【Topic(食)】
日本人の嗜好飲料は緑茶。緑茶の時代は長く長く続いてきたのだが、いまやコーヒーにとって代わられた感がないでもない。調べてみると2002年のコーヒー消費量158600トン、緑茶95228トン...感どころではない、緑茶の倍の消費量ではないか!驚いたのはこれだけではない。コーヒー飲料4772000キロリットル、これらを豆に換算して加えると総計は439739トンになる。一人当たり年間消費量は、アメリカの3.94Kgに迫る3.28Kgになっている。いつのまに嗜好飲料の座を席巻したのだろう?統計資料を辿ってみると、この30年間、緑茶やその他の嗜好飲料の消費量は横ばいなのに比べ、コーヒーの消費量は7倍近くに増加した。特に1980年頃から急速に伸び始め1995年にはほぼ現在のレベルに達している。業界の努力なしに7倍も伸びる商品など絶対にありえない。 日頃、受け取るテレビや新聞、雑誌などの情報は、コーヒーに厚意的なものが殆どである。健康番組では嗜好飲料としてではなく、健康飲料として紹介する向きもあるほどだ。コーヒーなどの嗜好飲料は習慣化しやすい。その理由はいくつかあるが、カフェインや活性物質の存在抜きには考えられない。それを逆手にとって疲労回復!ストレス解消!と喧伝できるのかどうか疑問を持っている。これだけ普及が進むと思わぬ問題も発生してくるのではないか? コーヒーで糖尿病が良くなる?/コーヒーの研究は日本より、歴史的に飲用しつづけた欧米の研究が多い。コーヒーを7杯以上飲んでいる人は、コーヒーを全く飲んでいない人に比べ糖尿病になる確率は半分に減る。この他にも病気の予防効果を標榜する調査がいくつもある。糖尿病に関しては予備軍も含めて相当数に上ると思われ、関心も高いであろう。食事は今までどうりで食後何らかの飲み物で血糖の上昇を抑えられるなら、これほど都合の良いことはない。そしてこの手の話は手を変え品を変え、時には焼き直して流される。血糖値が下がったという報告は確かなものと思われる。正しくは、「そのような症例が見られた」と表現するべきであろう。ところが7杯以上というのが気になる。食後に1〜2杯を飲んだら胃の中はどうなるだろう?食物と胃液が混ざりあい消化しているところに、さらに多量の水分が追加される。胃液は薄まり水分率の高い食物は物理的にも効率よく消化活動ができない。それによって消化吸収が阻害され血糖上昇が抑えられるのではないか?と考えられないこともない。お茶を10杯以上飲めば、イオン水や波動水を1リットル飲めば、このような文句はどこにでも転がっている。そのものの効果で本当に下がっているのか?それとも水分で消化障害を起し血糖値が上がりきれないのか?正しい証拠が欲しいところである。 以前、コーヒーに大腸がんの予防効果ありとして、テレビなどでとりあげられたことがあった。これを検証するコホート研究が、スウェーデンで実施されている。研究はスウェーデン女性6万人を約10年間追跡するという大規模なもので、その結果、コーヒーを毎日4杯以上飲む人でも、全く飲まない人でも大腸癌の発生率は変わらないことが明らかになった。コーヒー7杯以上で糖尿病予防という話も、案外結果はこの程度なのかも知れない。単品で効能・効果を取り沙汰しても食は許容幅が大きく総量で判断されるべきものである。これはリスクについても同じで、もし悪いものであっても少量であれば許容されるものも多いし、必要な場合さえあるのだ。 次にリスク評価の研究になるが、妊娠中にコーヒーを1日8杯以上飲んでいた妊婦は、全く飲んでいなかった人と比べ死産のリスクが2倍以上になることが、約1万8000人の妊婦を対象としたデンマークの調査で明らかになった。これまでもコーヒーなどに含まれるカフェインが胎児に影響するとの報告はあったが、喫煙や飲酒習慣など他の因子で補正したデータが出たのは初めてだ。妊娠16週の時点でコーヒーを全く飲んでいなかった妊婦は全体の43%、1日に1〜3杯は34%、1日4〜7杯は18%、1日8杯以上は5%と、4杯以上コーヒーを飲んでいた人が4分の1にも及んだ。これらの妊婦のうち、死産だったのは82人。コーヒーの摂取量との関係を見ると、1日8杯以上飲んでいた妊婦では、全く飲んでいなかった人と比べて死産のリスクが3倍になった。死産の理由を分析すると、コーヒーを1日に4杯までの人では、胎児胎盤の機能障害が死産19人と最も多く、先天異常と分娩前出血がそれぞれ6人。1日4杯以上の人では子宮内死亡が9人、胎児胎盤の機能障害8人、分娩前出血8人だった。 これらを引き起こす主因は、コーヒーに含まれるカフェインだと考えらている。カフェインには腎髄質からのカテコールアミン分泌を促し、子宮胎盤の血管収縮や胎児の低酸素状態を引き起こしたり、直接胎児の心血管系システムに影響を与えて、頻脈や不整脈を引き起こす作用がある。胎児についてだけでなく、体の抵抗力の弱った病人、老人、また心臓疾患など抱えた人は少なからずこのようなカフェインの影響が及ぶものと考えてよい。少量なら或は許されるのかも知れないが、もし体の不調を覚えたならきっぱりやめる勇気があっても良い。コーヒーに限らずカフェインを含有する飲食物はたくさんある。コーヒーはじめ緑茶、ウーロン茶、紅茶、清涼飲料水、栄養ドリンクなど。またカフェインの習慣性を利用し、故意に高濃度のコーヒーを提供するコーヒーチェーン店があるとの噂も耳にする。コーヒーやお茶を浴びるように奨励するのは業界の常。医薬品業界では近年、副作用情報も積極的に提供すべきという動きが加速している。欠点も納得の上で有効利用しようという考えからである。 |
緑茶、お茶などの語句でweb検索すると、殆どのページはお茶や食品業界の販売サイトで、良いことばかりが記述されている。それは可としよう。緑茶は長い歴史を持つ嗜好飲料であるだけに疑いもなく飲用し、愛着も強く、始終飲み続ける人は多い。私が病院薬局に勤務していた頃、年配の看護婦(師)さんが入院患者に「お茶ではなく、ほうじ茶にしなさい」とアドバイスされるのを聞いた。このような指導が、どこでも、今でも行われているのかは知らないが、お茶は療養生活を損なうマイナス面があることをそのとき知った。また、パニック障害などの相談がしばしばある。その中で、「医師からお茶、コーヒーなどカフェイン飲料は飲まないように指導されている」という話を時々聞く。調べてみるとやはりカフェインは良くないらしい。このような情報はおびただしい「広告情報」に埋もれ、殆ど息をもつけない状態で存在している。しかし、病気療養者にとっては輝くような情報の筈である。軽い不眠症の方に、「午後からはお茶を飲まないように」とアドバイスするだけで、その日から改善した例は幾つもある。実際、私自身もそうであった。 最近の緑茶の宣伝はカテキンが叫ばれている。カテキンとはタンニンなどの渋みの成分である。これらは同一分子内に複数のフェノール性水酸基をもつ植物成分の総称で、ほとんどの植物に含有され、その数は5000 種以上に及ぶといわれる。光合成によってできた植物の色素や苦味の成分であり、抗酸化能力に優れた水溶性物質である。ポリフェノールとひとくくりに叫ばれるが、種類は多く、植物由来のものには殆ど含まれていると思って良い。ワインだとか、ココアだとか、、、お茶、コーヒーなど特定のものにしか含まれないように錯覚させる情報は情報とは言えない。ただの宣伝でしかない。 カテキンは常識になったので次を狙ってテアニンがとり上げられるようになった。テアニンは構造がグルタミン酸に似た緑茶の旨味成分である。旨味を出すために味の素を降りかけてお茶を仕上げる話もある。最近のテアニンの研究では、脳に作用してリラックスの指標となるα波を引き出すことが確認された。10人の健康な男性を対象にテアニン摂取の有無と、1)寝つきの良さ、2)眠りの深さ、3)起きたときの疲労感...などが検討された。就寝1時間前に200mgのテアニン又はプラセボ(偽薬)を、それぞれ6日間連続して摂取、睡眠と覚醒の状態を計測する機器を装着して寝た。テアニンを摂取した場合は、入眠後の中途覚醒時間が偽薬をのんだ場合より有意に減少することがわかった。起床時の爽快感が高く、実際に眠った時間よりも長く眠ったように感じていた。また「入眠感評価尺度」という評価法を用いて入眠の良し悪しを評価したところ、10人中7人で、テアニンをのんだ場合の方が良いという結果が出た。 これだけをとり上げると、まるで緑茶が睡眠薬にでも使えるように勘違いしてしまう。勘違いを狙った販売方法も無くはない。しかし200mgのテアニンを摂取するためには20杯のお茶を飲まなくてはならない、と同時に500mgものカフェインを摂取する破目になる。カフェイン500mgは1回極量(有効最大量)である。玉露などのお茶ではさらに量が増える。これで果たして安らかに眠れるだろうか?α波どころではなく、ギラギラに興奮し、テアニンの効果は打ち消しとなる。だからテアニンだけのサプリメントを飲みましょう!という事になる。 |
胆石、尿路結石など抱えていれば、いつ痛み出すか知れず生活にも一抹の不安が漂う。尿路結石をみると10万人あたりの有病率は1965年約55人、1985年約93人と20年でほぼ2倍の増加となっている。現在ではさらに増え、生涯のうち100人に5人は尿路結石になるといわれている。食生活が豊かになり、特に動物性蛋白質の増加が原因といわれている。牛乳、卵、肉、魚...これらの消費増と結石の増加を示唆する資料もある。尿路結石は、カルシウムやシュウ酸、リン酸などの塩類が関与し、水に溶けない塩類が細かな結晶として尿の中に浮遊している。尿が濃くなると、その結晶が成長し、互いに結合して結石になると考えられている。 尿路結石の種類で多いのが「シュウ酸Ca結石」と「リン酸Ca結石」、「シュウ酸Ca+リン酸Ca結石」で、全体の約70%を占める。ほかに、感染結石(20〜25%)、痛風の人にできやすい「尿酸結石」(約10%)、「シスチン結石」(1〜2%)などがある。Caが結合した結石が多いので砂糖の摂取量との関連を探る資料もある。 高カルシウム尿症の人は尿路結石を繰り返し発症しやすいことが知られている。イタリアで行われた臨床試験で、食事中の動物性蛋白と食塩を制限すると、カルシウムを制限する食事療法を受けた人よりも、結石の再発率が5年間で半減することがわかった。この研究は乳製品の特産地として名高いイタリア・パルマ大学臨床科学部で行われた。尿路結石の再発で大学病院の外来を受診した男性患者のうち、特発性高カルシウム尿症があり、5年間食事療法を続ける意思が確認できた120人を無作為に2群に分け、2種類の食事療法の効果を比較したものである。食事中のカルシウムを制限する群と、カルシウムはそのままで動物性蛋白や食塩を制限する群を比較した。その結果、5年間で結石が再発したのは、カルシウム制限群が23人、動物性蛋白・食塩制限群が12人。カルシウムを制限するよりも動物性蛋白と食塩を控える方が、結石の再発率がほぼ半減することが明らかになった。これは、動物性蛋白と食塩を制限することで、尿中のカルシウムとシュウ酸がどちらも減少し、結石の主成分であるシュウ酸カルシウムの生成を防ぐため、と推察されている。 蛋白質や脂肪の消化にはどうやらカルシウムが関与しているようだ。消化の過程で尿中のカルシウム濃度が上昇し結石が生成されることになる。現在、良質のカルシウム摂取源として牛乳や乳製品が推奨されるが、蛋白・脂肪源でもある。いったいどのように体で動作するのか興味は尽きない。多分、摂取量に伴って良し悪しの分かれるところがあるのだろう。命を養い、副作用も少ない食物ではあるが、時には逆襲もあり得るという話。 |
アメリカのL.ポーリング博士は化学賞、平和賞と2度に渡ってノーベル賞を受賞。ビタミンCをweb検索すると一緒に博士の名前がヒットする。ビタミンCで有名になったのか?ビタミンCを有名にしたのか?判然としない。学生の頃、講演の為ポーリング博士が大学に来た。ちょうど授業と重なって拝聴できなかったが、出席した教授が感想を語ってくれた。「ビタミンCを1日5〜10g飲めば風邪にかからない」との話。「根拠はないので教祖の発言みたいなものだ」と教授は酷評していたが、その後、大量投与でガンの治療にまで用いる医師が出現した。通常、医薬品としては0.5〜2g/1日なのでほぼ10倍量を服用することになる。 ビタミンCについて認められている効能・効果は次のようなものである。次の症状の緩和/しみ・そばかす・日やけ・かぶれによる色素沈着。次の場合の出血予防/歯ぐきからの出血・鼻出血。次の場合のビタミンCの補給/肉体疲労時、妊娠・授乳期、病中病後の体力低下時、老年期。これは一般用医薬品のものであるが、おおよそ欠乏を補給することで症状の緩和や予防などの効能・効果が認められている。 ビタミンCに関する情報は、健康・食品のサイトから発信されるものが多い。たとえば緑茶の消費を促すwebページでは、次のような効能・効果が表記されている。発ガン作用抑制効果。(カテキン類・β−カロチン・ビタミンC)/成人病予防効果。(ビタミンA・C・E・カテキン類)/老化防止効果(ビタミンE・カテキン類)/虫歯・口臭予防効果(カテキン類・フッ素)/糖尿病予防効果(ビタミンB群・多糖類)/記憶力・集中力の高揚(カフェイン)/ダイエット・美容効果(ノンカロリー・ビタミンC)/解毒・殺菌作用で食中毒を防止(カテキン類)/煙草のタール・ニコチンの害を減少(カテキン類・ビタミンC)/インフルエンザウィルスの感染防止(カテキン類・ビタミンC).. 医薬品の効能・効果とは随分様相が異なっている。そして多くの人は医薬品の情報より、食品販売の過剰なまでの宣伝を根拠に食品の摂取に励んでいるに違いない。 欠乏症には画期的な効果もあるが、足りているものにとっては殆ど意味はなく、むしろ過剰症をもたらすのが食由来の栄養素である。欠乏症で出血や疲労などがあったとしても、他の原因による出血や疲労に効果があるものではない。このことが意外にも忘れ去られているように思う。ビタミンのこと、それは良いとして、そのためお茶を浴びるように飲む。煎茶100gに250mgのビタミンCが含有されているので、1回5gを飲んで12mg程度である。過大な宣伝にしては情けない数字である。10杯飲んで120mgになるが、それではカフェインの副作用が出現する。お茶に限らず食物に関しても同じことが言える。過大、多大な期待で過剰に摂り過ぎる事こそ病気のもとになる。かたや飢え逝く人々の画面を見る茶の間で、「可哀想...」とつぶやきながら美食を貪る。その果てにダイエットだ、予防だ、と...金を巻き上げられる。豊かさとは徹頭徹尾、喜劇的な無駄の上に成り立っている。 |
血液ドロドロの話は既に書いているが、「活性酸素」も代替医療や健康食品業界で繁用される用語である。すべての病気が、ただ一つの原因に収束していく「万病一毒説」は、この理論が語られ始めた時点で疑わなくてはならない。このことで恐怖を煽り消費行動へと駆り立てられる。活性酸素とは化学で言うところのフリーラジカル反応に相当する。たとえば酸素は水素と反応すると水になって終わる。この途中の酸素をみると、O2→O:O→HOH+HOHになる。中間のO・がフリーラジカルである。遷移状態の化学構造なので、速やかに結合相手を求め安定した物質に落ち着くものである。しかし不安定な、O・の状態に長く留まり、異常で激しい反応や影響を及ぼすことをフリーラジカル反応と呼んでいる。これが生体で起こることを活性酸素反応と言い、体内の細胞を酸化させ、細胞の正常な働きを失わせ、シミやシワなどのほか、ガン・動脈硬化・糖尿病・老人性痴呆・白内障といった病気の引き金になると言われている。 この活性酸素を発生させる恐怖の物質やライフスタイルを避けて健康で長生きしようというのが、治療家や業界のおおよその主張である。「しかし不幸にして避けられない場合は、活性酸素を除去してくれる療法や食品があります」と展開していく。果たしてどれほどの根拠があるのだろうか?充分な検証も行われないまま、あたかも医薬品かのように高価な出費を強いられてはいないのだろうか?信頼のおける研究で、動脈硬化に対する活性酸素除去(抗酸化)関連物質ついての報告がある。 冠動脈疾患を有する患者160人をランダムに4群に分け、冠動脈狭窄の程度、心血管の状態を3年間観察した。4群とは、/1)シンバスタチン(スタチン系の高コレステロール血症治療薬)+ナイアシン群/2)抗酸化物質(ビタミンE、ビタミンC、βカロチン、セレニウム)群/3)シンバスタチン+ナイアシン+抗酸化物質群/4)プラセボ群である。酸化説に従えば、3)群がもっとも冠動脈疾患の進行が遅いと予測されるが、実際には3)群は1)群より悪いという結果となってしまった。健康人での研究ではないので予防効果については検討を要するところであるが、少なくとも既に新薬での治療を続けている人は、さらに健康食品など摂取することは逆効果になる。 かつてβカロチン(カロテン)などは動脈硬化や癌の予防にもなると言われたが、現在では逆に動脈硬化や癌を引き起すとさえ言われている。健康食品の場合、医薬品ほど厳しいevidenceを要求されないため、基礎的な動物実験や少数の被験者での実験結果を大袈裟に報告する。まだ混沌とした状況にも関わらず光を求めるかのように人が群れる。藁をもつかみたい思いの人、漠然とした健康不安を抱えた人、そして商機に敏なる人。 注)webページの随所で述べている「商機に敏なる人」について、誤解のないよう弁明しておきたい。商機を狙う人が居るのは当然でそれを問題とはしない。かく言う私も、話題や流行に揺られ流され薬草を販売している次第である。ただし、健康に関する情報の読み方として、このことを割り引いて検討すべきではないだろうか?希望を抱かせる報告や情報にすぐに飛びつくと、それが逆効果であったり、ほかの障害をもたらす可能性もある。もちろん無駄な出費も強いられる。 |
自然食の考えでは、人は歯の形状から穀物を中心とした菜食が望ましく、そこで不足する栄養素を動物性蛋白質で補うのが理想であるという。腸の長さも穀菜食向きの長さを有している。ところが豊かになった食生活のため長い腸管に動物性蛋白質が滞ることが、大腸ガンの原因になると考える。最近の栄養学では歯の形状など問題にしないが、穀物や野菜の繊維で腸を健全に保つことには異論はないようだ。 大腸ガン予防食として小麦ふすまと乳酸菌を用いての長期介入試験がある。まず、40〜59歳の大腸ガンのハイリスク患者を4群に割り付けた。/1)食事指導のみ/2)食事指導+小麦ふすまビスケット/3)食事指導+乳酸菌製剤/4)食事指導+小麦ふすまビスケット+乳酸菌製剤。これで、2年後と4年後に大腸内視鏡検査を行い、大腸ガンの新規発生がどの程度抑制できるかを評価した。死亡や他の疾患などで大腸内視鏡検査を受けられなかった18人を除く380人について、2年後と4年後に腫瘍の発生の有無を調べたところ、全体では2年後に6割、4年後に5割強の人で腫瘍が発生していた。しかし、この発生率に小麦ふすまビスケットや乳酸菌製剤の摂取の有無は影響を及ぼさず、少なくとも4年という期間では両者とも腫瘍の新規発生抑制効果が認められないことが明らかになった。小麦ふすまと乳酸菌の相乗効果も認められなかった。乳酸菌製剤でのみ、ポリープの抑制作用がみられた程度であった。逆に小麦ふすまビスケットについては、4年目に摂取群191人中7人(3.7%)に10mm以上の腫瘍が発生。このサイズの腫瘍は非摂取群からは1人も発生が無く、小麦ふすまの摂取で大きなポリープができやすくなる恐れが示唆された。また小麦ふすまビスケット摂取群からは、急性虫垂炎も2人発生した。 期待の持てそうな試験だっただけに残念な結果となった。実際の効果と試験結果にはある種の隔たりを感じるかもしれないが、このような手続きで評価されないかぎり確実なことは言えない。穀物や野菜などの繊維は排便を促しかつ腸内細菌の棲家を提供する働きがあるという。これを根拠に繊維+乳酸菌のサプリメントも販売されている。試験結果を見る限りでは優れて期待は出来そうにない。だからと言って食物繊維を摂取しないで良い理由にもならない。ただ、良いというだけで検証もなく摂取していたならば、思わぬ落とし穴に誰が気付いたであろうか。 食を語るには、とりあえずいくつかの食物、栄養素を取り上げて、語り始めなくてはならない。ここに意図せぬ誤解が生じ易い。食に限らず物事の実態は広範に捉えなくてはならない。文章にするたびに食の実態から遠ざかりつつあるようなもどかしさを感じている。 |
先日の朝日新聞に水についてのアンケートが掲載された。3213人の調査によるとミネラルウォーターを買いますか?の質問に「よく買う」、「ときどき買う」と答えた人が37%だった。その理由に上げられたものは?「水道水がまずい」、「健康によさそう」、「水道水の安全性に不安」、が殆どを占め、選ぶ決め手は?「価格」、「採水地」、「成分・効能」、が上位となっている。水道水の不安をかき立てるものは塩素やトリハロメタン、重金属、残留農薬などであるが、実際の水質基準はミネラルウォーターより水道水のほうが厳しいのである。水質基準の曖昧なミネラルウォーターは、ただの水道水を煮沸したものであったり、細菌検査も経ず不衛生なものも出回っているようだ。 飲料水は殆どの人が水道水、ミネラルウォーター、浄水器、この3つのうちから摂取していると思う。ミネラルウォーターを売るものは水道水の不安をかき立て、浄水器を売るものは水道水とミネラルウォーターの両方の不安をかき立てる。ペットボトル入りのミネラルウォータの環境に対する負荷は水道水の1500倍も大きく、自己環境ばかり気にするあまり、全体の環境は見過ごされている。さらに浄水器の売り込みに至っては根拠に乏しく、「とんでも理論」で販売されるのも少なくない。水さえ飲めば「すべての病気が治り、健康で長生き出来る」、このような欺瞞に満ちた言い回しが何ゆえすんなり受け入れられるのだろうか?ここにも水を病気の原因とする「万病一毒説」が跋扈する。 水道水から塩素や異物をある程度除去できれば、飲料水としてほぼ満足のいくものが得られると考えている。そのために高価な浄水器は必要なく、さらにイオン水、還元水、波動水、、、等の付加価値を求める意味など見出せない。たかが水ではないか。この点で、市販されている一般的な価格(据置型:2万円前後)のもので充分と思っているし、私もその程度のものを使用している。水の仕事も奥が深く、知識不足は否めないが、少なくとも怪しいもの、無用なもの、法外なものを淘汰する基準を決めている。
この5項目のいずれかひとつでも満たしていれば、即アウトである。この中には本当に良いものがあるのかも知れない。(..とは思わないが)しかし、この基準で篩い落とせば、九分九厘水商売に騙されることはないだろう。参考に幾つか「水」について調べてみた。 【還元水】活性酸素を除去するという意味での還元を謳ったものである。還元作用のある活性水素が、どれほど水に含まれているのか疑わしい。活性酸素自体が不安定な遷移状態のものである。活性水素が存在しうるであろうか?たとえその理屈を認めたとして、活性酸素を除去するためにどれほどの水を飲めと言うのだろうか? 【麦飯石】古くから中国で使われている岩石で花崗岩に似たものである。多孔質であるため様々な物質を吸着し、岩石の成分は溶け出しミネラルの補給になる。しかし、吸着するなら水の中のミネラルも吸着するのではないか?悪いものだけ吸着するような頭脳を持った石なのか?(笑)溶出するというミネラルが如何ほどのものか疑わしい。数時間や半日程度、石を入れて置いただけで溶出する量など殆どゼロであろう。この理屈を認めたとして、溶出したミネラルは悪いものと一緒に再吸着されないのだろうか? 【マイナスイオン水】マイナスイオンを発生するという電気製品もあり、癒しアイテムのひとつになっているが「水」に関してはトルマリンやセラミック、波動ボールなどに浸しただけのものである。木炭や竹炭を使っても同じであろう。科学の装いを凝らし、波動計で測定した数値が書かれていたりする(笑)。一流の器械メーカーでさえマイナスイオンと名打った製品を販売しているが、これらの会社には科学的研究施設はないのだろうか? 【アルカリイオン水】水に電気を通し電気分解すると陰極側の水がアルカリ性、陽極側の水が酸性になる。水を電気分解するためには電気を通す電解質が必要である。どうやら電気分解とは違うようである。浄水器を通した水に電気を流し陰極を通過したものを使い、陽極のものは排水するようになっている。アルカリ食品、酸性食品という分類に似て、なんとなく快適な「アルカリ」という言葉の響きを根拠としているのかも知れない。アルカリだったら活性酸素も中和するだろう?と、理屈は飛躍していく。 【超酸水】40万円もする浄水器から作られる「奇跡の水」、PH2.7以下の水を言うらしい。これから超酸性水、酸性水、超アルカリ水、アルカリ水、浄水の5種類の水が得られ、飲用できるのは浄水で、あとは主に外用として利用する。化粧水や、アトピー性皮膚炎のケアー、料理などに用いる。器具の構造は今まで述べたものとそれほど変わらない。電気を流したり活性炭や中空糸膜を通過させるだけで、水道水に「奇跡」が起こる。殺菌効果を期待し皮膚科の医師が外用として使う場合がある。「殺菌効果のメカニズムは未解明である」と説明しながらも、とにかく「効くものは効くのだ」と...言うことで利用するのだろう。余談になるが、本もたくさん著している実力ある漢方医がいる。出版されるたびに本を購入しその独特な治療理論に興味を覚えた。ある日、ホームページのあることを知り、惑々しながらのぞき、困惑してしまった。そこにはアトピー性皮膚炎に超酸水を推奨することが書かれていた。代替医療で成功を収めるためには奇抜な発想と信念を要するのだ。これ以降、その漢方医の本を開いたことがない。 【磁気水】磁石を水道管に挟んだだけで磁気水としている。水は磁気の影響を受けないので水が変化するとは到底思えない。変わるとすれば、水の中に極微量存在する金属イオンということになる。鉄は真っ先に影響を受けるだろう、しかし健康を左右するほどの量が含まれている筈もない。水道管中の鉄サビが吸着、除去される程度ではないか?ただの磁石に10〜30万も払う気にはならない。磁気は怪しい人々をこそひきつけるのかも知れない。 【クラスター水】クラスターの意味は、元々、葡萄の房や魚の群れなどの固まりや集団をさす。水の原子構造は変わらないが、分子構造は温度で自由度が変化する。それを指すものと思っていたが、波動エネルギーとかエントロピーなどと言う用語が登場する。活水器や整水器、磁化器などを通過したものは「世界で最高のクラスター水」になると言う。 【π-ウォータ】世界最高の水がもうひとつあった。生体エネルギーを持つ水。発明者の山下博士の説では、π-ウォーターは二価三価鉄塩を2×10マイナス12乗モル含有する水であって、この水を確実に作る方法はまだ確立していないと言う。確立していないが効果があるらしい。「効くものは効く」というレトリックがここでも登場する。では、濃度を検討してみると、1×10マイナス12乗モルは、鉄1モル(56g)を10の12乗リットル=10の9乗トン=1km×1km×1kmのプールを作って、それに貯めた水に溶かすことになる。この濃度でなんらかの働きが起こるとは考え難い。有名なホメオパシーの理論に似て、俄かに納得できない。π-ウォータを作る浄水器は、セラミックや磁石、珊瑚、活性炭などを入れ、そこを通過した後、泡を立てて出てくるようになっている。 【逆浸透膜水】浸透膜を用いて海水を淡水化する技術は確立し利用されている。しかし、混じりけのない、蒸留水に近い水が飲料水として適当かどうか検討の余地がある。完全無垢の自然派や妥協を許さない無添加信奉者には好まれそうな気がする。 調べればまだまだ様々な水や浄水器が見つかる。そして、水ビジネスは自然・健康などを冠してより高次の商品へと進化しつつある。○○の湧き水で炊くご飯、深層水で作られたビール、マイナスイオン水を使った化粧品、還元水を用いる美容室、クラスター水で打つそば・うどん、磁気水で育てた有機野菜、麦飯石や竹炭で濾過した焼酎、π-ウォーターで入れたお茶、、、おびただしい数の品揃えである。これらの水を用いるだけで、普通の商品がより価値の高いものへと変身する。しかし、その水は、ただの水道水が、言葉や器具やラベルによって変えられたものに過ぎない。 |