【食材50選(1)】


食物でどこまで養生や治療が可能かということは真摯に検討されなければならない。命を繋ぐ食としての役割以上に、薬効や効果を期待することは食物そのものを曲解しているのかも知れない。一般的に食物は薬草より作用が緩和で毒性は少ない。食物を理解する手だてとして働きや効果を知ることはマイナスではない。ところがテレビや雑誌などでその伝え方に工夫が施されると、たちまち特効薬かのような錯覚が起こる。一つの食品がある日突然、食品店の棚から消え失せ、食行動の熱狂が始まる。やがて数日、数週間で覚めていくが、溢れる食情報によって食事の内容や食行動はゆっくりと人知れず変化する。しかし食物の性質が変化したわけではない。食物の新しい作用や効果が知られたとしても伝統的で普遍的な食物の働きは厳然として存在する。

薬草は体質や症状から病理を推測し「証」をもとに運用する。これに比べると食物の摂取は習慣と嗜好によってなされる。曖昧ではあるが強固で個性的でかつ規範的な一面を持つ。食物の作用は一般的に薬草より緩和だが、摂取する分量は断然多くなる。微量の成分でさえ量が増えれば一定の薬理作用が認められ、心身に見逃せない影響を及ぼすことがある。このため食物の摂取量についてはとくに注意を払い、わずかに含有された成分に過大な期待を抱いたり、期待のあまり過剰に摂取し別の被害を蒙ったりしないように、思慮深く楽しくありたい。

他のページでも書いているが、いったん手中に納めた贅沢を果たして手放すことができるだろうか?ナチュラル、ヘルシー..という謳い文句でより豪華な食市場が広がりつつある。日本の現状では不足した成分を補うというプラス栄養学より、過剰なものを減らすというマイナス栄養学を志向すべきではないかと思う。しかし、マイナスならば良いというわけでもない食物の比率こそが重要である。玄米食や菜食など一見健康的に感じられるが、偏食の一種ともいえる。

食材の評価はもっぱら栄養学で行われるが、食習慣や伝統の知恵、または信念で行われる事もある。人の思想や行動にはどれが正当かの評価は定まらない。あふれる食情報のなか、科学的体裁をとっただけの怪しいものも見受けられる。東洋的食材の評価についても陰陽や帰経の分類や運用法に決定的な法則があるわけではない。栄養学はもっとも信頼のおける「知」ではあるが、まだ歴史は浅い。それに比べ脈々と受け継がれてきた伝統的食材の「智」には学ぶべき点が多い。

 

穀物・豆・芋類
小豆・胡麻・小麦・米・さつま芋・里芋・じゃがいも・蕎麦 
大豆・山芋
野菜・きのこ
かぼちゃ・キャベツ・胡瓜・牛蒡・小松菜・紫蘇・春菊
生姜・大根・玉葱・トマト・茄子・ニンジン・ニンニク・ネギ 
白菜・ピーマン・ほうれん草・もやし・きくらげ・椎茸
果実・種実
梅・柿・すいか・梨・ブドウ・桃・ミカン・りんご・落花生
栗・銀杏
海 藻
寒天・昆布・のり・ひじき・わかめ
牛乳・卵・肉
牛乳・母乳・鶏卵・牛肉・鶏肉・豚肉
魚介類
たい・さば・さけ・こい・あさり・イカ・エビ・カニ
調味料・し好品
塩・胡椒・砂糖・味噌・醤油・酢・蜂蜜・唐辛子・油脂
コーヒー・緑茶・ビール・清酒・焼酎・水

 


穀物・豆・芋類

【寒 熱・五 味 / 帰 経 / 効 能】
   
あずき(小豆)

平・甘酸/心・小腸/利水除湿・消腫解毒

生薬名は赤小豆と言い中国・朝鮮が原産地になる。農耕が始まったころ中国から伝えられ栽培された。灰分が多くミネラルに富みカリウム、リン、鉄、銅を多く含む。赤の色素はアントシアニンで、鉄と結合すると黒色に変色するため鉄鍋での調理は避けたほうが良い。乾燥物で4.6%の食物繊維を含むため便通が良くなる。このため老人や虚弱者の便秘に用いられる。また利尿作用に優れているため尿不利や浮腫に用いる。しかし、水分が過度に失われ脱力感が起こることもあるので、陰虚の傾向のある人や老人は注意を要する。リンがカルシウムより多いので腸からのカルシウム吸収が阻害され骨の脆弱化の恐れがある。ゆでるとリンは減少する。豆類には消化しにくい成分が含まれるため消化能力の弱い人はもちろん、健康な人でも多食は避けたほうが良い。
   
ごま(胡麻)

平・甘/肝・腎・大腸/補肝腎・潤腸通便・益精血

原産地はアフリカ北部とされている。B.C.500年ペルシャから中国へ、日本には538年仏教とともに伝えられた。蛋白質、脂質などの栄養に富みカロリーも高い。リノール酸やセサミンはコレステロールを下げ、血管の老化を予防する。必須アミノ酸をバランスよく含有し、カルシウム、ビタミンB,Eなども含まれるが、ビタミンCはまったくない。100g中にカルシウム1200mg、鉄9.6mg...他、銅、マンガン、亜鉛など微量元素を多く含み総合栄養剤とでも言うべきものである。栄養のバランスをとり、カルシウム補給を...と牛乳を奨励する人々も居るが、胡麻ではダメなのだろうか?牛乳では飽和脂肪酸の過剰摂取に怯えなくてはならないが、不飽和脂肪酸を含む胡麻ではこれが長所になる。国産の胡麻はわずかしか流通していない。多くは中国産(黒胡麻)、中米産(白胡麻)で占める。本草綱目では、生の胡麻は寒性があり、炒ると熱性を持ち、蒸すと温性を持つという。養毛の目的で使用するには必ず加熱したものを用いる。生の胡麻を食べると反って脱毛を引き起こす。肝腎を滋養し骨や血を養う。また油脂成分によって便通が良くなるので下痢・軟便の人は注意する。滋養成分のため多食すると胃腸にもたれ、食滞傾向の人は腹が張ることがある。
   
こむぎ(小麦)

涼・甘/心・脾・腎/養心益腎・除熱止渇・通淋・止瀉

人類最初の作物といわれ、世界中でもっとも生産量の多い穀物である。アフガニスタンからカスピ海南岸が原産地とされ、日本へは4〜5世紀に朝鮮半島から北部九州に伝えられた。糖質の多い高カロリー食品で、蛋白質も含まれ、胚芽にはビタミンB1が多く、繊維、リノール酸、ビタミンEなどが多い。粉食の基本食材としてパン、饅頭、麺類、菓子や酒類はじめ多くの加工食品がある。秋に蒔種し、初夏に収穫するので四季の寒・熱・温・涼の性質を備えている。小麦(涼)、胚芽(寒)、小麦粉(温)...温性の小麦粉は熱性の人が食べ過ぎると熱を助長するが、大根を同時に食べると熱毒を解消する。漢方では心神を養い、虚汗、虚熱、多汗、盗汗、口渇、不眠などに用いる。蔵躁(ぞうそう)というヒステリー様の症状には小麦を主薬に大棗、甘草を配合した甘麦大棗湯を用い、栄養を補給し心神を安定させる。胃腸の弱い人が小麦胚芽を摂取すると、胃にもたれたり胃痛を引き起こすことがあるので、煮込んでそのスープを飲んだほうが良い。小麦の蛋白質は白米以上にプロテインスコアが低く、必須アミノ酸のうちフェニールアラニンとトリプトファンだけがかろうじて基準を満たしている。パンや麺を中心の食事は検討を要する。
   
こめ(米)

平・甘/脾・胃/補中益気・健脾和胃・除煩止渇

麦に次ぐ生産量2位の穀物で世界の約半分の人口の主食ををまかなっている。原産地はインド東部、タイ、中国南部と言われ日本へは弥生時代、北九州に伝えられた。米にはうるち米ともち米があり、主食となるうるち米は精米の度合いによって、玄米、胚芽米、精白米に分けられる。玄米は栄養価が高いが消化吸収が悪く、胚芽米は玄米の栄養素を残したうえ消化が良い。米は平性で無毒、味も甘く糖質のカロリーも高いので主食として優れている。淡白な甘みは様々な副食との相性がよい。胃腸を丈夫にし力をつけ消化吸収の機能を回復させる。病中、病後の体力回復には米を中心とした食事が好ましい。疲れを癒す働きもあるので肉体疲労時の栄養としても優れている。精白した米をたくさん食べていると、栄養のバランスが崩れたり、肥満や糖尿病を引き起こす恐れがあるので、偏食しないようにバランスよく副食を摂取する。白米の食べ過ぎでビタミンB1が不足し、脚気が起こることはあまりにも有名である。この点、玄米や胚芽米はビタミンB群はじめD,E,K,Fなど豊富に含み、カリウム、鉄、亜鉛、銅、マンガン、マグネシウムなどのミネラルも多い。健康のためという理由で玄米食が増えているが消化が悪く、腹が張ったり、胃が痛んだり、下痢や蕁麻疹が起こることもある。好きであればまだしも無理して食べる必要はなく、食べる際は充分な咀嚼を心がける。スローフードの業界からは黒米、赤米、緑米、、などの高価な米が販売されているが、特に優れた必須の栄養素があるわけではない。麦や粟など好みの穀物を加えた雑穀ご飯を食べるのも良い。白米に執着する人は、不足する栄養素を副食で補う。
   
さつまいも(甘薯)

平・甘/脾・腎/健脾益気

原産地はメキシコからグァテマラにかけての中米だと考えられ栽培の歴史は紀元前3000年にさかのぼる。中国から琉球を経て薩摩に渡ってきたので唐芋、琉球芋の呼び名もある。日本では江戸時代から本格的栽培が始まり、救荒作物として数多くの飢饉を救った。糖質のほか繊維が多く、ビタミンCは100g中30mg含まれ、加熱しても壊れにくく良好な供給源となる。繊維は便通を改善し、糖質は体力・気力を充実させ、胃腸を強くし、精力を増す。主食にふさわしいものは寒熱が平で気味が甘のものが中心となる。さつま芋は様々な体質に問題なく適合するが、腹部膨満の傾向があれば繊維のためガスが増えることがある。また胃腸が丈夫で肥満の人は、肥満を助長するので控えめにする。さつま芋を食べ過ぎ胸焼けがする人は皮ごと食べるか食塩を付けると良い。黒斑のあるものを食べると、嘔吐、下痢、発熱などの中毒症状を呈し、ひどいときは死亡する。さつま芋の食欲を増進する物質はホルモン様作用があり、女性の更年期症状に有効であるが、ホルモンの関わる乳がん、卵巣がんなどには悪影響を及ぼすので控える。
   
さといも(里芋)

平・甘辛/脾胃/軟堅散結・化痰消腫・調和胃腸

原産地はインドでマラヤ民族の移動とともに広がり、ミクロネシア、ポリネシア、オーストラリア、ニュージーランドに及び、そこではタロイモと言う。日本へは縄文時代中期、中国を経て伝わり、稲より古い歴史を持つ。「さといも」は「やまいも」に対する呼び名で畑に植えるという意味がある。世界中で200種以上が知られている。糖質は17%と少ないので満腹の割には摂取カロリーは低い。胃腸の気を養い、胃腸の粘膜を強化する。里芋・山芋・おくらなどのヌルヌルした成分はムチンという蛋白質と糖類の結合したもので、これが胃腸の粘膜を保護する。ムチンは体内でグルクロン酸になり肝臓を保護し、唾液腺のホルモンの分泌を高め、消化を助け、滋養強壮の効果がある。多食するとガスが溜まって腹が張ったり、水分代謝が滞ることがある。生はシュウ酸カルシウムのアクのためえぐみがあり、手で触れると痒くなったりする。外用で腫れ物、凝り、打ち身、捻挫を解消する働きがあるので、自然療法家の間で「里芋シップ」として繁用される。限度を認識し万病に用いることは戒めたい。
   
じゃがいも(馬鈴薯)

平・甘/胃・大腸/健脾益気・和胃通便

じゃがたらいもの略称でジャカルタの意味がある。南アンデス山脈が原産でアイルランドからヨーロッパに広まり、日本へはオランダ人によりジャカルタから長崎に伝わった。ビタミンB1,Cが豊富に含まれでんぷんに被われているため加熱分解されにくく吸収されやすい。カロリーが他の芋類や穀物より低く、ダイエットのための主食に都合が良い。芋類はカリウムの含有量がナトリウムに比べ圧倒的に多いので、高血圧の予防に有効である。やや寒性寄りのため、冷え症の人の多食は好ましくない。ジャガイモはナス科の野菜で有毒成分があり、これが欠点ともいえる。ソラニンという中毒物質が0.005〜0.01%含まれているが、この程度なら熱に弱いので加熱すると中毒は起こらない。しかし発芽すると0.3〜0.5%に達し、人の場合0.2〜0.4%で中毒が起こり腹痛、嘔吐、めまい、眠気、発声・視力障害、意識障害などが現れる。発芽部分や緑色の皮の部分は丁寧に取り去って調理する。ソラニンとは別にセプシンという、腐敗したときに発生する中毒物質も知られている。また調理の際、高温の油で揚げることで発生するアクリルアミドにも注意を要する。
   
そば(蕎麦)

涼・甘/脾・胃・大腸/下気消積・消瘰癧・止帯濁

中央アジア原産でシベリア、中国東北、朝鮮などの寒冷地で栽培され、日本へは8世紀に伝えられた。最初は皮を除き米と一緒に炊いていたが、江戸時代から麺として食べられるようになった。穀類のほとんどは稲科だが蕎麦は蓼科に属する。食のグローバル化で現在境界はないが、西日本の「うどん文化圏」、東日本の「そば文化圏」があった。佐賀はうどん文化圏で、昭和50年代まで蕎麦を出す飲食店はまったくと言ってよいほど見当たらなかった。50年代に東京に住んだことがあるが、駅の立ち食いうどん屋でほとんどの客が「蕎麦」を食べているのに驚いた。余談になるが、ラーメンも豚骨味(西日本)、醤油味(東日本)という違いがあったが現在はどこでも、海外でも食べられる。東京へ「長崎チャンポン」をお土産に持参しても、東京のデパートで同じものが入手できる。「産地直送!」などといって渡す次第。北海道のデパートで沖縄の泡盛を買ったこともある。蕎麦にはいつの間にかヘルシーというイメージが形成され、素人でも短期にひととおりの技術が習得できるので、脱サラの業種に選ばれることが多い。佐賀にもいまや蕎麦専門で行列のできる店があるくらいだ。また、うどん文化圏佐賀に近年、たぬきならぬ「さぬきうどん」の進出が著しい。硬く、ゴムのような麺は国産の小麦では打てないという。コシのある...という表現で賞賛されるが、私は好まない。足で踏みつけて作るようなうどんは食べる気がしない。佐賀には「だご汁」といって地元産の小麦粉で打つうどんがある。ニンニクと鯨肉を炒めだし汁をつくる。ぶつぶつと切れて軟らかい..これが美味い。さて、蕎麦はナイアシン、トリプトファンなど多く、全体のアミノ酸価も92と優れている。ビタミンB1,B2、ルチン、食物繊維、オレイン酸、リノール酸など含みカロリーも高い。整腸作用があり食滞や水滞を除き、胃腸の機能を健やかにし食欲を回復させる。ルチンはビタミンPとも呼ばれ血圧の上昇を抑え、血管を強化するので高血圧や動脈硬化、生活習慣病の予防効果が叫ばれる。しかし、いくらか体を冷やし、消化しにくい性質もあるので胃腸虚弱者や小児、老人は多食しないほうが良い。多食によって胃の粘膜が荒れ、出血する例もたびたび見られる。アレルギーによる死亡事故の報告もある。
   
だいず(大豆)

平・甘/脾・胃・大腸/健脾益気・化湿解毒

原生種は中国北部、シベリア、日本に野生するノマメであると言われる。日本、中国から全世界に広がり1000品種に及ぶようになり、五穀(米・麦・粟・稗・豆)の一つとして重用されてきた。植物蛋白が豊富で「畑の肉」と呼ばれベジタリアンにとって欠かせない蛋白源である。穀物に不足するリジン、スレオニンという必須アミノ酸を含むため、大豆を組み合わせることで補うことができる。浄血・利尿作用があるが利尿作用は蛋白質によるものなので腎炎の人には適さない。消化が悪いので体質に関わらず食べすぎは良くない。リノール酸、ビタミンEを多く含み大豆サポニンとともに、コレステロールを下げ脂肪代謝を改善する。また抗酸化作用を持ち、様々な病気の原因となる活性酸素の害を緩和する。ダイズオリゴ糖は腸の善玉菌を増やす。ポリフェノールの一種であるダイゼンは女性ホルモン様作用をもち更年期以降の骨粗しょう症予防や免疫力向上作用がある。リノール酸などの不飽和脂肪酸は長時間空気に触れながら加熱すると、過酸化脂質に変化するので炒った豆は多食を避ける。優れた蛋白源ではあるが、卵、乳製品に次いで食物アレルギーの原因になることがある。
   
やまのいも(山芋)

平・甘/肺・脾・腎/健脾補肺・益気養陰・益精固腎

やまいも科にはながいも、つくねいも、やまといもなど多くの種類があり原産地は中国の華南西部の高原地帯である。ながいものことを自然薯、薯蕷とも書き、漢方では山薬と言い滋養強壮に用いる。いも類のなかで生で食べられる唯一のものである。気血を補い陰虚を潤し、腎の働きを高め精力を増進する。でんぷん質にはアミラーゼ、ジャスターゼ(大根より多い)を含み消化を助け胃腸を丈夫にするが、加熱すると失活するので生のまま食べるほうが良い。ねばねばした成分のムチンは老化防止、血糖降下、動脈硬化予防などの作用が知られている。また、カテコールアミンの一種である中枢興奮物質を含むため強壮・強精剤として用いる。ねばねば成分の多い自然薯が最高とされる。山芋を掘りに行けば、地中深く岩の隙間でさえ貫く生命力に驚かされる。このような力が滋養強壮につながるのかも知れない。滋潤作用で水分を体内に溜めたり、胃腸にもたれ腹が張ることがあるので食べすぎに注意がいる。
   

野菜・きのこ

【寒 熱・五 味 / 帰 経 / 効 能】
   
かぼちゃ(南瓜)

温・甘/脾・胃/温中平咳・殺虫解毒

日本かぼちゃ、西洋かぼちゃ、ポプキンに大別される。日本かぼちゃはメキシコ南部から中央アメリカが原産地といわれ日本へは江戸時代にカンボジアから伝来したとされる。これが「かぼちゃ」の名の由来である。西洋かぼちゃは南アメリカ原産で寒冷地のヨーロッパで広まり、日本へは明治時代に北海道で生産が始まった。ポプキンはメキシコ原産で16世紀にイギリスに伝わるが日本への伝来は明治時代になる。ビタミン類が多く西洋かぼちゃは100g中39mgのビタミンCを含み、かぼちゃを食べる分量を考慮すると2〜3切れで1日必要量の半分をまかなえる。ビタミンEやビタミンAの元となるβ-カロテンも豊富に含まれている。また、野菜のなかでコバルトが最も多く含まれ、コバルトは膵臓のインシュリン分泌細胞の必須元素であるため糖尿病の食養に期待される。胃腸の消化能力を高め元気をつける。温性なので冬季の食物として体が温まり、冷え症の人に用いて良い。ビタミンB1が少ないので不足は他の食物で補わなくてはならない。食べ過ぎると皮膚が黄色になる柑皮症となり肝臓に負担がかかることも考えられる。漢方では種子を南瓜子と言い条虫駆除に用いる。果肉と種子では作用も異なっているが、用部を明確にしないまま「かぼちゃは虫下し」に良いとする情報が流れると、一般では混同が起こる。意図的に効能を広げ商利用する傾向さえある。食物に限らず用途、用部、用量、用法などは正確に情報を伝え、また、読み取らなくてはならない。
   
キャベツ(甘蘭)

平・甘/胃・腸・肝/健胃通絡・清熱散結

有史以前から食べられた記録があり、世界で最もポピュラーな野菜である。原種はヨーロッパの大西洋岸から地中海、アドリア海にかけての岩地に生えている。日本へは中国より早く18世紀にオランダ人によって持ち込まれた。当時は非結球で観賞用にされ、球状になったものは明治初期頃に広まった。ビタミンC,B1,B2、ナイアシンとともにカルシウムが多く、骨や歯の脆弱化予防に役立つ。ビタミンU(正しくはビタミン様作用物質と言う)はキャベツで最も注目され、抗潰瘍作用を持つサプリメントとして流通している。錠剤などにはキャベツ数キロ分のビタミンUが配合されている。通常の食事でキャベツ数キロを食べることは現実的ではなく、キャベツ=潰瘍治療..とは言えない。本草書では「骨髄を補い、五臓六腑を利し、関節を利し、経絡中の結気を利し、耳目を明らかにし、人を健やかに、睡眠を少しにし、心力を益し、筋骨壮健にする」とある。これでは病気になりようがなく、言い古された言葉だが「キャベツさえ食べておけば医者は要らない」ことになる。書物やテレビなどで古典の記述を検証もせず、丸ごとキャベツの効能としたり、治療効果まで謳うことがある。食に過剰な期待を寄せ、食材のひとつに過ぎないものを偏食することは避けたい。野菜類は加熱によってビタミンが失われるため生食の利点はあるが水分も多く、体を冷やし水滞の起こることがある。また、キャベツやかぶ類には甲状腺腫を引き起こす物質があり、甲状腺の病気や既往歴のある人は過剰な摂取を控える。
   
きゅうり(胡瓜)

寒・甘/胃・小腸/清熱止渇・利水消腫

ヒマラヤ原産で漢時代に中国に持ち込まれ「胡瓜」と呼ばれた。日本へは平安時代頃に伝来したが下等な瓜とされ人気はなかった。ビタミンA,Cを含有し、カリウムが100g中270mgと多いので利尿作用があり、漢方でも利尿、消腫に効果があるとされる。清熱止渇作用があり、口渇のある糖尿病や夏バテの予防に良い。しかし、寒性のため体が冷えやすい人や虚弱者、小児は控えめに。また妊婦は腹を冷やすことで胎児の発育に悪影響を及ぼす恐れがあり避けたほうが良い。ごぼう、ほうれん草、茄子、苦瓜(ゴーヤ)、トマト、レンコン、竹の子、バナナ...などいずれも多食に注意が要る。胡瓜のピクルスは古来から歯に良くないとされ、もっぱら味噌や醤油や塩で味付け保存されてきた。根拠は定かではないが、気に止めておくべきかも知れない。寒性の食物は温性を持つ生姜やネギと一緒に調理、保存すると寒性が緩和される。唐辛子もよく用いられるが辛味強烈(大辛)で、ともすると温性に走りすぎるため少量にとどめておく。
   
ごぼう(牛蒡)

寒・苦辛/肺・胃/疎散風熱透疹・解毒利咽

野生の牛蒡は広範囲に見られるが、野菜としては中央アジア、中国をへて平安時代に日本へ伝わる。漢方では種子を解熱消腫、咽痛止咳薬として用いる。日本では種子を別名「悪実」とも言う。茎を食用にするのは日本が主で1000年以上の歴史がある。低カロリーで食物繊維が多く便秘を改善するが、消化に悪いので下痢気味や胃腸虚弱の人には勧められない。牛蒡の繊維は白米や肉などに比べ20〜30倍の水分を吸収し腸内を健全に保つ。また繊維は飲食時の急激な血糖の上昇を緩和するが、反面ミネラルの吸収も悪くなる。種子は確かに苦いが、茎はそれほど苦いものではなく薬性については甘という見方もある。種子と茎では性質も異なると思われるが本草綱目では茎にも疎散風熱透疹・解毒利咽の薬効が記されている。アミノ酸の一種、アルギニンを含有し、このため滋養強壮、精力増強に用いる。また、女性ホルモンの分泌を促すので婦人病にも良いと言うが、ホルモンと関わりのある乳がん、卵巣がんの人は控える。
   
こまつな(小松菜)

平・甘/脾・胃/清熱除煩・通利胃腸

アブラナの変種で中国では青菜といい、原産は地中海沿岸である。鎌倉時代に中国をへて日本の江戸川区小松川に伝わった。全国で生産されるが小松川地区の生産量は全国のトップである。ビタミンA,B,Cをはじめ、カリウム、カルシウム、鉄、亜鉛、銅などが他の葉野菜に比べ多い。食物繊維も多いので胃腸の働きを良くし便通を促す。また体内の熱を除く働きがある。ガンを予防するモリブデンと同時に発ガン性のある亜硝酸塩を含有する。冷蔵庫に2〜3日入れて茶色になったものは亜硝酸塩が発ガン物質のニトロソアミンに変性した恐れがあるので食べないほうが良い。葉野菜は加熱によるビタミンの損失が大きいので加熱調理は短時間にする。
   
しそ(紫蘇)

温・辛/肺・脾/発表散寒・行気和胃・解毒

原産は中国で10世紀頃日本へ伝わる。青紫蘇、紅紫蘇に区別され、青はβ-カロテン、紅は目に良いアントシアニン系色素(シソニン)を含む。香りのもとはシソアルデヒドで甘味を持つ。漢方薬として用い紫蘇葉又は蘇葉、種子を紫蘇子と言う。葉にはビタミンAが植物の中で最も多く、CやB群も豊富に含んでいる。またカリウム、カルシウム、マグネシウム、鉄、亜鉛、マンガン、銅など必須のミネラルも多い。ただし香味野菜はたくさん食べるものではないので、これらの摂取源にはなりにくい。辛温の働きで軽い風寒の風邪の発表や、老人や虚弱者のすっきりしない風邪に用いる。種子は鎮咳、去痰作用があり喘息の漢方処方に配合される。芳香成分は嘔吐を抑制し胃腸の働きを良くする。気の巡りも改善し軽度の不安感などを晴らす。古くから魚、貝、蟹の解毒剤として知られ、魚に寄生するアニサキスを死滅させる力もある。芳香成分は精油なので乾燥や加熱で失われる。できるだけ生で、乾燥しても新鮮なものを用いる。
   
しゅんぎく(春菊)

平・辛甘/肝・肺/化痰止咳・降圧・通便

地中海地域が原産でヨーロッパでは観賞用として広まり、中国を経て室町時代に日本へ伝わる。食用にするのは中国、東アジア、日本だけである。β-カロテンが多く他にビタミンA,C,B2,Eやミネラルが含まれている。食物繊維が1.6%もあるので胃腸の働きを良くし便秘を改善する。キク科の植物は肝・肺へ帰経し肝気を巡らし、肺の粘膜を潤し痰を解消する。眼精疲労や目の充血にも用いる。加熱によりビタミンが壊れやすいので、鍋物など軽く湯通して食べるとあるていどの量を摂取できる。
   
しょうが(生姜)

温・辛/肺・脾・胃/解表散寒・健脾止嘔・除臭解毒

インド、マレーが原産といわれ日本では3世紀頃から用いられた記録がある。広くヨーロッパでもスパイスや薬として利用される。日本では戦前まで輸出するほど栽培されたが、現在では東南アジアからの輸入に頼っている。旬のものは「子姜」、霜が降りた後のものは「老姜」といい辛味が益し薬用とする。干したものを「乾姜」といい発散作用は弱くなるが胃腸に対する温熱作用は高まる。辛味成分のジンゲロンはチフス菌、コレラ菌、トリコモナス菌などに対する殺菌力があり、寄生虫のアニサキスを死滅させる効果もある。香り成分のジンギベロールは魚の蛋白質と結合して臭みを消し、消化液の分泌を促す。このほか発汗、鎮吐、健胃、鎮咳・去痰、温熱、中枢興奮などの作用が知られている。胃腸を温め、風邪など体表の寒は発散させる。この性質のため皮膚病が悪化する恐れがある。また辛味成分が排便時に肛門を刺激するので痔疾患の人は多食を控える。生の生姜はカリウムを多く含むがビタミン類は非常に少なく、スパイスとしての役割がもっぱらである。たくさん用いるものではないが食べ過ぎると、効能がそのまま副作用にもなり、のぼせ、イライラ、胃炎、下痢、吐き気などを引き起こす。腐った生姜は肝臓に毒性を持つ発ガン物質の存在が知られているので、茶色に変色した生姜は食べないよう注意する。
   
だいこん(大根)

涼・辛甘/肺・胃/消食化痰・降気和中

原産地は中央アジアという説が有力で、エジプトで4700年前から利用された記録がある。日本へは奈良時代に中国を経て伝わり本格的な栽培は江戸時代に入ってからになる。切干大根や漬物などの加工が行われ、切干大根にすると栄養が濃縮され保存に耐えるので救荒時の飢餓対策に用いられた。根と葉では栄養成分も用途も異なる。根は、おろし、煮物、漬物と応用範囲が広く、おろしにはジャスターゼなどの消化酵素を含み食べ過ぎによる消化不良、胸焼け、二日酔い、食中毒、口内炎などに効果がある。民間療法では蜂蜜を加え風邪、頭痛、声枯れに用いる。焼き魚におろしは付きものだが、おろしは焦げた部分に存在する発ガン物質を中和する働きがある。また麺や餅類などの消化を助け、もたれを防止する。涼性とされるがイソチオシアナート系の辛味成分が先端の部分に多く、温性説もある。おろしやサラダなどの生(なま)と加熱調理して食べるのでは寒熱に差が出てくる。根に比し葉はビタミンA,Cが非常に多く加熱による減少率も少なく、他にビタミンPやミネラルも含まれる。普通、葉は捨ててしまうが丸ごと利用することでより多くの栄養素が摂取できる。おろすときビタミンCが酸化して効力を失うので金属製の道具は避けるほうが良い。おろしは水分が多く、胃腸が冷えやすく下痢傾向の人は多食を控える。大根とニンジンを一緒に調理するとニンジンのビタミンC酸化酵素で大根のビタミンCが壊れてしまう。この酵素は酸に弱く、酢料理にするとビタミンCが温存される。「酢和えは理に叶っている」と先人の知恵に敬服しつつ...分析機器の無かった時代に理屈などわかるはずもなく、味覚を頼りの調理が現代科学で確認されたものだ。
   
たまねぎ(玉葱) 微温・辛/肺/化痰・利水化湿
古代エジプトで栽培された記録もあるが原産地は中央アジアで、日本へ伝わった歴史は浅く明治初期になる。2つの経路があり、クラーク博士に同行したブルックス博士がアメリカ産の種子を持ち込み、札幌農学校で栽培が始まった。もうひとつは、泉州(南大阪)の農業関係者が神戸の外国人居留地のアメリカ人から入手し栽培が始まった。泉州産は明治末になると輸出をするまでになった。ニンニクと同じアリシンが含まれビタミンB1の吸収を良くする。アリシンは発ガン物質を分解する肝臓の酵素の働きを助けることが報告されている。胃腸を温め消化を促進し、体表を温め発汗を促し肌の新陳代謝を高める。利水作用があるので浮腫みや痰を解消する。スパイスの役割もあり、保存もきくし調理によって甘みや旨みが出てくるので料理には欠かせない。南方の戦地に行かれたお客様の話だが「とにかく食べるものがなく現地の人に頼んで、煙草を小さな玉葱と交換して食べたところ、夢精が起こるほど精力がついた」と言っておられた。ニンニクと同じように強壮、強精の用にも供するのか?案外、栄養失調状態であれば何を食べても精がつくのかも知れない。玉葱の抽出物からコレステロールを下げる成分や、血栓を溶解する成分が知られている。血栓を溶解する成分のひとつはサイクロアリインだと考えられ、玉葱には類似物質が10種類ほど含まれている。またキツネ色の表皮の成分であるケルセチンは血圧降下作用があると言われる。まったく、捨てるところのない野菜だ。アリシンを含むため生で食べると臭いが気になることがある。臭いや辛味を軽くする目的で水にさらすと、せっかくのアリシンが逃げてしまい効果も減少する。そのまま、炒め料理の最後に加えると良い。
   
トマト 微寒・甘酸/肝・脾・胃/健胃消食・生津止渇
ナス科の野菜で別名、赤なすといわれる。ペルー、エクアドルの高原地帯が原産になり、日本へは江戸時代に伝来した。当時はミニトマトほどの大きさで明治に入って現在のものが栽培されるようになった。水分が多く低カロリーで微寒性のため、のどの渇きや、肥満、高血圧、糖尿病などの食養に利用される。クエン酸、リンゴ酸、グルタミン酸など有機酸類を含み肝の代謝を助けるが冷え症の人の多食は好ましくない。酸を含むためビタミンCの破壊を防ぐ。しかし、きゅうり、ニンジンなどビタミンCを破壊する酵素を持つ生野菜と一緒に食べないほうが良い。トマトの成分で有名なリコピンはカロチノイド系の色素でβ-カロテンよりさらに強い抗酸化・抗がん作用を持つといわれている。リコピンは日光を浴びて完熟するにつれて生成される。未熟なものは逆に毒性のあるソラニンが含まれ吐き気、嘔吐を引き起こす。リコピンはサプリメントが販売され、1日の摂取目安が約10mgに設定されている。トマト300gが錠剤数個で済むことになる。リコピンを求めてトマトを暴食する人、サプリメントで満足する人、様々あるがリコピンだけで健康が叶うわけではない。
   
なす(茄子) 涼・甘/脾・胃・大腸/消腫利尿・健胃和胃・清熱
インド原産で中国では観賞用として栽培され、日本へは7世紀頃に伝来したといわれる。冷やす性質の強い野菜なので小児、冷え症、胃腸虚弱、老人は控えめに。妊婦においては子宮を冷やし胎児の発育を悪くするので「嫁に食わすな秋茄子」を守るほうが良さそうである。逆に体にこもった熱を収め、利尿によって腫れを治す。紫色の皮には抗酸化・抗がん作用があるというポリフェノールと、毛細血管を強化し出血を予防するビタミン様物質のルチンが含まれている。加熱調理し生姜などのスパイスを用いたり、漬物にすることで冷やす性質が緩和される。茄子のヘタの黒焼は内服で胃がんに、外用で歯痛、口内炎に効くといわれ、なすの黒焼粉の歯磨きは自然派の人々に支持されている。
   
にんじん(人参) 平・甘/肺・脾/健脾胃消食・潤燥明目・降血糖血圧
子供の嫌いな野菜のトップ3(ピーマン、にんじん、トマト)に名を連ねるが世界中で栽培される重要な根菜のひとつである。16世紀頃、中国経由で日本へ伝えられた東洋系品種と、江戸後期にイラン経由でヨーロッパへ伝えられた西洋系品種に分類される。現在、流通しているのは西洋系が中心である。薬用人参と混同され、形態は似てなくもないが、色、科名や属種、効能は異なる。ビタミンAを豊富に含む栄養価の高い野菜で、赤い色はビタミンAの前駆物質であるカロテン色素によるものだ。カロテンはα-,β-,などがあり、抗酸化・抗がん作用が知られている。しかし、カロテンの過剰摂取でがんの発生率が高くなるという報告もある。カロテンは皮に多く含まれ油とともに食べると吸収が良く、油炒め、てんぷらなど調理法を工夫する。β-カロテン→ビタミンAにより、夜盲症のほか眼精疲労、結膜炎、仮性近視、老眼、白内障など目の働きを助ける。このほか胃腸の働きを良くし、食滞を除き気の巡りを良くし五臓を調和させる。血圧や血糖を下げる作用も確認されている。人の健康を害することのない野菜とされているが、ジャガイモで存在が知られる毒物のソラニンが含まれる。また、1日50g以上を食べると肝硬変になる恐れがあるという。ニンジンに限らず緑黄色野菜の過食の甚だしいグループに肝硬変が多いというオーストラリアの疫学調査がある。菜食=健康というには適切な量が考慮されなくてはならない。
   
にんにく(大蒜) 温・辛/脾・胃・肺/解毒殺虫・除痰止咳・降血脂血圧
中央アジア原産で古代エジプトで用いられた記録も残る。漢時代以降に中国に伝わり、日本へは4〜5世紀頃伝来したとされる。現在、生産量の半分は中国で栽培されたものである。ビタミンB1が豊富で、臭いの成分であるアリシンは熱に弱いが強い殺菌力がありビタミンB1の吸収を高める。この2つの成分を合成した薬がアリナミンである。アリシンは加熱するとアホエンに変わり血流をよくする働きがある。他にも消化器がんの予防に有益な微量元素のゲルマニウム、セレンを含んでいる。肉料理のスパイスとして用いると味覚を益し、消化を促進し食滞を除く。血中のコレステロールを下げるので動脈硬化や高血圧の改善にもつながる。生のにんにくは強力な殺菌作用があり、回虫などの寄生虫を駆除し食中毒の予防になる。また外用で水虫や田虫にも効果がある。強壮、強精、疲労回復その他多くの効果を謳ったサプリメントが販売されているが、ビタミンの豊富な緑黄色野菜や肉料理のスパイスとして用いるくらいが適量である。ニンニクの最大の欠点は異臭である。これには周囲の人にも食べさせるという対策が最も有効であろう。加熱する、牛乳を飲む、他のスパイスを同時に用いる...などあるが、とくに紫蘇は無臭化に最適だとして製品化を計画していた先輩の薬剤師が居た。温性なので、のぼせ症や熱産生の活発な人、炎症性疾患の最盛期には多食を避ける。また生で食べ過ぎると胃炎を引き起こしたり、腸内細菌まで殺菌し激しい下痢を催す恐れがある。
   
ねぎ・(葱) 微温・辛/脾・胃・肺/解表散寒・宣通陽気
シベリアのアルタイ地方が原産といわれ日本では10世紀頃から薬用や食用に栽培された。ビタミンB1,B2,Cなどを多く含み、辛味で気を昇らせ風寒の風邪を発汗し追い出すので古くから民間療法に用いられる。発汗作用が強いので多汗症、のぼせ症や熱を帯びやすい人が多食すると過熱状態になり、のぼせて目ヤニや抜け毛が生じる。漢方では葱の白い部分を葱白といい発汗・利尿剤として用いる。切るとき涙を誘発させる成分は硫化アリルで、その一種がニンニクや玉葱で馴染みのアリシンである。生は殺菌作用が強く、ビタミンB1の吸収を促進し新陳代謝を活発にする。また血液凝固を抑制し血中の脂質を減らし血液の流動性を保つ。古い文献で、葱は蜂蜜と相性が悪く、一緒に食すると胸が苦しくなったり下痢などを起こすと書かれており、近年でも中毒例が確認されている。葱は貧血に良いとされるが、食べすぎで逆に貧血を引き起こすことがある。硫化アリルの一種、硫化アリルプロピル化合物が含まれ、犬猫の赤血球はこれを無毒化する力が弱い。このため酸素を運搬するヘモグロビンが酸化され失活し、呼吸機能が低下するため血液中の酸素が減少し貧血状態になる。硫化アリルプロピルは人にもよくないが、普通の食事量では人の赤血球が無毒化して中毒症状を起こすことはない。
   
はくさい(白菜) 平・甘/胃・腸・肝・腎・膀胱/清熱除煩・利尿滲湿
地中海・中央アジア原産で2000年以上前に中国へ伝わった。中国では「パイツァイ」といい明治末期、日本に入り別名、唐菜ともいう。全国で栽培されるようになったのは昭和時代になる。栄養価はキャベツと同等で年中流通しているが秋から冬が旬である。生でも食べられ、鍋物、煮物、漬物と広く利用される。ビタミンA以外のビタミン類は期待できるほど含まれていない。その代わり食物繊維が豊富で、多くを食べても体を冷やすことが少なく、アクも少ない。食物繊維の働きで胃腸の動きを良くし消化を促進する。便通も改善され食滞や酒毒を解消する。加熱するとビタミンCが破壊されるので2〜3分ほどにとどめると80%は温存される。白菜単独では他のビタミン類が不足するので緑黄色野菜と組み合わせて食べるほうが良い。普通は食べない根の部分には、発ガン物質のニトロソアミンの合成を阻害するモリブデンが多く含まれるので利用が期待される。
   
ピーマン 平・微辛甘/心・胃・腎/清熱除煩・平肝和胃
ナス科の野菜で唐辛子の甘味品種になり、英語でスイートペッパー、グリーンペッパーという。ブラジルが原産で、15世紀にコロンブスがアメリカからヨーロッパへ持ち帰った。日本へは16世紀、ポルトガル人によって伝えられたと言う。日本、中国、朝鮮では辛味の強い品種が、ヨーロッパでは辛味の弱い品種が広まった。ビタミンCが多量(80mg/100g)に含まれビタミンAやナイアシンもかなり多い。体内にこもる熱を除くため夏バテに良い。肝のオーバーヒートを防ぎ、気の巡りを良くし五臓六腑の機能を調節する。普段、食べない葉には良質の蛋白質が多く、利用が望まれる。大型のピーマンや旬を外れたハウス物は栄養価が落ちる。辛味成分のカプサイシンが少量含まれるので生の多食は、胃腸や痔疾患の刺激物になったり皮膚病などを悪化させる恐れがある。
   
ほうれんそう(菠薐草) 涼・甘/大腸・胃/清熱除煩・止渇・通便
波斯草(ペルシアの当て字)といい原産はペルシア(イラン地方)である。江戸時代初期に中国から東洋種が伝来し、明治初期に西洋種が導入される。東洋種は葉がギザギザで寒さに強く霜を受けると甘みを増す。ビタミンAの前駆物質であるカロテンが多く、ビタミンB1,Cも含まれている。ビタミンCはレモンの2倍含まれ、100gのほうれん草で1日の必要量をまかなえる。野菜の中では鉄分が多く葉酸という増血ビタミンも含まれるので、鉄欠乏性貧血の食養に用いるが吸収効率は大豆の鉄分に劣る。根の赤い部分にはマンガンが含まれ、これも増血に関与する。膵臓のインシュリンの合成や分泌に必要な亜鉛も多く糖尿病の食養に取り入れると良い。涼性のため糖尿病などに見られる咽の渇きを癒し、食物繊維は便通を良くする。しかし、多食すると胃腸が冷え下痢や食欲不振を引き起こすことがある。温性の野菜と一緒に調理すると涼性が緩和される。アクが強く渋みや苦味があり、胃で発ガン物質のニトロソアミンになる硝酸塩も含まれている。また、尿路結石の発生やカルシウムの吸収を阻害するシュウ酸カルシウムが多量に含まれるため生食には適さない。ちなみに、生で食べるバナナはほうれん草の10倍ものシュウ酸カルシウムを含んでいる。結石の恐れがない人であれば、ほうれん草40〜50gくらいなら毎日食べても大丈夫である。ヒスタミンやプリン体が多く、多食によってアレルギー症状が増悪したり発作を起こすこともある。本草綱目では「微毒があり、多食すると脚が弱り腰痛になる」と記されている。アクなどがあるため茹でて食べるが、長時間茹でるとビタミンが壊れミネラルが流出するのでほどほどにしておく。
   
もやし(萌) 寒・甘/脾・胃・膀胱/清熱・利湿・除疣
字義のとうり芽が萌出ることが名前となっている。植物の種が発芽することを発見した時から始まり、もやしの利用は各地で古くから行われている。日本では、平安時代に書かれた「本草和名」に「毛也之(モヤシ)」として記述され、薬用に栽培された。豆を発芽させることで、豆にはないビタミンCが産生される。水分が多いので元の豆に比べると蛋白質は1/6.5、糖質は1/8、脂質は1/8.5、鉄は1/13と少ない。冷やす性質があるため、のどの渇きや体に熱のこもりやすい人には良いが、冷え症や胃腸虚弱の人は、温性の食物と炒めるなどして寒性を緩める。和漢三才図会では痺れ膝の痛み、筋肉痛に効くとされている。また、イボやポリープのある人は食事に取り入れると良いかも知れない。
   
きくらげ(木耳) 平・甘/肝・胃・大腸/活血涼血止血・潤肺益胃・利腸
梅雨から初秋にかけて朽ちた広葉樹に発生する茸で黒と白がある。白きくらげが上等品とされ手触りがブヨブヨとし、形も人の耳に似ているので木耳といわれる。ビタミンB群が多く、抗酸化作用を持つビタミンEも含まれる。水様性のアデノシンは血小板の凝集を抑制し、中性脂肪を分解し血液を正常に保つ。黒きくらげには鉄とカリウムが多く貧血や高血圧に良い。また吐血や血便、痔出血などに効果があり、桑の木にできた木くらげは女性の出血性帯下や不妊に良いといわれる。カロリーはほとんどなく食物繊維が多いので便通を良くし腸内の異常発酵を防ぎ、肥満防止に良い。生のきくらげはポルフィリン化合物が含まれ皮膚の痒みや腫れ、痛みを引き起こす。この毒性は乾燥することで除かれる。きのこ類はいわば、朽ちた木や朽ちかけた木に寄生するガンのようなものだ。「寄生物そのものを薬に..」という同種療法の考え方でガンの予防や治療に用いられることが多い。霊芝・サルノコシカケ・アガリクス...色々あるにはあるが、きくらげ、エノキタケ、マッシュルーム、椎茸、、、など食事に取り入れることで十分である。
   
しいたけ(椎茸) 平・甘/胃/益胃気・托痘疹・止血
椎の木に多く発生することから名づけられた。栽培が始まったのは江戸時代で、主に日本や中国で生産されている。最初はシイやクヌギなど広葉樹の原木に傷をつけ、胞子が自然につくのを根気よく待つ栽培方法だった。やがて人工的に胞子を植え付けるようになり、現在では年間を通して栽培されている。エルゴステロールを多量に含み、日光を浴びるとビタミンDに変化する。生より干して利用するほうが良い。干したものでも時間の経過と共にビタミンDが減少するので、月に一回くらいは日干しをするほうが好ましい。ビタミンDは骨粗鬆症の治療や予防に用いられる。旨み成分にはグアニル酸、グルタミン酸、イノシン酸が含まれ、香り成分には、レンチニンが含まれる。レンチニンは椎茸の食物繊維に含まれるβ-グルカンとともに免疫系に関与しガン予防などに効果があると言われる。フィトステリンはコレステロールの血管沈着を抑えるので動脈硬化、高血圧の予防に期待される。椎茸にはニラやネギなどの臭気を除く働きがあるので鍋物の一品として用いると良い。胞子には抗ウイルス作用をもつ物質が含まれ、インフルエンザはじめウイルスが原因となる疾患の助けになるかも知れない。しかし、栄養学者、川島四郎先生の著書によると胞子と酒を一緒に飲むと悪酔いすることが書かれている。発ガン性のあるホルマリンを200ppmほど含有するという、これが肝臓の代謝を悪くするのであろう。椎茸を煮るとホルマリンは減少する。

 

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