【食材50選(2)】


穀物・豆・芋類
小豆・胡麻・小麦・米・さつま芋・里芋・じゃがいも・蕎麦 
大豆・山芋
野菜・きのこ
かぼちゃ・キャベツ・胡瓜・牛蒡・小松菜・紫蘇・春菊
生姜・大根・玉葱・トマト・茄子・ニンジン・ニンニク・ネギ 
白菜・ピーマン・ほうれん草・もやし・きくらげ・椎茸
果実・種実
梅・柿・すいか・梨・ブドウ・桃・ミカン・りんご・落花生
栗・銀杏
海 藻
寒天・昆布・のり・ひじき・わかめ
牛乳・卵・肉
牛乳・母乳・鶏卵・牛肉・鶏肉・豚肉
魚介類
たい・さば・さけ・こい・あさり・イカ・エビ・カニ
調味料・し好品
塩・胡椒・砂糖・味噌・醤油・酢・蜂蜜・唐辛子・油脂
コーヒー・緑茶・ビール・清酒・焼酎・水

 


果実・種実

【寒 熱・五 味 / 帰 経 / 効 能】
   
うめ(梅) 平・酸渋/肝・脾・肺・大腸/生津止渇・斂肺止咳・止瀉止痢
原産地は中国四川省から湖北省にかけての山岳地帯で、3000年以上も前から燻製の梅(烏梅)を薬用としていた。栽培や加工が行われたのは紀元前6世紀という記録がある。奈良時代以前に朝鮮経由で日本へ伝来した。昔は薬として用いたが、梅を食用にするのは中国と日本だけで、生で食べることはなく梅干、梅肉エキス、梅酒として利用する。梅干しの原型は中国で、塩漬けして干したものが知られている。今の中国は青梅を燻製にした烏梅が主である。日本では江戸時代、旅行が盛んになるにつれ、塩漬けして干した梅が携帯に便利で疫病予防に良いと言うことで広まった。烏梅は漢方薬として、下痢止め、止血、駆虫に用いられる。梅干は果肉部に4〜5%の有機酸を含みその内訳はクエン酸、シュウ酸、リンゴ酸、フマル酸などで、糖分や脂肪酸代謝の要であるクエン酸回路に関与する。そこで疲労物質である乳酸やケト酸も速やかに代謝され、肝の解毒能力も高まる。疲労回復、飲酒前や二日酔い、食事前後の消化促進に良く、又民間薬として貧血、咳止め、風邪、口臭予防にも用いられる。梅干は有機酸が多く保存が効くため万能健康食品として長く愛用されてきたが、万能とまではいえない。五味(酸・苦・甘・辛・鹹)のなかで酸味の食品は極端に少ないので酸の貴重な補給源になる。しかし、塩分と酸味の多いものは適量を考え1日2〜3個を限度とするほうが良い。風寒の風邪は発汗によって治すが、梅干を用いると渋性(収斂性)があるため汗が出にくくなる。青梅にはアミグダリンが含まれる。これに同じ青梅に含まれるエムルシンという酵素が働き消化管内で分解され有毒なシアン化水素が発生し、嘔吐、下痢、痙攣などの中毒症状を引き起こすことがある。成人の致死量は青梅300個なので、数個食べたくらいで死亡することはない。青梅を梅酒にしたり加熱すると、アミグダリンが分解してベンズアルデヒドになり毒性が弱まる。 アミグダリンを含む杏(あんず)の種子からは杏仁水という医薬品が作られる。鎮咳薬として用いられるが、近年の研究では抗ガン効果があるとして利用する代替医療機関もあり、別名、ビタミンB17と言われる。
   
かき(柿) 寒・甘渋/心・肺・大腸/清熱止渇・潤肺止咳・渋腸和胃・解酒毒
柿の原種は太古に中国から渡来したとされ、日本で品種改良が加えられた。種子が古代の遺跡から出土され、古くから馴染みの果物といえる。畑や庭のある家なら梅か柿の木のいずれかがあると言っても過言ではない。ビタミンCが豊富で70mg/100gが含まれ熟柿になると半減し、干し柿はさらに少なくなる。カリウムが多くナトリウムが非常に少ないので高血圧に良い。昔から「柿が赤くなると医者が青くなる」と言われている。この西洋版がトマトである。利尿作用による高血圧予防のほか、タンニンやβ-カロテンの抗酸化作用、アルコールデヒドロゲナーゼ酵素による酒毒の解消などが知られている。しかし寒性であるため冷え症や腎機能の弱い人は控えめに。また、食積痰湿があれば柿の甘味でさらに痰湿を助長するので注意がいる。寒性の食物は体質に関わらず食べ過ぎると体を冷やすので良くない。タンニン系化合物のシブオールは結石の原因となることがある。タンニンは蛋白質と結合し粘膜を収斂させ、便秘を引き起こしたり、カルシウムや鉄分の吸収を妨げるので空腹時は食べないほうが良い。干し柿にすると長期間保存可能となり果糖やブドウ糖も多く、体力を補い、金柑などと一緒に煎じて鎮咳・去痰に用いる。柿のヘタは「しゃっくり」の要薬で「柿蒂湯」という漢方処方がある。葉はビタミンCが多く、5〜6月の若葉の頃、蒸して乾燥しお茶として飲むことができる。利尿作用があり、軽度の高血圧であれば柿の葉だけで正常に復する人もある。
   
すいか(西瓜) 寒・甘/心・胃・膀胱・腎/清熱解暑・除煩止渇・利小便
野生種が分布するアフリカ中部のサハラ砂漠が原産。中国へは11世紀に伝来し、西域から来たことから西瓜と呼ばれている。エジプトでは4000年前に栽培が行われていた。日本へは16世紀頃カボチャと共にポルトガルから伝わり、明治に入り、ヨーロッパやアメリカから品種改良型の甘く、大きなものが導入された。西瓜は水分が91%と多く寒性であるため、のどの渇きを潤し暑さを癒す、まさに夏を代表する果物である。激しいのどの渇きや熱症状に用いる白虎湯と言う漢方薬があるが、西瓜は正にこれに該当する果物である。又利尿作用が強く、その有効成分であるシトルリンは皮の部分に多く含まれるので、薄く剥いで乾燥保存し、煎じて飲むことができる。寒性なので冷え症の人の利尿や、重篤な腎不全の人には反って体の負担になるので控えるほうが良い。また冷蔵庫で冷やしたものは寒性の程度が高くなるので、小児や老人、虚弱者には好ましくない。とくに夕方以降の摂食は小児夜尿症や腹痛、下痢の恐れもある。西瓜とてんぷらの食い合わせで胃痛、腹痛、下痢などを引き起こすことが知られている。水分が多く胃腸を冷やすすいかと、消化の遅い脂物の食べ過ぎが良くない。夏休み、子供を交えてバーベキュー...という光景はしばしば見受けられる。冷たいジュースを飲みながら肉を食べ、後は、冷えた西瓜で仕上げというのもありがちなことだ。子供に対する愛情は責められるべきものではないが、無知は戒めなくてはならない。旬を外れた食材についても、食べる覚悟と工夫のいるものがある。冬のアイスクリームやビール...年中ひっきりなしに宣伝を流す業界はただ商品が売れることを望み、他人の健康など無頓着なのだ。
   
なし(梨) 涼・甘微酸/肺・胃/生津潤燥・清熱化痰
日本梨、中国梨、西洋梨に分かれ、日本と中国梨は原種が同じと考えられている。日本南部、韓国南部、中国にかけて原種が自生しこれに改良を重ね、現在200〜300品種が知られている。水分は89%と多く、涼性なので他の果物よりみずみずしさを感じる。別名、水菓子と言い、のどの渇き、のどの痛みなど熱性疾患の食養に用いられる。肺に帰経するので陰虚傾向の肺疾患に蜂蜜と煮込んで食べると良い。冷えや腹痛、下痢気味の人は生で食べると冷えが増すので、煮込んで涼性を緩和する。果糖、蔗糖などの糖分が多くビタミン類は非常に少ないが、アスパラギン酸を含みこれが糖分とともに疲労回復に役立つ。なしを食べ過ぎると、柿やリンゴに比べ胃腸や体調を壊す人が多い。これは果肉部にある硬く消化し難い石細胞が一因となっている。
   
ぶどう(葡萄) 平・甘酸/肺・脾・腎/益気養血・止渇除煩・滋補肝腎・利尿・安胎
原産地はペルシアとされ、紀元前4000年頃すでにエジプトで栽培されていた。世界で最も生産量が多く、日本へは中国を経て12世紀頃伝わった。明治以降アメリカやヨーロッパ種が導入され品種改良された。糖分が多く糖度が増した時には、ブドウ糖と果糖の総量で20%を越えるようになる。ブドウ糖はエネルギーとして直接吸収し利用されるので、疲労回復に良く、干しブドウにするとさらにカロリーが高くなる。わずかな酸味があり、肝腎を補う。ポリフェノールが種子や皮に含まれ抗酸化・抗老化の作用が期待される。ブドウそのものより皮や種子を潰して作るワインのほうが多く含まれる。種子にはプロアンチシアニジンという成分を含み、ビタミンCの20倍、ビタミンEの50倍の強い抗酸化力を持つ。しかし、抗酸化作用は数時間しか持続しないので理想としては食事のたびに抗酸化作用をもつ様々な食材を摂るのが好ましい。根やつる、葉は利尿や足腰の痛みを緩和する作用がある。ブドウ油(グレープシードオイル)が製品化されているが、胆汁の排出を促しコレステロール降下作用が期待されている。
   
もも(桃) 温・甘酸/脾・肝・大腸/生津潤腸・補脾活血・消積
中国の黄河流域が原産で、3000年も前から栽培されていた。日本へは有史以前に伝来している。中国では仙果、仙人桃、毛桃などと言い「桃源郷」の故事の由来とされている。甘く香りも良く中国では果物の王様と呼ばれている。蔗糖が6〜7%、果糖・ブドウ糖が各1%含まれ酸味や渋みもややある。クエン酸、リンゴ酸をはじめ、アミノ酸のメチオニン、リジン、グルタミン酸、アスパラギン酸など300mg(100g中)が含まれ甘味を演出する。夏の果物にしては珍しく温性を有し、水分が87%と多いにも関わらず胃腸を冷やさない。胃腸の弱い人や小児、妊婦の水分・栄養補給にも良く、体を潤し胃腸の機能を助ける。ペクチンも多く含まれるので腸の容積を増し、食滞を解消する。温性の体質だったり、食べ過ぎたりすると胃腸にもたれ湿熱を生じる。糖分が多いので糖尿病の人は多食を避ける。桃の木にはグリコシドという鎮痛成分が、花には利尿作用のあるケンフェロールが含まれる。葉は民間療法であせもや皮膚病に内服又は外用する。桃の種子の仁は、梅と同じアミグダリンが含まれるので生で食べないほうが良い。仁は生薬名を桃仁といい血行障害(於血)の要薬として繁用される。
   
みかん(蜜柑) 微温・甘酸/肺・胃/開胃理気・止渇潤肺
オレンジ、グレープフルーツ、レモン、夏みかん、冬橙、伊予柑など様々な柑橘類があるが、みかんといえば温州みかんを指す場合が多い。日本へは500年ほど前に伝わり、その原種が温州ミカンになる。接ぎ木によって品種改良が加えられ甘味を増し、酸味が緩和された。生で食べるためビタミンCの供給源として優れ、とくに皮は果汁の数倍多く含まれている。食物繊維やビタミンP(ヘスペリジンなど..)も多く含まれ、とくにPは実と皮の間の白い繊維に多量に含まれるので丁寧に剥かないほうが良い。甘味は蔗糖や果糖によるもので、酸味はクエン酸である。オレンジ色の成分はβ-クリプトキサンチンで抗ガン作用を持つと言う報告がある。柑橘類にはジャムに粘りをもたせるペクチンが含まれ、コレステロールの上昇を抑える働きがある。水分と甘味でのどの渇きを癒し、肺の粘膜を潤す。皮は微温だが果肉は微寒性があり、寒いときや夜に多食すると体を冷やし、下痢や腹痛を引き起こす。また痰が生じやすいので咳痰のある人は控える。ミカンの皮は陳皮といい逆に痰湿を除き胃気の巡りを良くし消化を促す。陳皮は漢方薬として内服するが、浴用剤にすると体が温まり芳香を楽しむ事ができる。柑橘類で冬至のゆず湯など有名である。ミカンを食べ過ぎると手のひらや足の裏が黄色くなる柑皮症が見られることがある。このような人は肝臓を傷めるので食べすぎに注意する。
   
りんご(林檎) 涼・甘酸/脾・肺/生津止渇・生津潤肺・清熱除煩
原産地は中央アジアで、4000〜5000年前から栽培されていた。古代民族の移動とともにヨーロッパへ伝わり、16世紀までは小型であったが、17世紀アメリカに渡り改良されて現在の形になった。ヨーロッパ系の小型種は中国経由で江戸時代に伝えられたが、現在のものはアメリカから明治初期に導入された。ブドウ、柑橘類、バナナに次ぐ生産量で温帯の寒い地方で広く栽培されている。品種間の差はあるが約13%の糖分があり、約1.2%のリンゴ酸、クエン酸、酒石酸などの有機酸を含みさわやかな味わいがある。カリウムが多くナトリウムが少ないので利尿作用に優れている。食物繊維のペクチンはコレステロール値を下げる効果があり、水分を保持し便通を整える。便秘には皮のまま食べるほうが良く、このとき消毒薬など付着していることがあるので丁寧に洗う。下痢にも用いるが、胃腸が弱く冷えやすい人は多食を避ける。涼性で肺を潤すので熱性疾患の水分補給に良く、すりリンゴにして用いることが多い。以前、りんごダイエットというのが流行ったが、食べ過ぎると有機酸のために胃の粘膜を荒らすことがある。有効成分は加熱に強いので多くの料理法が知られている。保存が利くのでかなり古いものが流通していることがあり購入には注意がいる。りんごのエチレンガスは果物の完熟を促すが、じゃがいもに対しては、発芽を抑制する働きがある。じゃがいもの芽には有毒物質のソラニンが含まれ、りんごと一緒に保管すると発芽防止に役立つ。
   
らっかせい 平・甘/脾・肺/潤肺止咳・和胃補脾
播種後、2ヶ月くらいで花が咲き、実になる部分(子房柄)が地中に潜り土の中で実を結ぶ。花が落ちたところから実が生まれるので落花生という。別名、ピーナッツ、南京豆とも呼ばれる。南米が起源とされ日本へは18世紀中国から伝わったが、明治初期にアメリカから改めて導入されて栽培が広まった。落花生はビールや酒のつまみに欠かせない存在で、スルメと共に私も日々嗜んでいる。脂肪が多くその80%は不飽和脂肪酸のリノール酸である。動脈硬化や高血圧を予防する効果があるが、酸化しやすく酸化すると発がん性を持つので殻のまま保存すると良い。脂肪が多いので食べ過ぎると消化不良を起こす。小児や老人、消化能力の低下した人は控えめにする。補陽性があり食べ過ぎると、のぼせて鼻血が出ることもあるが、茹でて水分を含んだものでは起こらない。メチオニンを含み肝臓の働きを助ける。また渋皮には皮膚の紫斑病を改善する効果が知られている。柿や胡瓜との食べ合わせで下痢を起こす恐れがある。油脂は消化に悪く、寒涼性の食物は消化能力を低下させることを知っておけば、あらゆる食物の組み合わせに応用できる。落花生につくカビ毒に、強力な発ガン物質であるアフラトキシンがある。熱帯・亜熱帯地方のカビなので国産のものからは検出されていないが、輸入されたナッツ類は注意がいる。わずかでもカビを認めたなら、ためらわず廃棄する。輸入品の検査は氷山の一角しか行なわないので、消費者は五官を総動員して嗅ぎ分けねばならない。
   
くり(栗) 温・甘/脾・胃・腎/養胃健脾・補腎強筋・止咳化痰
原産地は中国と日本で、縄文時代から栽培されていたという。古くから世界中で食され、一部の栗はアメリカが原産との説もある。ヨーロッパ栗、アメリカ栗、中国栗、日本栗があり、日本栗の品種は200種類以上になる。40%が糖質で、ビタミンB1,Cが豊富に含まれている。食物繊維やカリウムなども多く、便秘の改善や水分の調整、血圧を下げる働きなどがある。渋皮にはタンニンが含まれ、強い抗酸化作用が知られている。胃腸を丈夫にし血行を良くするので慢性的な冷え症や下痢に良いが、急性のものには効果がない。小児の発育を促進するが、生でも煮ても消化しにくいので1日10個程度にとどめておく。
   
ぎんなん(銀杏) 平・甘・苦・渋/脾・肺・腎/斂肺平咳・収渋止帯
イチョウの種子で、古生代末期に出現し1億5000万年前には世界中に大規模な森林を作るほど栄えていた。その後滅んだものと考えられていたが、中国南東部で氷河期を生き抜いた種が仏教とともに日本に伝来し各地に広がったといわれる。現在世界各国に見られるイチョウは日本に渡来した種の苗が広がったものである。樹皮にコルク層があるので害虫や火災にも強く街路樹として利用される。雄と雌の木があり、10月頃に雌木に実が付き、実の中の硬い殻に守られた胚乳をぎんなんと言う。糖質、ミネラル、ビタミンB、カロテンなどを含みタンパク質はアミノ酸バランスがよく良質で、栄養に優れた食材である。漢方薬として利用され、肺の機能を高め喘咳を収める。血流を改善し、炎症を抑え帯下を止める。腎に帰経し滋養強壮作用があるため、小児の夜尿症に炒った銀杏を食べさせる。近年、イチョウ葉は血中脂質や血圧を抑え脳血流を改善すると言われ、サプリメントとして販売されている。アレルギー物質であるギンコール酸が葉と外種皮に多く含まれているので、生や粉末では用いないほうが良い。また、ビタミンB6の作用を妨げるメチルピリドキシ(MPN)という中毒物質が含まれており、痙攣などの中毒が起ることがある。成人は肝臓にMPNを解毒する酵素があるが、小児は解毒能力が十分でないため中毒しやすく、時には死に至ることもある。小児は5〜10個を限度とする。他にもプルナシンというシアン化合物が含まれ、稀に吐き気・下痢・痙攣・呼吸困難を引き起こすので、安全のため必ず加熱したものを用いる。
   
海藻 【寒 熱・五 味 / 帰 経 / 効 能】
   
かんてん(寒天) 寒・甘鹹/肝・腎・脾/化痰軟堅・清熱利尿
テングサをはじめ紅藻(イギス、オゴノリ、エゴノリなど)を煮出し冷やし、固めたものが「ところてん」である。さらに凍結乾燥させたものを寒天といい、日本独特の食材である。ところてんは約1000年も前から食用にされていたが、寒天は300年ほど前からの歴史になる。糖質が主成分になるが、消化されない食物繊維であるため栄養価はゼロである。しかし、これこそ「無用の用」というもので、胃腸を害することなく便通を良くし、カルシウムや鉄分の補給ができる。寒性のため胸部に鬱積する熱を冷まし、痰を去り、出来物を軟らかくする働きがある。胃腸を冷やすので冷え症や慢性的な下痢のある人は控えめに。
   
こんぶ(昆布) 寒・甘鹹/肝・腎・脾/化痰軟堅・清熱利水消腫
寒流の流れる海の岩に付着し十数メートルにも及ぶ長さに成長する。90%が北海道で採れ、日本料理には不可欠の食材である。旨み成分はグルタミン酸ナトリウム、アルギン酸で、表面に多く存在するため調理の時は洗わずに固く絞った布巾で拭くくらいで良い。昆布には大量のヨードが含まれ、甲状腺ホルモンを作るため欠かせない成分である。普通の食生活で不足することはないが、甲状腺障害のある人は摂取を心がけるほうが良い。甲状腺腫などに用いる漢方処方には昆布、海草などが配合される。しかし、橋本病やバセドウ氏病などではヨードをとり過ぎると逆効果になるので、注意が必要である。またヨードは頭髪を黒く保ち白髪の予防に用いられる。水に難溶のため油を使って調理すると良い。カルシウム、カリウム、マグネシウムなどのミネラル分も豊富に含み、低カロリーなので肥満予防になる。カルシウム源として牛乳を推奨する傾向があり、嫌いであるにも関わらず我慢して飲んでいる人を見受ける。カルシウムのため、脂肪、蛋白質、乳糖という過剰な栄養まで摂るより、カロリーゼロで豊富なミネラル源の海藻類を忘れてはならない。寒性があるため体内にこもった熱を冷ましたり、利尿により浮腫の解消に用いるが、冷え症の人や小児は食べ過ぎると消化不良や下痢を起こすことがある。
   
のり(海苔) 寒・甘鹹/肺/化痰軟堅・清熱利尿
緑藻類の海藻で正式名称は「あまのり」である。アサクサノリをはじめ20種程度が知られ日本各地の海岸や内湾の塩分濃度の高いところに広く分布する。海に網を張って養殖し、刈り取り→洗浄→刻み→簾すき→乾燥の工程を経て、干のり、焼海苔、味付け海苔などに製品化される。ビタミンAが多く、1日の必要量2000IUを賄うため10gで足りる。ビタミンB1,B2,C、ナイアシンや、陸生植物にはほとんど存在しないビタミンB12が100g中15〜20μg含まれる。ビタミンB12は蛋白質の合成に不可欠で、不足すると体力、精力が衰え老化が早まり、著しく欠乏すると悪性貧血を引き起こす。1日10gの海苔でB12の必要量を満たすことができる。理想的パターンでミネラルを含有し、食物繊維や蛋白質も多い。脂肪や水分の摂取なら牛乳でも構わないが、カルシウムなどのミネラル補給には海藻を置いて他にない。現状より更に評価が高められるべきである。
   
ひじき(比之木) 寒・鹹/肺・腎/消腫化痰・清熱
日本近海の干満の差の激しい地域で採れるホンダワラ科の褐藻類である。形状から鹿角菜ともいい、日本で流通しているひじきの約7割が韓国産、約3割が中国と日本産である。ひじきはヨード、鉄、カルシウム、リンが多く含まれ、鉄は牛乳の550倍、カルシウムは昆布の2倍にもなる。貧血や白髪の予防、カルシウムの補給食材として優れている。しかし、最近、ヒ素の存在が知られるようになり、にわかに摂取注意を喚起する声があがっている。先にカナダの食品調査会が行なった調査で、ひじきに無機ヒ素が含まれていることが明らかになり、英国食品基準庁も同様の調査を行った。それによると海苔・わかめ・ひじきなど、31サンプルを採取、そのうち9サンプルが全て日本のひじきで、これから発癌性のある無機ヒ素が検出された。WHOが1988年に定めた無機ヒ素の暫定的耐容週間摂取量(PTWI)は15μg/kg体重/週になる(体重50kgの人で計算すると750μg/人/週)。乾燥品を水戻ししたひじき中の無機ヒ素濃度は最大22.7mg/kgで、このひじきを食べるとして、毎日4.7g(一週間当たり33g)以上を継続的に摂取するとヒ素のPIWIを超えることになる。この数値を念頭に置いて食べ過ぎに注意を払い、妊娠中であれば胎児への移行も考えられるのでカルシウムなどのミネラルは他の海藻で摂取する。また体重を考慮し小児に大人と同量のひじきを与えてはならない。
   
わかめ(若布) 寒・鹹/肺・腎/化痰軟堅・清熱利尿
昆布と共に日本料理には欠かせない海藻で使用量も多い。ヨードをはじめ、カルシウム・カリウム・亜鉛など海のミネラル成分が豊富に含まれている。水溶性の食物繊維であるアルギン酸が多く含まれ、大腸の働きを活発にして便通を促す。わかめの根元の部分の「胞子のう」を「メカブ」と言い栄養価が高い。めかぶを健康法として食べている人も多い。また多糖類のフコダインは、胃の粘膜を保護し胃炎や潰瘍に良いとしてサプリメントで販売されている。血液サラサラ、肝機能に良し、ガンにも良し、免疫力を向上させ滋養強壮にも良しと宣伝されている。副作用もないので騙されても被害は少ない。わかめを食事に取り入れることで摂取すればサプリメントなど要らない。海藻類は一般的にビタミンAを除いてビタミン類は非常に少なく、カロリー源にもならない。海藻サラダなどは体を冷やすので、調味・調理により寒性を緩めて用いる。
   
牛乳・卵・肉 【寒 熱・五 味 / 帰 経 / 効 能】
   
ぎゅうにゅう(牛乳) 平・甘/脾・胃/養血益心・強筋壮体
約1400年前の飛鳥時代、百済から帰化した「知聡」という人が牛の乳を搾る方法を伝えたと言われる。奈良時代に入って貴族の間で牛乳や羊乳が飲まれたが、一般の口に入るようになったのは明治時代で、戦後になって本格的な普及が始まった。完全栄養食として奨励された世代は、今もそのように信じ込んでいる人が多い。ビタミンAが多く、カルシウム、マグネシウム、鉄、マンガンなどのミネラルも含まれる。乳糖や牛乳蛋白はカルシウムなどのミネラルの吸収を促すが、それは乳糖を消化吸収できる民族にとってのみ適応する。カルシウムを含有していても、乳糖を分解するラクターゼを持たないアジアを始め多くの民族では、下痢や腹痛、嘔吐などを引き起こすだけで吸収率も極めて低い。蛋白、脂肪が多く、液体であるため噛まずに摂取できるカロリー源として優れ、病気や疲労で咀嚼力や食欲が落ちたときなど用いると良い。しかし、健康な人が大量に飲めば咀嚼を省くことになり、顎や知能の発達に悪影響を及ぼし、ボケの予防効果も得られない。牛乳蛋白はアレルギーの原因になりやすく、乳脂肪は動脈硬化や心臓疾患には控えるように指導がなされる。このような短所を持つ食材であれば、健康な人にとっても好ましいとはいえない。菓子類を始め料理の随所に牛乳を用いることで、味わいも益し食の楽しみも広がるが断じて完全栄養食ではなく、食材のひとつに過ぎない。
   
ぼにゅう(母乳) 平・甘/心・肺・胃/補血潤燥・安心益智・益胃養脾
これこそヒト乳児にとっての完全栄養食というべきものだ。古い話だが、母乳よりミルクが成長に優れているという出所不明だが出所に察しのつく情報があった。母乳が出ているにも関わらずミルクを飲ませた母親もいた。次いでダイオキシン騒動のとき乳児の安全のためミルクに替えた人もあった。このように母乳が軽く扱われた時代があったのだ。今は母乳の評価はほぼ確立しているのではないかと思う。母乳はミルクの原料である牛乳に比べ蛋白質が1/3と少ない。犬乳の1/8、イルカ乳、ウサギ乳の1/10、オランウータン乳の4/5で他の哺乳動物と比べても少ない数値である。一方、糖質は牛乳の1.6倍、犬乳の2.3倍、ウサギ乳の3.5倍、イルカ乳の8倍と多く含まれている。人が10年以上もかかって成長するのに比べ、他の動物の成長はあまりにも早い。その為の栄養組成が母乳には反映している。人は脳の発達のために糖質をゆっくり惜しみなく使い続けるのだ。糖質のガラクトースはヒト特有のもので腸の善玉菌であるビフィズス菌の増殖を助ける。またアミノ酸のタウリンが含まれ、これは新生児の視神経、大脳、肝臓、心臓の発育に欠かせない。このほか母乳には様々な免疫物資が含まれ新生児を保護し、成長にともない成分も変化していく。授乳中は脳下垂体からプロラクチンという乳汁分泌刺激ホルモンが分泌され、これが次の妊娠を抑制する働きがあり、忙しい育児期間の産児調整に役立つ。母乳を吸うことで顎や脳の発達を促し母子の絆も深まる。
   
けいらん(鶏卵) 平・甘/肺・脾・胃・大腸/安五臓・養血安胎・寧心
卵といえば一般的に鶏卵のことを言うが鳥類の卵は他にウズラやアヒル、烏骨鶏など数多く利用される。古代ギリシア時代から使われ、日本へは安土桃山時代に伝わる。江戸時代までは栄養食品として病人や幼児に用いられ、明治に入って広く普及するようになった。しかし、昭和40年(1965)頃まではまだまだ高価な食材で、庭先で飼育していながらも頻繁に食べられるものではなかった。いつの間にか物価の優等生となり、今は何のためらいもなく卵が食べられる。栄養価が高く卵白の蛋白スコアーは100で他の食材と比較すると、牛乳85、ロース84、豆腐67、白米81、小麦56となっている。消化効率も97〜98%と良好であるが、これが災いしてアレルギー性食材NO1と言われる。卵黄は中性脂肪やリン脂質、コレステロールなどの脂質に富み、リン脂質の主成分ホスファチジルコリンは知能、記憶力の向上や老化予防に役立つ。コレステロールはホルモンやビタミンDを生成する原料になるが、過剰摂取や体の代謝機能の低下で動脈硬化の原因ともなる。このほかビタミンA,B2、カルシウム、リン、鉄なども多く含まれている。調理に手間がかからず生でも食べられるため、簡便な栄養補給として用いることができる。漢方では心を鎮め、癇を収めるとされ小児の「疳のむし」に用いる。安胎の効果もあるが妊婦であれば胎児にアレルギー性物質が移行するので摂取は控える。卵はサルモネラの汚染が知られているので、できる限り生卵は避け加熱調理したものが望ましい。物価の優等生とは安価ということに他ならない。普通卵は20円前後、ヨード卵、有精卵、有機卵の類であれば30〜50円が相場である。烏骨鶏卵になると最高で500円のものまである。差別化によって高値をつけた以上それに見合う利点を示さなくてはならない。有機卵だからアトピーの人も食べて良いという話を聞く、これならまだ許せるがアトピーの治療に良いとまで言われると絶句してしまう。
   
ぎゅうにく(牛肉) 温・甘/脾・胃/補脾健胃・補中益気・強筋強壮
四季に恵まれ農産物、海産物の豊富な日本では牛のような大動物を常食にすることはなかった。しかし、牛をはじめ馬、猪、豚、鹿、熊、狸、狐などや海洋哺乳動物の鯨、アシカ、イルカ、オットセイ、アザラシなどを食物とした記録は残っている。牛肉を味わうようになったのは明治に入ってからで、大正時代にやっと日常の食材になり、戦後20年ほど経過してから消費量が急増し、それにつれて貴重な動物蛋白のひとつであった鯨肉は減少し始める。蛋白、脂肪の供給源で蛋白価(プロテインスコア)が高く必須アミノ酸が多い。ビタミンB群が多く、特にB12はAnimal Protein Factorといわれ蛋白合成や血液の産生に寄与する。動物性食材特有のビタミンなので、ビーガン・ベジタリアンでは不足がちになり貧血や発育不良を起こすことがある。ビタミンAも比較的多く、とりわけ肝臓には豊富に存在する。肝臓には鉄分やビタミンB12も含まれるため貧血の食事療法に用いられるが、プリン体も多いので痛風には良くない。貧血治療に夢中になって痛風を引き起こさないようにバランスを考えて摂取する。体を温め胃腸を補い体を強壮にするため、冷え症、虚弱体質、産後病後の体力回復に良い。牛肉より羊肉はさらに温める働きが強く、漢方では当帰や生姜と一緒に煮込み貧血、虚弱、冷えの治療に用いる。古い時代には食物や薬草はその生態や形態などから効能を類推して用いることが多かった。肝臓の病気に肝臓を食べ、腎臓の病気には腎臓をなど..といった具合である。最先端医学である臓器移植も似たような一面がありはしないか。また薬膳にもこの考え方が色濃く残り、作る人も食べる人も相互に思い込み満足する。体の大きい牛の肉は体を温め、4つもある牛の胃は胃腸を養い、牛の肝臓は肝機能を高め、牛の胆のうや胆石は肝炎や黄疸に、牛の角は頭痛や発熱に..ということになる。薬理学的根拠の不明なものを、あるかのように錯覚をしてはならない。牛乳・卵・肉・魚介類は蛋白・脂肪の豊富な高栄養食といわれ、「美食」には欠かせない食材が多い。必要なとき適宜、適量を摂取するなら高栄養食といえるが、ひとたび美食の欲望に魅入られると容易に適量の域を超えてしまう。肉の摂取過剰は動脈硬化を引き起こし心筋梗塞や脳卒中の原因となる。同時に痛風、糖尿病などもみられることが多く、総称して代謝異常症候群(メタボリックシンドローム)と言う。また飼育のために用いる種々の薬品のことを考えると、特に肝臓などを食べる気にはならない。近年では狂牛病の問題も生じ、美食と栄養と安全を量りながらの食行動も必要かと思う。アメリカ産牛肉が輸入禁止になり、連日牛丼店に列を為す人々の映像やインタビューが流された。ときには懐疑心を抱き、流れに逆らう位の抵抗力は持っておきたい。美食が極まり生の肉を嗜む人も増えているが、寄生虫感染や食中毒の警戒も忘れてはならない。
   
けいにく(鶏肉) 温・甘/脾・肺/益気養血・温中補脾・補腎益精
大動物は常食としなかったが、鶏は太古から飼育され卵・肉共に日本人の重要な蛋白源であった。他にウズラ、アヒル、鴨、キジ、その他野鳥など多くの鳥類が用いられた。農家の庭先で飼われていた風景は郷愁をそそるが、現在は改良種のブロイラーを大量飼育して供給される。抗生物質はじめ多くの薬品、飼育環境などを考えると躊躇するような現状であるが、もはや後戻りはできない。鳥インフルエンザで飼育場ごと生きたまま殺戮される鶏を見て心の痛まない人は居ないと思う。蛋白質が豊富で脂肪が少ないため、病院の栄養指導では鶏のささ身を勧められることが多い。胃腸の弱い老人、小児、妊婦、病中病後の蛋白源とされる。体を温めるため熱のある人や高血圧の人は多食しないほうが良い。鶏の皮にはコラーゲンが多く、つややかな皮膚や毛髮、軟骨細胞をつくるのに役立つ。しかし、脂肪も多いので一度煮込んで冷まし、浮いた脂肪を除去して調理すると良い。焼き鳥好きは、脂の乗った「トリ皮で晩酌」を喜びとしている。
   
ぶたにく(豚肉) 平・甘/脾・胃・腎/滋陰潤燥・止消渇
紀元前4000年前、古代ギリシアの遺跡から祭りの供え物とされた豚の骨が発見されている。中国では紀元前2000年前から飼育の記録がある。もともと野生のイノシシが飼いならされたもので、中国では豚を猪と書く。日本で豚の飼育が始まったのは明治時代で、トンカツ料理で知られ広まった。蛋白の栄養価は牛肉より高く、ビタミンB1は約10倍多く含まれる。脂質も多いが、平性なので食べて熱を生じにくく体質にあまり拘らず利用できる。雑食性で人の残飯を与えて育つので鶏とともに農家での飼育も盛んであった。内臓や耳、足、皮、毛など余すところなく利用されるが、生食には注意がいる。剛棘顎口虫、旋毛虫、有鉤条虫などの寄生虫症が報告されている。
   
魚介類 【寒 熱・五 味 / 帰 経 / 効 能】
   
たい(鯛) 平・甘/脾・胃/補脾健胃・利尿消腫
温帯・熱帯水域に生息し種類も多種に及ぶ。姿・形・色・味がすべて良いので「百魚の王」といわれ、日本では「めでたい」の語呂合わせからひときわ重宝される。1920年頃から養殖が始まり、赤色を出すためにエビやカニの殻を餌に混入している。鳥獣肉と同様、蛋白価が高く栄養源として重要な食材である。日本は周囲を海に囲まれ新鮮な海の幸が入手でき、乾燥、塩蔵することで保存食にもなった。牛、豚などを蛋白源にする必要性は少なかったものと思われる。鯛は蛋白が多く脂が少ないため、消化吸収しやすく胃腸の弱い人の栄養補給に用いる。刺身などの生食は胃腸を冷やし胃もたれを起こすことがあるので控えめに。蛋白源として肉より魚が優れるという議論があるが、単純に魚に軍配を上げられるものではない。魚が良いとしてたくさん食べるより、肉を適量のほうがまだ健康的である。動物肉では飽和脂肪酸が動脈硬化の原因になるので注意を促されるが、魚肉の多価不飽和脂肪酸であるエイコサペンタエン酸(EPA)やドコサヘキサエン酸(DHA)は血中の善玉コレステロールを増やし動脈硬化を予防するという。しかし、多量に摂取すると脂肪の消化のため膵臓や肝臓の負担が大きくなり、カロリー過剰を招くことになる。また不飽和脂肪酸であるがために熱や光で劣化しやすく、老化や発ガンを促す過酸化脂質に変性する。動物肉は飼育に多くの薬品を用いるが、養殖の魚でも似たようなことが行われている。また海洋汚染を考えるなら川魚や近海もの、狭い湾に生息する魚類は注意がいる。数年前、厚生労働省はメカジキやキンメダイはメチル水銀が蓄積するため、妊婦の摂取に注意を促している。量の多寡はあっても海の生物には少なからず適用されるだろう。水銀の中毒は神経症状を引き起こし、水俣病の原因にもなった。ほとんどが魚類から取り込まれ、胎児に影響を及ぼす危険性が指摘されている。日本は各種業界に配慮し「平均摂取量を考えると直ちに問題が起こるとは言えない」などと甘い表現で決着させる。ついでに、「鯨肉は食文化と..」捕鯨再開を主張する人々には申し訳ないが鯨、イルカなどは食物連鎖による高濃度の汚染が知られている。肉や魚ばかりではない、野菜も穀物もすべての食材で安全なものなど一つもない。オーガニックでさえ完璧とは言えない。食べるための完璧か、生きるための完璧か、難しいことは考えず目のまえのものを食べるのが幸福なのかも知れない。
   
さば(鯖) 平・甘/脾・胃・心・腎/益気化湿・寧心補腎・瀉熱明目
日本各地の沿岸に生息し、東シナ海、朝鮮半島、台湾、フィリピン、北欧を回遊する。中国では青魚といい、青背魚の代表である。釣り上げると傷みが早いので2〜3跳ばして計数することから「サバを読む」の言葉が生まれたという。タイを「ハレ」食の代表とするならサバはサンマやイワシとならんで「ケ」食の代表と言える。タイに比べると脂が多く、春サバで10%、秋サバは20%と増えるため味もさらに良くなる。脂は甘みや旨みを演出する役割を果たす。しかし脂が多い為に下痢や腹痛を起こすこともあり、胃腸の弱い人や消化機能の落ちたときは多食を避けるほうが良い。脂の成分、エイコサペンタエン酸(EPA)は悪玉コレステロールを下げるが善玉コレステロールは上げ、血栓や動脈硬化を予防する。ドコサヘキサエン酸(DHA)は脳や神経の発育・維持に必要な「健脳食」と言われている。サバは生臭みの成分であるヒスチジンが含まれ、劣化に伴いヒスタミンに変化しアレルギー様食中毒の原因になる。1gあたりのヒスチジンの含有量をみてみるとマグロ580mg、カツオ550mg、ブリ490mg、サバ390mg...サバは他の魚に比べ多いほうではないが、表層水域に生息するため肉質が軟弱で劣化が早く、変化も早い。また、アニサキス症という寄生虫の恐れもあるので刺身などの生食には注意がいる。

サバと同じく青背魚のサンマ(秋刀魚)も秋には脂質が20%以上になる。焼き魚で食べることが多く、炭火で焼くと脂が燃え上がることもしばしば、蛋白質の焦げには発ガン性があるので、焼き加減に注意がいる。なるべくなら焦げは避けるほうが良い。大根おろしはこの発ガン物質を分解すると言われている。毎日食べるわけではなく、旬に数回、サンマを食べるくらい...味覚のためなら多少の焦げなど覚悟すべきかも。

イワシ(鰯)のエイコサペンタエン酸(EPA)はサバを上回り、価格も安いので蛋白源として利用されてきたが、近年不漁で高級魚になりつつある。数十年サイクルで不漁、豊漁を繰り返すといわれるので次の豊漁期に希望を持ちたい。イワシは骨も柔らかく丸ごと食べるため、カルシウムなどのミネラル補給も可能な一物全体食の代表である。

   
さけ(鮭) 温・甘/心・肝・腎/暖胃和中
太古の昔から冬を越すための貴重な保存食であった。アラスカ、カナダ沿岸、ノルウェーや日本の北海道が漁場となっている。川の上流で孵化した小魚は海へ下り北太平洋、北大西洋で過ごし3〜4年後、成魚になって産卵のため故郷の川に戻る。温性で胃を温め胃腸の機能を良くし栄養を補給する。蛋白、脂肪が多くカロリーも高いので一度にたくさん食べ過ぎると消化不良を起こす。脂肪にはエイコサペンタエン酸(EPA)やドコサヘキサエン酸(DHA)が含まれている。肉の紅色はアスタキサンチンと言い抗酸化作用が強く老化予防に期待がもたれる。サケは生食することはほとんどないが、肉に寄生虫が感染していることがあり、マイナス20度以下で冷凍すると死滅する。
   
こい(鯉) 平・甘/脾・胃/補脾健胃・利水消腫・通乳汁・利黄疸
淡水産の白身魚で、江戸時代から養殖が始まった。現在流通しているコイも殆どが養殖ものである。清流近くの料亭で出される鯉料理は演出も相まって人気も高い。海水魚ほど頻繁に食べるものではなく、料亭で年に数回も食べれば多いほうではないかと思う。私はここ十数年、全く食べたことがない。鯉は薬用として広い用途があり、漢方薬にも用いられてきた。胃腸の機能を高め、母乳の分泌を良くする。利尿作用が強く浮腫みや黄疸を解消する。利尿効果を高めるため調味料は使わず小豆と一緒に煎じて服用する。肉だけではなく、胆のうは目の充血、緑内障、小児の咽の腫痛に。脂肪は精神安定に。脳はてんかんや突発性難聴、緑内障に。血は化膿症や小児の皮膚炎に。腸は痔ろうや小児の皮膚病に。歯は婦人の於血による腹痛に。ウロコの黒焼は吐血、不正出血に用いる。肉は脂が多く美味であるが海水魚のようにDHAは含まれていない。食べ過ぎると痰と熱を生じるので熱っぽい人やのぼせ、高血圧などのある人は控えめに。肝臓ジストマの幼虫が寄生している恐れがあるので生食は注意がいる。コイに限らず淡水魚は寄生虫が多く生食は避けるか加熱調理する。刺身で食べてこそ美味いという嗜好が理解できない。肉も刺身も味わいの大きな要素はタレや醤油などの調味料ではないか?調味なしに美味いと感じるのは主食である穀物以外にない。近年、鳥インフルエンザとならび、鯉ヘルペスで多くのコイが水域ごと処分された。人への感染や危険性はないと言われているがウイルスならば、いずれ種の壁を越えるのではないかという懸念もある。

コイに似た淡水魚がフナ(鮒)である。コイと同様の薬効で利用されてきた。淡水魚のなかでもコイやフナは姿形がタイ(鯛)に似て全国の河川に生息するのでタイの代用とされた。タイもコイも買えない庶民の魚がフナということで、佐賀・鹿島では恵比須祭りに鮒の昆布巻きを作る。鱗も腑も丸ごと昆布で巻いて、大根、人参、ゴボウと一緒に醤油と水飴で1日煮込む。恵比須さまにタイの代わりに奉納し二十日正月を祝う。

   
あさり(浅利) 微寒・鹹/肺・脾・胃・腎/潤五臓・止消渇・清熱化痰止咳
貝類のなかでも食卓に上る頻度が最も高い。淡水の流入する内湾に好んで生息するが、汚れた砂泥地のものは殻が厚く黒ずんでいる。沖合いの水のきれいな場所のものが殻も薄く模様も美しく味も良い。河川や沿岸では流入する汚染物質が泥土に蓄積するためその心配もある。私は旬に数回食べるにとどめている。生産量は年々減少し、1990年71000tあったのが2000年には36000tと半減した。朝鮮産の輸入アサリを国産とした問題で騒がれたが、モラルを問わないならばどこのアサリも大きく違わないだろうし、きれいな海域で獲れたものであれば日本の沿岸ものより汚染も少ないはずだ。現在、流通しているアサリの2/3が輸入ものである。蛋白質、脂肪、カルシウム、リン、鉄、ヨード、ビタミンB群を多く含み、五臓を潤し補養する。貝殻は微寒性で熱を収め痰を去り咳を止め、また堅いできものを軟らかくするので腫瘍などに用いる。肉には他の貝類より10倍も多いコハク酸が含まれ、これがアサリ特有の旨みを演出し糖代謝にも関与する。潮干狩りは春の風物詩であるが夏になると有毒プランクトンなどの摂食により肝臓毒が出てくる。また地域によっては春先のアサリにも有毒なものがある。貝類は種類を問わず食べすぎに注意する。
   
いか(烏賊) 平・甘鹹/脾・肝・腎/養血滋陰・補肝腎
亜熱帯から寒帯まで広く生息し種類も多く、日本近海では100種類以上が知られている。 食用とされるイカの80%はスルメイカで他にケンサキイカ、ヤリイカ、アオリイカ、コウイカなどがある。コレステロールが多く含まれるがタウリンも多いため、血中のコレステロールの増加は抑制される。タウリンは軟体動物の血液ともいわれるアミノ酸でイカにはとりわけ多く、肝臓の解毒機能を強化するため栄養ドリンクに配合される。加熱によって分解されるのでタウリンを摂取する為には生食に限る。イカ墨はアミノ酸のチロシンが変化したもので、ドーパという神経伝達物質のもとになる。イカ墨パスタ、イカ墨ご飯、イカ墨パン...ひところの墨ブームが懐かしい。イカの甲は烏賊甲(うぞくこう)といい主成分は炭酸カルシウムで漢方薬の原料になる。微温で収斂・止血・制酸の作用があり、帯下、早漏、不正性器出血などに用いる。
   
えび(海老) 温・甘/脾・肺・肝・腎/補腎壮陽
日本ではエビが好まれ世界の漁獲量の1/4にあたる30万トンを1年で消費する。約3000種が知られ、日本では700種くらいが知られている。クルマエビ、イセエビ、アマエビなどが多く流通している。温性で栄養豊富な長寿食品とされている。胃腸の弱い人や老人にも良いが、食べ過ぎると体に余分な熱がこもることがある。殻の赤褐色はアスタキサンチン色素が蛋白質と結合したもので、加熱すると蛋白の変性に伴って鮮やかな紅色を呈する。強い抗酸化力があり、悪玉コレステロールを制し、網膜にも作用し視力低下を防ぐ。ベタイン、アルギニンというアミノ酸が多く含まれることでエビ特有の旨みが発現する。ミネラルも多く、殻のまま食べられる小型のエビはカルシウムの補給になる。殻には多糖類のキチンキトサンが含まれ、免疫力強化はじめ様々な効果があるとして健食業界では宣伝に余念がない。高分子であるため殻のままでは吸収されず、低分子に加工したサプリメントが良い。と...そして、それはここで販売しています。と..来る。エビやカニの殻はもともと産業廃棄物以上のものではなかった。ここから宝の山を探し出した人は尊敬に値する。エビはコレステロールが多く、牛ロースの2倍、豚ヒレの3倍となっている。幸いコレステロールを下げるというタウリンやキチンキトサンが含有される。しかし、加熱分解するタウリン、そのままでは吸収されないキチンキトサンが有効であるような食べ方をしないと難しい。
   
かに(蟹) 寒・鹹/腎・肝・心/清熱退黄疸・補骨生髄・活血散於・解漆毒
エビと同じ甲殻類に属し、陸から深海にいたるまで多種類のカニが生息し、日本では800種以上が知られている。エビほど頻繁には食べないが美食メニューの一つで、ガザミ、ケガニ、松葉ガニ、ズワイガニ、タラバガニなどがある。寄生虫の恐れがあるため生食は禁物である。中まで熱が通るように加熱調理する。エビは温性だが、カニは加熱しても寒性のままである。胃腸の弱い人や小児、妊婦など食べすぎに注意する。また、冷たい飲み物や料理、果物など同時に摂取すると腹痛や下痢を起こすことがある。エビと同じく甲羅にはタウリン、キチンキトサンが含まれその利用が期待される。東洋医学的な効能も身より殻の用途が広い。カニは傷みが早く鮮度の落ちたものは食べないようにしたい。魚介類の食べすぎ食あたりには解毒剤として紫蘇葉が用いられる。
   
調味料・し好品 【寒 熱・五 味 / 帰 経 / 効 能】
   
しお(塩) 寒・鹹/胃・腎・大腸・小腸/清熱涼血
体の機能を正常に維持するため不可欠の調味料である。塩をはじめとし調味料、し好品は主食、副食と違い、多く摂取すべきものではない。適量といわれる限度を超えると逆に体に不都合な影響を及ぼしかねない。日本では塩の品質・価格の安定供給のため明治38年に専売制度が取り入れられ、それ以降純度100%の塩(塩化ナトリウム)が主に流通してきた。生活が豊かになると味覚や料理への拘りも生まれ、専売のルートを通さないニガリを含んだ自然塩が出回り始めた。1997年ついに専売制が廃止され、今ではおびただしい数の塩が並ぶようになった。ニガリを含有し製法が異なるだけで「全然違う...」という人も居る。主成分は塩化ナトリウムなので全然別物ではないのだ。高価な塩を使っているからという気持ちはわからないではない。ニガリは料理の風味を高めるが、塩の使用量から考えてミネラル補給に良いとまではいえない。用途によっては100%の塩化ナトリウムが好ましいときもある。塩は細胞や血液の浸透圧を調節することで血圧を維持し、腎臓の水分代謝を調節し、神経や筋肉の働きを円滑にする。ひとたび摂取過剰になると血液の水分は排泄されず、浮腫や血圧上昇が起こる。腎臓に負担がかかるので腎疾患の人や妊婦は控えめに。また塩分濃度が高いと食道や胃の粘膜を傷めガンを引き起こす恐れがある。塩梅(あんばい)とは料理の味加減、体の具合、物事の適度を意味し、塩のみならず、調味料、し好品に通ずる用語である。
   
こしょう(胡椒) 温・辛/胃・大腸/温中散寒/行気散痰
スパイスの代名詞とも言うべきもので、人気も使用量も多い。大航海時代のヨーロッパでは「黄金の植物」といわれ、これを求めて航海や貿易が盛んに行われた。肉の調理に用いると臭みを消し、風味を増し、保存効果も得られる。黒胡椒と白胡椒があり、黒は未熟実を収穫後、数日間発酵させて乾燥する。香り辛味とも白より強い。白は完熟実を水でふやかし外皮を取り去り乾燥する。黒よりマイルドな風味が特徴である。日本へは8世紀以前に渡来しているが、17世紀オランダから持ち込まれるようになって一般に使われ出した。江戸時代には「うどん」の薬味とされていたが、江戸後期になり七味唐辛子にとって代わられた。温性のため冷えによる下痢や腹痛に良く、胃腸の運動を高める。熱っぽい人や発熱、炎症のあるときには、それを助長するので控える。辛味成分は回虫の駆除作用も備えている。
   
さとう(砂糖) 平・甘/肝・脾・肺/生津止咳去痰/解酒和中
ヒトの味覚は甘味を志向する。これは、生存のエネルギーを甘味で得るための神からの賜物だという。飢餓状態には取り急ぎ甘味を補給することで急場をしのぐ。砂糖は甘味の代表ではあるが、日常摂取するのに適切な糖類は穀類をおいて他にない。砂糖は蔗糖とも言いブドウ糖が2分子結合したものである。植物(甜菜、砂糖黍など)に含まれる甘味成分を精製して作り、その度合いで黒砂糖、三温糖、白砂糖などに分類される。穀物に比べ吸収が桁違いに早く、それに体の機能が追いつかないため、糖尿病や高脂血症、肥満などを引き起こす。また高濃度の砂糖は虫歯の原因になったり、胃の粘膜を傷める。砂糖が不足することはなく、過剰の害があらゆるところで叫ばれる。中にはヒステリックに砂糖の危険を告発する書物もあり、朝から晩まで砂糖の虜になっている人には、それくらいの脅しも必要かと思う。現在は砂糖以外の甘味料も種々流通している。砂糖は消化過程でカルシウムやビタミンを消耗するので、蜂蜜や麦芽糖などを用いて風味を楽しむのも良い。
   
みそ(味噌) 寒・鹹/脾・胃・肝・腎/清熱解毒・除煩
日本では欠かせない調味料だが、味噌の原形は中国で発明されたと言われている。日本へは奈良時代に伝えられ、室町時代に普及した。大豆や穀物の保存食という見方もできる。一汁一菜といえば、ご飯とみそ汁とおかず一品の簡素な食事をいう。簡素であるが雑穀や汁の具を工夫することにより栄養学的に豊かな食構成が可能だ。大豆、麦の蛋白が発酵することでリジンなど種々のアミノ酸が産生され、ダイズサポニン、レシチン、ビタミン、ミネラル、食物繊維などが含まれる。保存の為の塩分が多く、高血圧の人や腎疾患のある人、妊婦は控えめに。味噌は魚や肉の生臭さを消す効果があるので一緒に煮込んだり、旨み成分が不足する野菜料理や保存のための漬物にも用いる。
   
しょうゆ(醤油) 寒・鹹/脾・胃・腎/清熱解毒・止痢
味噌と同じく日本では欠かせない調味料である。製法も途中までは味噌と殆ど変わらず、塩水を入れて熟成後モロミを搾り取って得られる。日本では大豆、小麦を原料とするが、アジアの各地では魚を原料とする魚醤(しょっつる、ニョクマム、ナムプラー)も用いられる。味噌の上澄みを使ったのが始まりではないかと言われている。紀州で広まり、1580年に味噌・醤油の製造元が開業し、1644年には浜口儀兵衛が房州・銚子に渡って技術を伝え、そこから全国に広まった。 塩分が多く、旨み成分のグルタミン酸、アスパラギン酸、コハク酸、酸味を感じさせる乳酸や酢酸などが渾然となって独特の風味を醸しだす。アミノ酸があるからといって積極的に栄養補給に用いられるものではなく、あくまでも少量を使う調味のための食材である。魚の生臭みを消すので刺身、鮨にはそのまま用い、煮物、吸い物、炒め物、漬物など調味の要として利用される。醤油は発酵・熟成して作るが現在ではこの手間を省いたものが流通している。ラベル表示を見ると、大豆、小麦、食塩と書かれているものは珍しい。普通は、脱脂加工大豆、小麦、食塩、アミノ酸、アルコールなどが書かれている。さらに甘味料(甘草、ステビア、サッカリンNa)、カラメル色素、ビタミンB1、保存料(安息香酸Na、パラオキシ安息香酸)などの表示も見かける。食品を買い求めるときは表示情報に注意し、費用対効果あるいは満足度を考えて選びたい。醤油の表面に浮かぶ白い膜は酵母菌によるもので、発ガン性がある。取り除いて用いるか、夏季には冷暗所に保管するのが望ましい。カビを防ぐためには防腐剤など容認すべきかも知れない?
   
す(酢) 涼・酸甘苦/脾・胃/健胃消食・収斂止痢・活血・解毒
塩に次ぐ古い調味料で紀元前5000年のバビロニアの古文書にも記録が残る。酒を放置しておくと酢に変化するが、良好なものを作るためにはアルコールを酢酸菌によって酢酸発酵させる。米、玄米、その他の穀物又リンゴやブドウなどから作った酢がある。酢酸のほか乳酸、コハク酸、リンゴ酸などの有機酸やグリセリン、アルコール、アミノ酸などを含み、酢の種類によって濃度比が異なる。酸味は肝臓の解毒能力を高め、疲労物質の乳酸を分解し蓄積を防ぎ疲労を回復する。蜂蜜と酢を混ぜた飲み物はローマ時代すでに兵士たちの疲労回復剤として用いられたという。殺菌力があるので防腐・保存に優れピクルス、酢漬けなどに利用される。魚などを漬けておくと骨が軟らかくなり、食べやすくなる。塩分、脂、辛味を緩和する効果もある。漢方では酸味を備えた薬物が少なく、必要があれば酢そのものを加えて薬草を煎じる。苦酒と言い「消炎、収斂、散於血、解毒、消食、魚肉の中毒、心腹の疼痛、腸炎、下痢、盗汗..」などに用いる。
   
はちみつ(蜂蜜) 平・甘/肺・脾・大腸/補中・潤燥・止痛・解毒
古くから貴重な甘味料として採集に頼っていたが、7世紀頃朝鮮半島から養蜂が伝えられた。江戸時代までは日本ミツバチによる養蜂で、効率の良いものではなかった。明治になってイタリアで改良された西洋ミツバチが導入され現在に至っている。蜂が集めてきた花蜜のショ糖(砂糖)は蜂の唾液中の酵素によって果糖とブドウ糖に分解され、濃縮され貯蔵される。蜂蜜100gを集めるため延べ1万回も花と巣を往復するという。週休2日、祭日、年次休暇を引いて200日職場と家を往復するとして50年である。蜂が汗して集めた蜜を人の手でさらに奪い取る因果な食材である。40%が果糖、30%がブドウ糖で水分は17〜20%程度、残りは麦芽糖、蔗糖などの糖類やミネラル、ビタミン、酵素が含まれている。花の種類によって色や香りや風味に個性があり、普通レンゲ、ミカン、アカシアなどが多く用いられる。稀に毒花の蜜を集める恐れがあるので素性の確かな蜜を求めるほうが良い。価格も安いものから高価なものまであるが原材料の表示に「異性加糖」「精製蜂蜜」「加糖蜂蜜」など書かれたものは注意がいる。「異性加糖」は、とうもろこし、馬鈴薯などのデンプンに酵素を作用させて液状の果糖とブドウ糖にしたもの。「精製蜂蜜」は蜂蜜から臭い、色等を取り除いたもの。 「加糖蜂蜜」とは異性加糖などを加えて増量したもの。いずれも果糖、ブドウ糖が入っていることは間違いないが、微量の成分や風味が異なる。蜂蜜は日本薬局方に収載され医薬品として製剤原料に用いられる。漢方薬としての応用はさらに広く、丸剤を製造するときには欠かせない。また蜜煎導といい蜂蜜を加熱して棒状に固めたものを、肛門に挿入し便通を促す。甘草粉蜜湯は甘草、米粉と一緒に煎じ回虫駆除のため内服する。砂糖と違いすでに果糖、ブドウ糖に分解されているので吸収が早く、疲労回復や病中病後、虚弱者の体力回復に用いる。胃腸の消化や便通を促すので、消化不良にも良い。消化の過程でビタミンやミネラルの関与を必要としないので、砂糖と違い骨や歯の元となるカルシウムの損耗がない。甘味も強く、その分少なく用いて甘味を楽しむことができる。蜂蜜には食中毒を引き起こすボツリヌス菌の芽胞が混入している恐れがあるので、消化管の未発達な1〜2歳未満の乳児には慎重を期して与えないほうが良い。
   
とうがらし(唐辛子) 熱・辛/心・脾/温中散寒・開胃消食
中南米の高地が原産で、メキシコでは紀元前5000〜6500年前から使用された記録が残る。コロンブスが中南米からスペインへ持ち帰り、わずか200年で全世界に広まり食文化に大きな影響を与えた。唐辛子を用いる料理とは別に、食堂、料亭、レストランなどへ行けば必ず醤油、塩とともに唐辛子(または柚子胡椒、タバスコ)が置かれている。佐賀では唐辛子を胡椒(こしょう)といい胡椒(ペッパー)と混同することがある。客を食事に招待したとき「こしょう」を要求されたら、あうんの呼吸で何が必要かを判断し「生の唐辛子、乾燥唐辛子、柚子胡椒、ペッパー)のいずれかを差し出す。農家では庭先に唐辛子を植え、生で用いたり、収穫後乾燥し砕いたり、柚子と練って利用していた。胡椒と違い熱帯から温帯の広い地域で栽培可能なため広まったものと思われる。ビタミンCやカロテンが多く含まれるが、辛味の強い食材からの摂取は限度があり現実的ではない。辛味成分はカプサイシンでその刺激で血行や新陳代謝を促す。このため美容やダイエット効果を謳う雑誌や番組を見聞するが、お勧めできるものではない。唐辛子の辛味はとりわけ刺激性が強く痛覚の域に達し、この点で他のスパイスと明らかに異なる。インド、タイ、韓国など日常的に用いる国では、子供の頃から徐々に辛味に慣らし、胃腸を強化していく。老人や小児、病中病後の人は刺激によって血管の充血が起こるので控えるほうが良い。前立腺肥大、膀胱炎、痔などには禁物である。このほか胃痛、慢性胃炎、高血圧、糖尿病、心臓病、扁桃腺炎、皮膚病などの病気を誘発しやすい。1980年代に第一次激辛ブームがあって10倍カレー、20倍カレーなどの商品が並んだ、好奇心旺盛にも..10倍のものを食べてみた。と!突然、脳天から肛門に突き抜けるような痛みを感じ、脱肛、痔出血に悩まされた。今では少量の唐辛子でも反応するようになってしまった。自分の体験からも唐辛子は絶対お勧めできない。最近では第二次激辛ブームといって、面白く可笑しくレポートする番組を見かけるが、あの業界の人々は面白ければ、人が苦しんでも構わないのだろうか。「誉められて唐辛子を食う」という諺がある。他人におだてられ調子に乗ったあと苦しむという意味である。日本でも利用はされてきたが、多く使われるようになったのは最近のことである。豊かになってグルメが増え、またそれを促す情報の影響が大きいと考えられる。それまでは、せいぜい薬味や香り付けに少量使われる程度だった。生姜、わさび、和辛子、胡椒(ペッパー)など他のスパイスは唐辛子ほど深刻ではない。
   
ゆし(油脂)  
油(あぶら)は常温で液体のものをいい、不飽和脂肪酸が多く含まれ大豆、菜種、米ぬか、こむぎ胚芽、ひまわり、胡麻、紅花、綿実油など植物性が多く、てんぷら、サラダ油に用いられる。脂(あぶら)は常温で固体のものをいい、飽和脂肪酸が多く含まれ牛脂(ヘット)、豚脂(ラード)、乳脂(バター)など動物性が多い。蛋白質(Protein)、脂肪(Fat)、炭水化物(Carbohydrate)の1gがそれぞれ4cal.、9cal.、4cal.となり、油脂はカロリーが高い。カロリーパーセントで食物を考えることを「PFC比率」と言い、脂肪1〜2%と表示があればヘルシーな感じを受けるが、カロリーで表示すると20〜30%の比率になることがある。脂肪の過剰摂取を控えるように指導される昨今、売る側は重量比率を表示することで錯覚を与えるが、買う側はカロリーで考え自己防衛をしなくてはならない。脂肪は少量でカロリーが高く消化管にとどまる時間も長いのでカロリー補給や寒冷地での耐寒に役立つ。植物油に多い不飽和脂肪酸には リノール酸、リノレン酸(αーリノレン酸)、オレイン酸があり、細胞膜の成分やホルモンの合成に関与するなど体の維持に欠かせない物質である。特にリノール酸とリノレン酸は体内で合成できないので食物から摂取しなくてはならない。不飽和脂肪酸は血液中のコレステロールを下げ動脈硬化や高血圧の予防効果がある。魚介類の油脂であるエイコサペンタエン酸(EPA)やドコサヘキサエン酸(DHA)なども同じ働きを持つが、調味料としてはあまり用いない。不飽和脂肪酸は酸化しやすく過酸化脂質となったものは老化や発ガンを誘発しやすい。光や熱、空気中の酸素によって劣化したものは避け新鮮なものを用いる。とくに紅花は不飽和脂肪酸が多く、加熱する料理には不適である。酸化しにくいオリーブ油を用いると良い。動物性の脂肪は体温との関係を考えると判りやすい牛の体温が38.0〜39.5度、豚は39.0〜40.0度。この脂が相対的に低い体温(人の体温36.5〜37.0度)では流動性が落ちることになる。肉や牛乳を摂取した後、採血し遠心分離すると脂肪層が血液の上に浮かび上がってくる。これが動脈硬化を引き起こし循環器疾患の元になる。他にも乳ガン、子宮ガン、大腸ガン、膵臓ガン、前立腺ガンなどにかかりやすくなる。美味いことや旬であることを「脂の乗った...」と表現するが、甘みや旨みは油脂の存在でさらに味覚を濃厚に演出する。油脂の特性を念頭に調味の塩梅を心がけなくてはならない。
   
コーヒー 温・甘苦/肺・肝・脾・胃・心/利尿解毒・中枢興奮
アフリカのエチオピアが原産でアラビア、ヨーロッパへ伝わり、日本へは江戸時代にオランダから伝来した。一般に飲まれるようになったのは明治以降で、広まったのは戦後になる。1980年頃から急速に伸び始め1995年には現在のレベルに達している。いまや伝統的な緑茶を席巻するまでになった。し好品に栄養学的価値を求める利点は少ない。あくまでも心の栄養と考えるべきであろう。しかし、過剰になることでの心身への被害は見逃すことができない。カフェイン飲料の代表ともいうべきコーヒーは中枢神経を興奮させ、精神を活発にし、運動能力や気分の高揚が得られる。これは興奮によるものなのでやがてカフェインの血中濃度が低下すると、一層だるさが募ることになる。そこでまたコーヒーを欲し、次第に習慣性を帯びてくる。味覚も変化し慣れが生じ、砂糖、ミルクを入れて飲んでいたものがやがてストレートでも飲めるようになる。胃腸の弱い人はカフェインの刺激で胃潰瘍が誘発されるので空腹時を避ける。小児は脳が発達途上なので、中枢を刺激し精神状態が不安定になりやすい。このことはカフェイン含有飲料すべてについての警告である。同様の理由で胎児のために妊婦も飲まないほうが良い。カフェインは遺伝子を傷つけ胎児の奇形を誘発する恐れもある。コーヒーでガンが治るなどの話題があれば、その出所やスポンサーを確認するくらいの疑いを持つべきである。コーヒーにはカフェインとともに微量の興奮物質が含まれていると言う。大量に飲むことによって脳の血流が減少し、心筋梗塞や脳梗塞を引き起こしやすくなる。美容にも大敵でメラニン色素の合成に関与しシミの発生や拡大を促す。ビタミンB1を破壊する働きや、乳腺膿腫を誘発する疑いも指摘され、卵巣膿腫に至ってはコーヒー常飲者で発生率が2倍になるという報告がある。一杯のレギュラーコーヒーにカフェインが80〜120mg含まれる。カフェイン(劇薬)の1回極量(通例、その量を超えて用いない量)は500mgで立て続けに数杯飲む人は注意すべき数値である。私の知る最高飲用数は1日20〜30杯の人が居た。驚くべき量であるが、これくらい飲用する人は案外多いのではないかと思う。参考までに他のカフェイン含有量は、解熱鎮痛剤:26〜120mg/1日、かぜ薬:60〜150mg/1日、眠気防止剤:150〜500mg、ドリンク剤:50mg、缶コーヒー:67.5〜197mg、缶日本茶:18.9〜59.1mg、缶ウーロン茶:40.2〜91.4mg、缶コーラ:38.6〜72.6mg、緑茶-玉露:160mg、煎茶:20mg....心にゆとりや潤いをもたらすはずの嗜好品が、逆にストレスを誘発する。最近多いパニック症候群などに、微量のカフェインすら禁止する医師も少なくない。薄めに少なめに楽しむことこそ嗜好品の本懐であろう。
   
りょくちゃ(緑茶) 寒・苦甘渋/心・肺・腎/清頭目・除煩熱・化痰消食・利尿解毒
中国の雲南省、四川省が原産で宋時代、禅僧栄西によって日本に伝えられた。日本の伝統的な嗜好品のためか、善意の扱いを受け「養生の仙薬」とも言われる。しかし、あくまでも嗜好品であることをお断りしておきたい。ビタミンC、カテキン、タンニン、カフェインがその成分になるが、各々に好意的な解釈が為される。ガン予防効果だったり、抗菌作用だったり、免疫力、コレステロール降下、老化予防など様々である。調べているうちにアトピーや放射線障害に効くと書かれたものまで見つかる。ここまで効用を広げるのは「お茶をにごす」行為に等しい。優れた成分が含まれていても、カフェイン含有飲料に違いはなく、嗜好品として楽しむべきものだ。緑茶でガン予防をしなくても、野菜でもできるし穀物でもできる。緑茶は体を冷やすので冷え症や病中病後の人は飲用を控えるか、焙じたものを少量にとどめる。楽しみのためなら一杯で済むところ、接待や茶話会では次々と注ぎ込まれる。お茶を1日10杯飲む地域の人はガン患者が少ないという研究まで報告し、緑茶の消費を図るが、10杯分も飲み込んだカフェインはいったいどうなるのだ。あるお茶の販売サイトでは、カフェインを少なくしたお茶なので赤ちゃんに飲ませも良い、というような事が書かれていた。カフェインの害はコーヒーのところで述べたとうり。未発達の赤ちゃんの脳のためには微量のカフェインさえ与えないほうが良い。大人でも心身ともに疲労が溜まったときは、わずか一杯でも夜通し眠れないことがある。また、仕事上の感触であるが老化に伴う前立腺肥大が増えている。老化は仕方がないが、前立腺のトラブルを抱える人に濃い緑茶やコーヒーを頻繁に飲む例が多いように思う。カフェインは前立腺障害を引き起こすという報告がある。
   
ビール(麦酒) 涼・苦甘/脾・胃・心・肝・腎/健胃消食・清熱解暑・利尿
し好品飲料の中では明らかに精神の変容をきたすもので、それを楽しみに飲むのがアルコール飲料である。ビールは5000年ほど前メソポタミア地方のシュメール人によって造られたといわれる。その後エジプトからヨーロッパに伝わり、殺菌法や酵母の培養法など醸造に必要な技術が次々と生まれた。 日本へは1724年オランダ商船が持ち込んだといわれ、明治3年横浜で、技師ウィリアム・コープランド(1832〜1902)によって始めて製造された。昭和34年(1959)には清酒を抜いて酒類の消費第1位となり、それ以来毎年トップの座を守り続けている。さらに1994年酒税法が改正になり、ビールの年間最低製造量が2000KLから60KLへと大幅に引き下げられたことで、全国各地でオリジナルの地ビールが造られるようになった。時を同じくして酒税との戦いの結果、発泡酒が生まれた。本来、麦芽とホップを原料とするが、麦芽の代わりにトウモロコシや各種雑穀の澱粉を用いる。麦芽比率67%未満のものが発泡酒とされているが、麦芽以外の澱粉を用いるビールはすべて発泡酒とすべきである。発泡酒は麦芽比率が25%未満のものが多く、その中で大麦麦芽100%の発泡酒もある。これならば、一般の雑穀ビールより優れていると思う。季節をかんがみることもなく、雪降る日も冷えたビールを飲む人が居る。涼性・苦味のビールをさらに冷やし、いっきに大量に流し込む、脂の乗った肉を食べ、出来ればタバコの煙の立ち込める居酒屋が好ましい、このような食行動がまともと言えるだろうか?水分を多量に取ることで心臓や腎臓の負担になり、女性ホルモン様作用を持つホップが水分や脂肪を蓄え肥満化しやすくなる。貝原益軒先生曰く「異国より来る酒、のむべからず、性しれず、いぶかし」。焼酎などの蒸留酒も「火酒」と言い多飲を戒める。私は、やや辛めの日本酒(純米酒)で微酔いを楽しみとする。宴席ではこの二つの願望が叶えられないので、できる限り避けている。
   
せいしゅ(清酒) 温・甘辛苦/肝・肺・胃/活血散於・止渇除煩
酒は製法によって日本酒、ビール、ワインなどの醸造酒と焼酎、ウイスキー、ブランデーなどの蒸留酒に分類される。酒といえば日本酒をさすものであったが、あらゆる地域の酒が入手できる現在、「酒」だけでは通じなくなった。米を原料とする酒は水稲栽培が盛んになった弥生時代以降になるが、それ以前は山ブドウなどの果実で酒を仕込んだといわれる。奈良時代に入って現在の米、米麹による醸造が行われ、1000年以上もの時を経て受け継がれ風土に応じた酒や食の文化を築き上げてきた。歴史や伝統のあるものにはそれ相応の敬意を払いたい。ここ数年で人気を得た発泡酒や酎ハイ、またはわけのわからぬ雑酒とは一線を画すべきと思う。私は特に清酒を好むというわけではないが一献の酒を振舞われるなら「清酒」を選ぶ。アルコール度数で分類すると、日本酒:15〜18%、ビール:4〜6%、ワイン:12〜14%、焼酎:20〜35%、ウイスキー:40〜60%、ウォッカ:40〜96%になる。どれを愛飲するかは好み以外のなにものでもないが、醸造酒はアルコール度数も低く糖質を含有するため穏やかで味もまろやかである。日本人は体質的にアルコール脱水素酵素(ADH)やアルデヒド脱水素酵素(ALDH)の一部が欠損している。そのため少量のアルコールでも血液中のアセトアルデヒドの濃度が上昇し顔面紅潮、吐き気などの中毒を引き起こす。アルコール度数や原料の米を考えるなら、清酒は日本人の体質や風土に見合うものであろう。焼酎も6:4とか5:5、、という割合で清酒程度の度数に調節して飲むことが多い。清酒180mlを飲んだときアルコールの血中濃度は0.05%で気分の発揚をもたらすが、さらに量を重ねると0.08%:運動の低下・反射の遅れ、0.10%:運動の明らかな障害、0.20%:錯乱・記憶力の低下・重い運動機能障害、0.30%:意識の喪失、0.40%:昏睡・死、という経過を辿る毒物である。古典医書にも「酒は甘辛苦味、大熱で有毒、長く飲むと集中力が衰え、寿命が縮み、筋力が衰弱する。酔って寒風に当たると顔面麻痺に、冷水を浴びると筋肉痛になる」と書かれている。現代医学の病名でアルコール性○○○と付く病名をあげてみると、脂肪肝、肝障害、心筋症、胃炎、膵炎、痴呆症、依存症、精神病、多発性神経障害、小脳変性症、脳症など様々なものが知られている。「酒は百薬の長」という諺もあれば「酒は百毒の長」というのもある。自分に快適な情報のみを都合良く解釈しないよう心がけたい。
   
しょうちゅう(焼酎) 温・辛甘/脾・胃・肝・腎・心/調胃・散寒・和血通経
製造工程の途中までは清酒と変わらないが、醪(もろみ)を搾ることで清酒が、蒸留することで焼酎ができる。蒸留酒は紀元前にエジプトで発明された蒸溜器「アランビック」で製造された事から始まる。日本への伝播経路はいくつかあるが、14世紀に琉球に伝わり16世紀には南九州で広く飲まれていた記録が残る。現在、甲類、乙類に分けられ甲類は穀類のデンプンを連続式蒸留機で蒸留し、得られた96%という高濃度のアルコールを36%程度まで水で希釈する。乙類は単式蒸留機で蒸留し、得られた45%ほどのアルコールを20〜35%程度まで水で希釈する。乙類には芋、米、麦、黒糖、そば..など、原料となる穀物の風味が残存し特有の味わいを醸しだす。糖質を含有しないため「すっきり」して脂の多い料理に合い、湯割り、水割り、ロックと飲み方も多様なことから愛飲する人が増え続けた。2003年の酒消費量統計では清酒82万KLに対し甲乙焼酎が92万KLと追い抜いてしまった。焼酎は清酒よりさらに陽性が強く、のぼせや発汗を促す傾向があり、顔が乾燥、充血する人も見受けられる。濃度の高いアルコールを空腹時に飲むことで食道や胃の粘膜を傷めたり、消化液の蛋白を凝固させ消化障害を起こすことがある。酒屋が発信する「酒の話」を列挙すると、ストレス解消から始まり、血行改善、コレステロール低下、血栓溶解、動脈硬化予防、老化防止、抗ガン効果、、などと書かれている。もちろん適量の但し書き付きである。こうした業界の努力の結果、1965年を100としたアルコール消費量が1993年には227まで膨らんでしまった。欧米先進諸国のアルコール消費量は年々減少、又は頭打ちの傾向にあるというのに、凧の糸が切れたような状態である。CMの回数を調べてみると上位20社に4社もの酒造メーカーがランクされている。軽快な音楽や人気俳優のコメント、またグルメ番組とともに酒の消費はどこまで膨らむのだろう。コンビニ、自販機...子供でさえ容易に入手できるほど節操のないものになってしまった。
   
みず(水) 涼・淡甘/五臓六腑
人体の60〜70%が水分で構成され、乳児にいたっては80%といわれる。水はまさに命をはぐぐむ源である。この万人共通の認識があるために水を巡るビジネスも華やかに展開される。嗜好品とすべきか迷うところであるが、市場を見る限りこのカテゴリーが適当なのかも知れない。ミネラル水、天然水、○○の湧水、深層水、、百家繚乱なのか百鬼夜行なのかは知らないが消費者を迷いや混乱に引き込んでいる。いずれの水も水道水の基準をクリアできるものがなく、高価で立派な割には水道水以下と言わざるを得ない。とくに一般細菌数では惨憺たる現状である。少し調べてみると各地の名水から水道水の何倍もの細菌が検出されている。水を売る人々は水道水のカルキや水道管の汚染を指摘するが、カルキこそ細菌数を減らす立役者なのだ。浄水器を通すことで水道水のカルキや水道管の異物などろ過できればこれに勝る水はないのではないか。ここで高価な浄水器を煽る人々の登場となるが、目的を達するためには2万前後の価格帯の据え置き型で十分だ。リフォーム詐欺、振り込め詐欺、、、水や食品についても詐欺まがいの宣伝に惑わされないように注意を喚起したい。10数年前、私も湧水を求め休日毎にドライブを続けていた。あるところから持ち帰った水で子供が細菌感染と思われる発熱・下痢を起こしてしまった。それを機に急速に覚め、いまでは湧水、霊水、天然水の類は必ず煮沸して飲用している。手間や労力をかけたほどの成果はなく、こだわりの水であっても総合判定で水道水に勝るとはいえない。山や野原の自然を満喫する意味ではお勧めできるのだが...食物なしに水だけで生きられる期間は40日位と言われている。しかし、40日も生きられるほど水は重要なものだ。水なしでは生きてゆけないし、水なしでは体も変調をきたす。だからと言って水で病気を治したり、予防はできない。東京に水道がひかれたとき、新聞には「東京市民は今後、天然の白虎湯を飲む」と書かれたという。涼性で熱を制し、潤すことで渇きを止める白虎湯の薬理と結びつけたものだ。「水の摂取は適量を..」と助言するのが一般的であるが、なかには極度に水を制限したり、浴びるように飲ませる治療家が見受けられる。病気や体質または季節、生活状態により水の所要量は異なるので、どれが正しいかは断定できない。しかし、摂取については注意すべき点がいくつかある。冷水は胃腸を冷やし動きを緩慢にするので一度にたくさん飲まないほうが良い。一回にコップ1杯程度を時間を空けて頻回にする。また食事前や食中、食後の多量の水分は消化液を薄め、消化活動を阻害する恐れがある。暑いときの冷水は体温を下げる役割もあるし何より「美味い」ものだが、一定の量を飲めば後の水分補給は温かいお湯でするほうが好ましい。養生や生活で100点満点を忠実に実行する必要はないし出来もしない。品性を欠く表現だが、時には「食いだめ」「暴れ食い」「暴飲暴食」もしかり。しかし、最良を模索することで「知」は「智」へと進化するのかも知れない。
   

 

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