効であって濃い痰や鼻汁には逆効果になる。 【加減】
【合方】
【類方】苓甘姜味辛夏仁湯、麻黄附子細辛湯、麻杏甘石湯、麦門冬湯 |
【処方】大黄・枳実・厚朴 【解説】病態のモデルとも言うべき処方である。承気湯と名の付く一連の処方は下剤に相当するもので、腹部にガスや食物、大便が溜まり、腹満、便秘、腹痛など呈するものにガスと共に急激に排出させる薬である。例えば下痢をしていても病態によっては便が詰り、そのすき間を液状の便が流れ出ている事も考えられる。このときは下痢を止めるのではなく承気湯で下す。下剤で下痢を治す漢方の妙味を感じる方剤である。便と共に解熱したり、尿まで通じ浮腫みが取れたり、消化管の内容物を排出することで消化のエネルギーが治癒のエネルギーへと向かい病が好転したり、、漢方は体内環境を見据えた養生の思想が処方の端々に感じられる。 【加減】
【合方】
【類方】大承気湯、調胃承気湯、桃核承気湯、麻子仁丸、大黄甘草湯 |
【処方】石膏・地黄・当帰・朮・防風・木通・知母・甘草・苦参・荊芥・牛蒡子・胡麻・蝉退 【解説】蝉退(蝉の抜け殻)という珍しい生薬が配合されている。これは病毒を発散させて痒みを止める働きがある。湿性の皮膚病で炎症のあるとき使う。皮膚に丘疹、発赤、びらん、分泌液などが見られたり、逆に乾いて落屑や乾燥があり急性、慢性が混在したものにも応用する。アトピー性皮膚炎、蕁麻疹、頑癬、白癬、乾癬、皮膚掻痒症など。 【加減】
【合方】
【類方】十味敗毒湯、温清飲、白虎加人参湯、当帰飲子 |
【処方】茯苓・芍薬・朮・生姜・附子 【解説】冷えて腎のエネルギーが低下すると正常に水をさばけなくなる。水分はまず脾胃で吸収され肺や腎で代謝される。そのいずれもが冷えて起る病態である。水がたまると疲れ易く、体は冷え、眩暈、動悸、浮腫などみられ、水によって下痢を引き起こす事もある。太陽病の葛根湯、少陰病の真武湯と言われる程繁用される。急性、慢性の胃腸炎、胃腸虚弱、消化不良。循環器では高血圧、低血圧、心悸亢進、脳血管障害。泌尿器系では慢性腎炎、ネフローゼ。皮膚病では、老人性皮膚掻痒症、蕁麻疹、湿疹。その他、老人や虚弱者の風邪や心身症、冷え症、浮腫など。 【加減】
【合方】
【類方】人参湯、四逆湯、附子湯、甘草附子湯 |
【処方】半夏・茯苓・葛根・桔梗・陳皮・大棗・人参・甘草・枳実・蘇葉・生姜・前胡 【解説】葛根湯と同じく風邪に繁用する薬であるが、配合生薬の数は、はるかに多い。その分色んなところに配慮が為されている。胃腸虚弱の人の風邪でなかなか治癒に到らずすっきりしない時用いる。人参、大棗、茯苓、半夏、木香、陳皮など胃腸に対する生薬が配合され、胃腸の機能を高め病邪を追い出すような働きがある。こじれた風邪のみならず初発の風邪にも使える。紫蘇、生姜、葛根などは軽い発汗剤なので体液が著しく損耗しない。また麻黄の配合された葛根湯などは妊婦が服用すると流産の恐れがあるので、参蘇飲を使う方が良い。 【加減】
【合方】
【類方】半夏厚朴湯、香蘇散、竹如温胆湯 |
【参考図書】 中医方剤マニュアル 上村 澄夫訳 /新編・中医学 基礎偏 張 瓏英 /漢方処方解説 矢数道明 漢方一貫堂の世界 松本克彦 /中医臨床備要 神戸中医学研究会訳 /漢方製剤活用の手引き 長谷川・大塚・山田・菊谷編 /中医臨床のための方剤学 神戸中医学研究会編 /中医処方解説 神戸中医学研究会編 /方剤学 神戸中医学研究会 / |