【身近で撮影した薬草(1)】


フジバカマ     トウキ     アカメガシワ
トウゴマ     コブシ     アザミ
クズ     ウツボグサ     ボタン
サイコ     オオバコ     シャクヤク
アマチャ     ガマ     キラン草
ビワ     グアバ     カラスウリ

 


フジバカマ(蘭草)

秋の七草の1つで希少植物種に指定されている。古い時代に中国からもたらされたと考えられている。各地で栽培されているが、自然の生育地としては湿った場所が多く、河原や川岸で見られることが多い。しかし河川環境の変化などによって、減少しつつある。栽培すると丈は1mほどになり、8月から9月にかけて花が咲く。わが家の畑に何時からともなく植えられていた。保護植物であることを新聞で知ってから大切に観賞している。漢方薬で蘭草と言い利尿、解熱、通経、糖尿病の浮腫・口渇、リウマチ、黄疸などに応用する。血糖降下作用が報告されているが、別の報告ではcoumarin類似の有毒成分で逆に血糖を上昇させたり肝・腎の障害をひきおこすとも言われている。精油成分は流感に用いると効果が期待される。

【注】希少植物と思っていたところ、写真のフジバカマは園芸種として流通するものであった。蘭草の類似品種ということになる。漢方では他に澤蘭という生薬名でよぶ種もある。2005年の薬事法改正で医薬品の承認が「製造承認」から「販売承認」に変った。現在ほとんどの民間薬が「製造原料」「調剤原料」として流通しているため、消費者に販売するには新たに販売承認を得る必要が生じた。これを機に蘭草の取り扱いを中止する生薬会社が相次ぎ、いまのところ入手困難になっている。民間療法として園芸種のフジバカマを飲用されている人も多々あるかと思われる。効能・効果が蘭草に等しいかは成分分析や臨床試験に依らねばならないが、それを行うほどの利点は少ない。自己責任で飲用して「手応えがなければ、諦める」という程度で利用すべきかも知れない。


トウゴマ(唐胡麻)

トウゴマはヒマとも呼ばれる。北アフリカ原産であるが、名前から中国経由で渡来したことがわかる。日本では1年草である。原産地では常緑で、電柱ほどの高さまでなるという。種子から採れる油はヒマシ油と呼ばれ、強力な下剤としてもちいられてきた。種子に30〜50%含有される。その中の成分ricinは7mg、ricinineは0.16gが成人の致死量である。小児ならトウゴマ5〜6粒で死に至る。この2種の毒物は加熱により分解する。ヒマシ油は低温でも固まりにくいため高いところを飛行する航空機の潤滑油としても利用され、第二次世界大戦前後大量に栽培された事がある。記憶の方も居られるに違いない。油を下剤として用いる他、印刷のインキ、印肉油、化粧品などに使わる。また花材として観賞用に栽培されることもある。民間療法では、彼岸花の球根とともに練ったものを足の裏に貼り水腫や神経痛などの鎮痛に応用する。


クズ(葛根)

日本各地に分布するツル植物で秋の七草の一つ。8月の終わり頃から9月にかけて房状の花を咲かせる。空き地や荒地、道路端などに繁茂し、大群落を形成していることが多い成長が早く、夏には1日で1m程も伸びると言われる。クズはマメ科植物なので痩せ地にも生育し、牛馬を飼育していた時代は餌とされていた。ツルは薪の結束に用いられたり、茎の繊維からは葛布も織られた。根には大量のデンプンを含有しこれから採れるクズ粉は菓子などに利用され上品な味を楽しむ事が出来る。葛饅頭、葛切り、葛餅など。またクズ粉を用いて作る葛湯は民間療法で風邪、下痢、二日酔いに応用される。葛根湯医者という落語がある。

   「先生、頭が痛いんですが」
   「頭痛ですな。葛根湯をお上がり」

   「先生、お腹が痛いんですが」
   「腹痛ですな。葛根湯をお上がり」

   「あなたはどこがお悪い」
   「私はつきそいに来ただけです」
   「まあいいから、葛根湯をお上がり」

ヤブ医者の代名詞のように語られるが、証を見極めれば、多彩な応用が可能な名医の例えとして語る漢方家も居る。漢方では、根をそのまま刻み乾燥させたものを他の生薬と配合して用いる。葛根には解熱作用と鎮痙作用が確認され、熱性病、感冒、肩こりなどに応用される。項背拘急といって首筋から肩にかけての凝りや痛みは「葛根湯」証としてあまりにも有名である。写真の花は「解酒毒」として飲酒の前後にお茶として服用する。


サイコ(柴胡)

特に日本漢方にはなくてはならない代表的な薬草である。自宅の畑で栽培したこともあるが用いるほどの量を収穫できず、標本として保存している。現在は中国産柴胡が汎用されるが日本産の三島柴胡が上品とされ価格も高い。江戸時代、東海道を行きかう旅人が三島(現在の静岡県)で柴胡を買いそれをお土産にしたという。三島に持ち込まれる柴胡は、非常に品質が良く、伊豆の山々の草原地帯を野焼きして掘り採った。現在野生のものを見つけるのは難しく高知、宮崎、群馬、茨城、静岡などで栽培される。また種子をもとに韓国や中国で栽培した三島柴胡も流通している。

解熱、解毒、鎮痛、消炎作用があり、西洋医学で炎症と命名される疾患に応用される。傷寒論では少陽病といい、胸膈に病毒が停滞し、その部分の臓器に不調が見られ胸脇苦満(きょうきょうくまん)という特徴のある腹証を呈する事がある。これは水落ちから肋骨に添い、さらに脇、背中にかけて圧痛や痛みを認めるもので、この証が見られる疾患に柴胡の配合された処方を適用する拠り所とされる。胸脇苦満は肝炎や胆嚢炎、膵炎、胃潰瘍、十二指潰瘍、胃炎など多くの疾患に認められ柴胡の応用範囲は広い。漢方を学び始めた頃は、それほど悩むこともなく胸脇苦満=柴胡と単純に割り切っていた。有名な処方に小柴胡湯があり、これは肝炎に良いとして医療の現場でのエキス漢方使用量1位を誇っていたが、間質性肺炎で死亡報告がなされてから柴胡を配合した処方までもが見直されるようになった。


アマチャ(甘茶)

ヤマアジサイといい外見もアジサイににている。畑に1株植えている。生葉は草の香りがして苦いが、乾燥させたものには強い甘みがある。水はけの良いやや湿った場所を好むが大方どこでもよく育つ。株分けか、さし木により増やし株分けは落葉後の10〜11月頃か発芽期の3〜4月頃。さし木は9月中旬〜下旬頃、葉を利用するためには花が咲かないよう蕾を摘んでおく。8月中旬頃葉を採取し、天日で乾燥させ、容器に詰めて霧吹きで水を散布し均等に葉にしみ込ませる。一昼夜ほど放置し蒸れて熱をもってきたところで広げて、ときどきもみながら天日で乾かし甘茶とする。

甘味があり利用されているのは日本産と中国産の甘茶で、 糖尿病患者の砂糖の代用として1日3〜6gを軽く煎じ又は茶剤として用いる。他にも家庭薬に配合されたり口中清涼剤や歯磨きの甘味、醤油の味付けなどに利用されている。生葉には、グルコフィロズルチンが含まれ、これには甘味がなく発酵すると酵素により加水分解され、砂糖の約1000倍の甘味を持つフィロズルチンになる。


ビワ(枇杷)

民間薬で利用され応用範囲の広い薬草である。中国からの伝来植物で日本への渡来は古く、日本各地で栽培されている。四川省、湖北省に野生の原生林が見られるのでこの地域が発祥とされている。漢方では鎮咳・去痰薬として用いるが、民間薬としての応用は内服から外用まで薬効も拡大して伝えられている。それほどまでに馴染み深い薬草といえるのかも知れない。種子、葉には青酸配糖体アミグダリンがありこれが咳止め、去痰作用を持つ。葉には他にも精油、サポニン、ブドウ糖、クエン酸、タンニンなど含まれている。葉を煎じて暑気あたり、胃腸病、腰痛、肩こり、冷え症、皮膚炎、高血圧、糖尿病、リウマチなどに応用される。外用としては生葉の裏の柔毛を良く洗い落とし、葉を患部に挟んで温灸をすることで肩こり、神経痛などに効果がある。これは葉の表面を火であぶることにより、葉に含まれるアミグダリンとエムルシンの反応で微量の青酸が発生し、それが皮膚を通して吸収され効果を発揮すると考えられている。

また煎じ汁をアトピーなどの皮膚病や水虫、捻挫などに外用。葉をホワイトリカーに漬けたものを少量服用したり、液で患部を罨法する方法もある。ビワの果実は薬用酒として疲労回復や食養増進に用いる。ビワの種子や葉には毒性のある青酸配糖体が含まれるので摂取過剰に注意がいる。青酸配糖体のアミグダリンはビタミンB17と言われガンの代替医療に用いられることがある。

 

BACK  NEXT