【雑記帳(薬草)】
茴香には大・小2種類があり、大茴香は中国料理によく使われ、別名八角といわれる。小茴香:セリ科の成熟果実、大茴香:モクレン科の果実、薬用としては小茴香が使われ大茴香はスパイスとして利用されることが多い。薬効は体を暖め痛みを止める効果があり寒を感受して起る胃痛、腹痛に用いる。また芳香性の成分により、食欲不振や嘔吐などにも応用される。 サバ、タラ、イカなどの生もの(刺身)を食べると、胃腸に激しい腹痛を起こすアニサキスという寄生虫がいる。これが賑やかに報道されたころ、ひっそりと記事の片隅に茴香が載った。漢方業界にとっては大きなニュースだったのだか、一般にはそれほど馴染みがなさそうである。茴香の芳香性成分アネトールがアニサキスの活動を弱めたり殺虫するという報告である。新薬には今のところアニサキスに対処できるものがなく、病院に駆け込めば内視鏡を使い虫をつまみ出す方法しかない。 東京都立衛生研究所の実験では、生薬約150種の成分を薄い食塩水で溶かし出し、その液を、寒天に乗せたアニサキス7匹づつにかけた結果、特に安中散(散剤)の液をかけた時アニサキスは3時間後に、すべて死んだり動けなくなったと言うことが解った。そこで茴香のアネトールに着目した実験の結果、アネトールにより半分以上の虫の首部が裂けて死ぬことが確認された。この成分が最低1mlあたり2.5g/10000あれば虫は100%死ぬ。これは通常の服用量で足りる量である。この他、桂皮のシンナミックアルデヒドも同じような作用をもつことが報告されている。 散剤を使っている事が重要。エキス顆粒や錠剤は、水で抽出する段階で芳香性の揮発成分がかなり抜け落ちているので効果は随分落ちる。その点散剤はそのまま摂収するため、殆どの成分が温存されている。これで安中散がすっかり有名になったが、安中散ではなく茴香や桂皮そのものを粉末で服んでも変わらない。むしろその方が効果的かも知れない。 茴香の後、ワサビもアニサキスに効いたという記事が載ったことも記憶にある。生食はじめ肉や魚など蛋白食には芳香性成分を含むスパイスは欠かせない。スパイスは食材の品質を維持する働きもある。刺身の添え物として紫蘇葉が有名だが、これは漢方で魚毒の解毒に使うものである。添え物とはいえスパイスに準じるものである。 |
蛾や蝉、蝶、蜂などの幼虫に冬虫夏草菌が寄生し、冬に虫の養分を吸収し幼虫を枯死させ、夏に虫頭部から発芽して棒状の菌核を形成し草になる。強壮作用のある高貴薬として珍重され、冬虫夏草1束と子供1人と交換したという逸話もある。ある友人の父は漢方家で、孫が生まれたとき「冬虫夏草」と書いたのぼりを立てて誕生を喜ばれたという、なるほどと思ったものである。 成分はマンニトール、エルゴステロール、コレステロール、シトステロールや抗菌成分コルディセピンなどが含まれ、病後の身体の機能回復や滋養作用のため使われる。帰経は肺・腎で喘息や花粉症に単独で応用され、これを主力商品としてカプセルに充填して販売している薬局も多い。しかし高価で容易に手がでない。中薬の本によれば大量(約10gくらい)長期に服用しなければならないとある。医療経済からすると、それほど優れたものとは言えない。他の滋養強壮薬などと併用して使えば、冬虫夏草の使用量を少なく抑えられると思う。薬膳で海燕の巣などと一緒にスープをつくり味わった事があるが長期服用として、こんなものを毎日食べていたら、元気になる前に、金欠病にかかってしまう。 7年ほど前の日本農業新聞に、この冬虫夏草の人工栽培に成功という記事が載った。福島林業試験場で県内で採集したコナサナギタケを使い、寒天培地で菌糸の培養に成功したとの事。これでも茸は発生するが、より自然の状態に近づけるため、不用になった蚕のサナギに菌糸を接種し、40日後に2〜3cmのコナサナギタケが発生。 それ以降どうなったかは知らないが、高価なだけで、それほど顕著な効果はなさそうなので食材としての価値のほうが高いかも知れない。冬虫夏草の値段は当時と比べると相当値上がりしている。 |
梅干と聞いたら、とたんに唾液が出てくるが、センブリと聞いたら、とたんに顔をしかめたくなる。苦いものの代名詞と言われるくらい苦い。1000回出しても苦いのでセンブリという。これを煎じて服む人も多いが、煎じては服まないほうが良い。苦味の強いものは体を冷やし、新陳代謝を低下させるため、寒に傾いた体調の人が服むと便がゆるんだり食欲が落ちたり、胃のもたれが起る。 正しくは、胃腸の比較的丈夫な人の暴飲暴食による胃の痛みや、軽い食欲不振に限定し、数本(1〜3本)程度を湯呑に入れ熱湯を注ぎ、5分ほど置いて服用するのがよい。何度でも出るからと言って服み過ぎないよう注意。勿体なくても数回服んだら終りにしたい。 中国ではセンブリは殆ど使われないようである。背丈の高いセンブリが、雑草の如く繁茂していても使わないらしい。冷やす性質を警戒して使わないという話を、ある漢方講演会で聞いたことがある。最近センブリをアルコールに漬け、外用で毛生え薬に使う例を耳にする。センブリエキス配合の毛髪料は以前からあるようだが、効果はどうなのか?決定的治療法のないものに関しては、玉石混交の療法や薬が生まれやすい。 センブリは、古くから民間薬として使われるゲンノショウコなどとともに、乱獲のため希少植物になりつつあるという。ゲンノショウコなど畑の畦道に普通に見られたのだが、最近はめったに見かけない。こんな極普通の薬草が博物館でしか見られなくなるのは淋しい限りである。 |
国訳本草綱目によれば、漏下、悪血、寒熱、驚癇、気を益し、志を強くし、歯を生じ、老いずとある。日本鹿、マンシュウ鹿の雄の細かい毛の生えた幼角を加工し、スライスしたものが使われる。主成分はニカワ。 温陽補腎による精力剤として特に有名である。また成長発育の促進に応用され、小児の発育不良に六味丸と併用する。精力減退には八味丸や十全大補湯に加える。また薬用酒として服用しても良い。高価な薬なので10g位を1リットルのホワイトリカーに1ヶ月ほど漬けたあと服用する。 高価なので、比較的安価なトナカイの角での臨床例がある。トナカイ角エキス 50mg/1日を朝夕2回服用させ、1ヶ月後には男性ホルモン量の上昇がみられたという報告である。 動物実験では、免疫機能が増強したり、SOD(活性酸素分解酵素)の活性が向上したり新陳代謝機能促進などの報告がある。主成分がニカワ。牛の角や動物・魚の骨など煮詰めて得られるゼラチンでも、同じ効果が期待できるかも知れない。しかし高価で角のイメージが効果への期待を高めるのかもしれない。 精力減退は降圧剤や一部の胃薬、精神安定剤の副作用でも良く見られる、「精力が落ちた。」、「歳だ。」と嘆く前に、服んでいる薬のチェックもお忘れなく。必要以上の薬はためらわず減らすことが肝要。 |
霊芝・サルノコシカケ・アガリクス、、、癌などの難病の特効薬と喧伝し次々と、きのこ製品が登場する。目新しい製品に寄せる期待は大きい。しかしほぼ似たような作用がきのこ類全般に見られるのだ。このことを知っていれば、そして高価なものが効くと思う観念から解放されたなら、食用のきのこで充分である。いくつかを一覧表にすると... |
生薬名 |
中国名 |
和 名 |
薬 効 |
銀耳 | 銀耳 | シロキクラゲ | 肺がん・肺結核・婦人病・便秘・血便・下痢 |
木耳 | 黒木耳 | キクラゲ | リウマチ・痔・血便・産後の虚弱・帯下・下血 |
猴頭 | 猴頭歯 | ヤマブシタケ | 胃癌・胃潰瘍・胃炎・身体虚弱 |
霊芝 | 霊芝 | マンネンタケ | 癌,糖尿病・高血圧・肝臓病 |
虫草 | 冬虫夏草 | 冬虫夏草タケ | 強壮・肺癌・肺結核・喘息・貧血 |
桑黄 | 桑黄 | キコブタケ | 健胃・止血・利尿 |
雷丸 | 雷丸 | ライガンキン | 駆虫(条虫)・瀉下 |
茯苓 | 茯苓 | マツホド | 抗癌・利尿・健胃 |
猪苓 | 猪苓 | チョレイマイタケ | 利尿・解熱・抗菌・抗癌 |
雲芝 | 雲芝 | カワラタケ | 抗腫瘍・抗炎症 |
磨 | 磨 | マッシュルーム | 消化促進・抗癌・高血圧 |
口磨 | 口磨 | オオイチョウタケ | 抗ウイルス |
冬 | 冬 | エノキタケ | 抗癌・胃潰瘍・肝臓病 |
香 | 香 | シイタケ | 抗ウイルス・身体虚弱 |
草 | 草 | フクロタケ | 抗菌・壊血病 |
馬勃 | 馬勃 | シバフダンゴ | 抗腫瘍・止血・抗炎症・鎮咳 |
以前、医療用医薬品で、カワラタケ抽出物が抗癌剤として使われていたが、薬効再評価で無効の判定が下された。この程度のものかもしれない。霊芝やアガリクスなど華美な広告・包装で高い価格で販売されているが、いずれも正しい臨床試験のデーターはない。 ただ有効成分の確認、抽出物による動物実験、あるいはヒトによる簡単な比較試験研究の資料はある。βーグルカン、キチン質、食物繊維などが含まれ、特にβーグルカンは免疫機能を高めると言われている。このような効果が確認されているなら当然期待も高まる。完璧な臨床試験を待つまでもなく食材として使っているし、また使えば良いのである。高価なものは必要ない、加工されたものは加工の利点はあるにしても、加工段階での成分の変質や製造工程・販売上(添加物やモラルなど、、)の問題も多く抱え込んでいる。一般にマッシュルーム類の茸は抗癌作用が強いといわれている。一束100円程度のエノキ茸を毎夕食に供することなどそれほど負担には感じないし、副食の一品としても楽しみながら食べられる。なにも高価なものがよいとは限らない。元々、安くて儲からないから、希少な茸を求めたり、抽出したり、錠剤にしたり、中身は粗悪でも箱だけ豪華にしたりして付加価値を上げるのである。もちろん全てがそうだとは言わないが、ある調査によれば80〜90%はそのようなものらしい。 きのこの研究者によると「単独に抽出し精製した薬理成分より、きのこの全体を食品として食べるほうが高い抗癌効果を示す。」薬品や漢方薬としてではなく食品としてのきのこを推めたい。だいたい一人10〜20g位のきのこを食べると良い。 |
抗生物質が効かない耐性菌MRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)。本来感染力の弱い菌なのに抗生物質の為、菌の勢力地図が変わって起るものである。このMRSAに有効とされていたバンコマイシンに耐性の菌が、VRE(バンコマイシン耐性腸球菌)である。こうして次々と抗生物質が開発されてゆくが、同じ循環を辿ることは見えている。 こんな時、意外なものから、、、例えば緑茶に抗菌作用が確認されたとか、ドクダミから抗ウイルス成分が発見されたなどという報告がなされると、偶然にしても時宜を得た話題に複雑な気持ちが湧いてくる。だからと言ってお茶だけ浴びるように飲んで、病気が治ったり予防になったりする訳がない。 ウワウルシもこのような時宜を得た話題のひとつかも知れない。岡山大・薬学部教授の報告である。ウワウルシの抽出物がMRSAの耐性を抑え、抗生物質の効果を高めるというものである。生薬はじめ食品中からこのような物質を探す試みは、天然物化学の仕事だが、植物や動物資源の枯渇は研究の可能性を狭める。近年植物や動物の絶滅が報告されるが、絶滅した種のなかに貴重な医薬品開発のヒントが発見されたかも知れない。ウワウルシは臨床試験段階の話ではない、可能性と望みを示唆するものである このウワウルシは生薬として尿路殺菌や尿路防腐として使われてきた。膀胱炎や淋病などの殺菌を要する疾患の天然抗菌剤といえるものである。軽度の場合、あるいは重症でも、使用によって著しい副作用があるわけではない。単独で、あるいは新薬との併用を試みる価値のある生薬である。 |
親指くらいの穂に紫の花が咲き、夏に、葉っぱが枯れるのに先立って枯れることから夏枯草と名づけられている。別名ウツボクサ。消炎利尿剤で膀胱炎や腎炎の利尿に煎じて服用する。中医の使い方はちょっと違う。肝の熱が上昇することによる眼病や頭痛、イライラ、さらに熱を持った腫物の消腫に使う。 私が最も繁用するのは前立腺炎である。以前は漢方処方を色々試みたが、確実な手応えを得る事が少なく、それでも工夫を重ねた。そんな時読んだ A・ワイルのナチュラル・メディスン、、、西洋医学的治療ではなかなか治らないが、3つのポイントに注意すれば容易に治る病気であると書かれてあった。おおよそこんなことである。
現在、前立腺炎のfirst choice として夏枯草を使っている。 |