【わが家の薬箱】


病院薬局に勤務しているころは、ブスコパン、ダンリッチ、バファリン、SM散等、常備し製薬会社に居た時は、そこの製品を見繕って常備していました。手近に入手できるもので薬箱を満たし利用してきたわけです。

薬が何もなければ、台所の食材や、野外の草根木皮を薬箱の一品としたのかも知れない「あなたは一体どんな漢方薬を服んでますか?」と良く尋ねられます。多くの薬草・漢方薬を扱っているのに、実際自分で使用してるものはそれほど多彩でも珍しいものでもないことに意外性を感じられるかも知れません。私の漢方学習の浅さを露呈するようで躊躇されますが随筆風にまとめて見ます。漢方の学習とは、最短距離で目標の地点に達するためだったり、見知らぬ路地に迷い込んだときのナビゲートのためだったりします。その必要がなければ大雑把な地図で目的地近くまで辿り着く事ができます。

小さい子供や家族に病気療養中の者が居れば薬箱の内容も変わってくるでしょう。基本的に煎じ薬を使いますが、緊急時の便利の為、薬方によっては丸剤、散剤、錠剤、顆粒剤なども利用します。漢方雑感として描いているので、ここには触れていませんが、この他、新薬や新薬の外用剤も常備しています。(使用頻度順)

 


【わが家の百味箪笥】


ハブ茶

ヨクイニン末

牡蛎末

復方丹参散

桂枝茯苓丸


六味地黄丸


黄連解毒丸


逍遙散加減方


漢方胃腸薬


補中益気湯


桂苓丸加大黄

五苓散

理中丸

柴胡桂枝湯

ドクダミ

金銀花

銀翹散

山査子末

三黄瀉心湯

三黄丸


四逆散加減


生 姜


麻黄湯


小青竜湯


二陳湯


センナ


田七人参末


牛 黄


独参湯


紫雲膏


中黄膏


黄柏末

 


ハブ茶

エビス草の種子を決明子といい、これを軽く焙じたものをハブ茶といいます。自宅の畑に毎年自生し、それを採集し使っていますが、足りないので店のハブ茶も利用します。

健胃整腸作用があり、緩和な瀉下作用があり、毎日の快便のため欠かさず飲みます漢方では肝や眼の病気にも応用します。ブラックコーヒーみたいな味でインドではコーヒーの代用としてつかうようです。1日10〜20gを急須に入れ最初は、煮立った熱湯を注ぎ10分程蒸らした後飲みます。次からはポットの湯でも構いません。湯を注ぎ足し数回飲めます。

 

ヨクイニン末(鳩麦)

4人に1人は癌で死ぬといいます。この歳になると漠然とした不安感で食養生や運動などが気になり始めます。抵抗力が落ちた分を薬に頼り、なんとか健康を維持したいと言うことで、ポリープや癌の予防に、服んでいます。1回10gを1日1〜2回。近年肌膚も老化し、シミやシワも目立ってきました。これにも効果的です。

イボや魚の目によく使われますが、ヨクイニンは硬結を軟化させる作用があります。角質化した皮膚、子宮筋腫、ポリープ、癌に応用するのもこの作用のためです。

こんな養生をしているのに、癌にかかって死んだら笑いものです。養生しても死ぬ時は死ぬ...生の執着という煩悩から解脱し、悟りが欲しいところです。

これは温心堂でも最も良く売れる生薬で、ポリープなどお持ちのお客さんには、迷わず勧めています。結果も良好で、毎年ポリープ切除を繰り返していたのに、これを服むようになってから全くポリープが出来ないというお客様がたくさん居られます。

 

牡蛎末(カルシウム剤)

カルシウムの必要性を訴える学者や情報番組は多いのですが、本当にカルシウムは沢山必要なものなのか?
戦後の話・・・アメリカの栄養調査ではアメリカ人のカルシウム摂取量が1000mg。それに比し日本を含むアジアの人は350mg〜400mgだったということです。さて日本人の摂取目標値をどうしようかと検討し、たして2で割り600mgという数値にしたそうです。真偽のほどは未確認。アメリカ人の1000mgは必要量という事ではなく、脂肪が沢山の牛乳を飲んでいるので図らずもその値になってしまったようです。

カルシウムの必要量を満たしていない。という幻想で、脂肪源である牛乳を勧めたり着色料で色つけられた高価なカルシウム錠、防腐剤の入ったカルシウム液を服んでいる人はかなりの数だろうと思います。桐箱に入れ金ラベルを貼り、医学博士推薦というパンフレットをつければ、法外な値段で販売しても納得する人が多いようです。

カルシウムに関する学説は幾つもありますが、あるカルシウム学者の説では、最も安価な沈降炭酸カルシウムでよいと書かれてありました。牡蛎末は正にそれに価するものです。1g服めば300〜350mgのカルシウムが摂取できます。残りは海草、野菜を食べれば、有り余る程のカルシウムが摂取されます。4ヶ月分で¥300...ポリ容器に入れて¥350...タダで仕入れたとしても¥300しか儲かりません。だからこそ利口な人は加工し、錠剤や液体にし、フルーツの香料をいれ、豪華なラベルのカルシウム剤を作り付加価値を上げるのでしょう。

カルシウムを摂取する事より、カルシウムを消耗する食品や添加物の摂取を控えなくては意味がありません。カルシウムを消耗(減少)させる食品は、砂糖、牛乳及び乳製品、卵、肉、魚、、、などになります。蛋白、脂肪を多く含むものは、その消化のためカルシウムを不断に消耗します。

食生活を考慮すればカルシウム剤など要らないのでしょう。しかし、やはり服みたい、そして服んだほうが好ましいかたは、この牡蛎末をお勧めします。何の加工も施さない自然素材そのものです。

 

復方丹参散

Rp.丹参・田七・山査子・香附子・竜脳 (散剤)

活血化於薬として中国で開発され繁用されている冠心二号方という薬方があります。心臓病、狭心症、心筋梗塞の初期、脳梗塞、脳塞栓の初期に使用しますが、40を過ぎた頃から動悸がしたり、心臓の不穏な動きを感じたり、脇部が痛んだりし始めました不安感に駆られ薬に頼る事になりました。早速この冠心二号方を服むと、気のせいか心臓の不安も消え去りましたが、やめるとまた起る。この繰り返しでした。

肝臓もおそらく弱っているのだろう、五行では肝→心→脾→肺→腎の順に衰えてゆくといいます。そこで田七人参を配合した復方丹参散を調合。脂肪・蛋白の消化を助け強心作用もある山査子を配合し、肝の気滞を除く香附子も入れました。竜脳が少量入っているのは、薬効の流れをよくする意味があります。清涼感があり、このおかげで服みやすく服んだ後容易に嚥下できます。それ以来この薬は常備しています。

それでも時々胸部が痛んだりの症状はおこります。まあ、こうしてだんだん老いてゆくのかもしれないと、今は観念しています。養生しても100まで生きる人は稀、80でさえ全うできないかも知れません。

田七人参は肝臓と同時に心臓にも効果的で、疲労回復、鎮痛作用もあります。分量は贅沢にも1回4〜5g程服用します。1〜2gでも良いのでしょうけど、薬屋をやってると薬に対する感受性が鈍って、少し多めに服まないと効かないような気がします。(笑)

 

桂枝茯苓丸

Rp.桂枝・茯苓・牡丹皮・桃仁・芍薬 (丸剤) 蜂蜜で丸剤とし清酒にて服用。

この薬の名前を初めて聞いたのは、学生のころ、薬用植物の講義のときです。先生の話によると「打ち身が予想される前に桂枝茯苓丸を服んでおくと打撲しても青い打撲斑が出ない。」との事でした。漢方を始めるまですっかりその事を忘れていましたが、今やこの薬はなくてはならぬ薬方の一つです。

「オケツ」という考えのもとに使います。怪我をすると鮮血が流れ、これは赤い色をしていますが、時間が経つと、やがてどす黒い赤に変化し、粘度を増します。さらに乾燥し茶色のかさぶたに変化し、やがてそれも治癒します。これは体表面での観察ですが、体内でも同じように時間の流れに従い血液の性状は変化してゆきます。やや粘性を帯びたものが末梢血管に滞る状態を漢方で「オケツ」と呼び、硬くなってしまったものを陳旧性オケツとして区別します。

血流が滞った部分は経絡の流れや血流を妨げ、痛みや諸々の障害を引きおこします西洋医学でも血行障害の認識はあるものの、時間の経過にしたがって性状が変化す
る血行障害の考え方には疎いような気がします。この「オケツ」の概念こそ漢方の得意とするところです。

「オケツ」の存在は、有名な小腹急結で確認できます。既に盲腸はないのに、盲腸あたりに圧痛がある、また腰や下肢のふくらはぎの凝りや痛み、首筋、肩こり、、、といった症状となって現れます。交通事故の直後あるいは重労働の直後は何事もないが2〜3日目から、痛み、凝りが生じるのは「オケツ」が原因です。先にも述べたように、時間の経過とともに血液の粘性が増した結果です。やがてそれは「古傷」と呼ばれる、固定的なものになります。

交通事故で打撲を負った人が見えられると、まずこの薬方を渡します。直後の薬はまた違った薬になります。私事ながら、数年前停車中、トラックに後部から追突され、早速、桂枝茯苓丸を用量の3倍、清酒に数分浸して酒ごと服用しました。車の後部が潰れるほどの事故だったにも関わらず、病院にも行かず、痛みや何ら障害もなく事なきをえました。私より軽い事故で延々と病院や鍼灸院へ通ってる人を沢山知っています

事故に限らず、スポーツをやる人などにも勧めたい薬です、日々筋肉を酷使する事はオケツを発生させているようなものです。その日のうちに桂枝茯苓丸でオケツを処理しておくと、疲労や障害が蓄積しません。

何事も若い頃は、生気も精力も抵抗力もあり、一晩休息すれば回復します。20歳代を100%とした数字をあげてみると、40歳代で50%、、、70歳代で10%。これほど衰えるという研究があります。もはや自力で疲労の回復は困難になる訳ですが、仕事量は20歳代と変わらないとなると、そこに何らかの助けが必要になります。私は、仕事や生活の減速を勧めますが簡単ことではありません。

私は、休日の農作業などのあと、この薬を必ず服みます。この薬は生薬末を蜂蜜で丸剤とします。蜂蜜は結合剤でもあり脾胃の薬でもあります。更にそれを清酒少量に浸してから服用します。油性成分を効率よく吸収するためアルコールがそれを助けます。さらに清酒が、腸の働きを良くしてくれます。酒が飲めない人は白湯で服む事になりますが、酒で服むのに比べると効果が70〜60%まで落ちます。

錠剤や顆粒などは、必要な成分が抜け落ちている。といっても過言ではありません。医療用の桂枝茯苓丸顆粒で何ら効果が見られなかった人に、丸剤を勧めて効果が見られた例は幾つも経験しています。

 

六味地黄丸

Rp.地黄・サンシュユ・山薬・沢瀉・茯苓・牡丹皮 (丸剤)
蜂蜜で丸剤とし清酒にて服用。

八味地黄丸また八味丸は良く耳にする漢方薬ですが、この製剤のない薬局・薬店など在りえないくらい有名です。中高年の尿の不調に、精力減退、目のかすみ、、という旗やポスターが最も多く目に付くのも八味丸です。この薬は排尿に力がなく、夜間排尿が3回以上あれば適用を考え、またそれだけを目標に使っても、病名と無関係に一定の満足感が得られます。この基本処方が六味地黄丸または六味丸です。

地黄・サンシュユ・山薬で三補、沢瀉・茯苓・牡丹皮で三瀉、この6種の生薬が配合され肝腎の陰虚を補い、血・水を利するという中立的働きを持ちます。体の免疫力を高める為の基本処方として繁用する漢方家もいます。

五臓の腎を補する薬として一番に掲げられるものです。私は意外にも効能に書かれている症状ではなく軽度の不安感に使って効果をえました。毎朝得体の知れない不安に種々の処方を試みても思わしくなく、朝の腰痛を目標に就寝前服用すると、次の朝腰痛も楽になり不安感も消えました。喜・怒・憂・思・悲・恐・驚、七情の水・腎たる恐驚を補して成功したのかな?と思ったりしましたが、他に相克や相生また相侮などに配当する処方でも多彩な治療ができます。と言っても、治ったのでそうである理屈を弄していると言えなくもありません。

六味地黄丸は小児に特に良く使う処方です。アトピー治療におけるステロイド離脱や、喘息の緩解期の体調維持。これは上の水道たる肺の病を、下の水道たる腎で治すというバランス治療の典型例です。小児の夜尿症や発育不全などに小建中湯などとともに使います。これも清酒で服用するようになっていますが、子供の場合、酒はダメなので、白湯や水、ジュースで服んでも構いません。

 

黄連解毒丸

Rp.黄連・黄柏・黄今・山梔子 (丸剤) 水で服用。

これは元々湯剤ですが思いついたとき即服する機会が多いので、生薬を丸剤としたものを常備しています。

時々、舌を噛んだり、口内炎が発生します。これは胃や心が化熱し五官の口舌を犯すものです。そんな時この丸剤を30丸〜40丸服むと、瞬時に痛みが緩和され治癒までの期間を短縮できます。苦寒生薬なので、冷やす作用を発揮させるため冷水で服用します。

体内の熱を冷ますため便秘気味の時は便が軟化し、心熱が下がると血圧も下がります。血管収縮作用による止血効果に優れていますので、事故や怪我の直後服用すると広範・多量の出血をくいとめ、その後、桂枝茯苓丸を服んでおけば予後が順調です。

顔が赤く飲酒したような感じの人の恰好の薬です。この薬は飲酒前に服んではいけません。酒に酔えず、酒量が増え、酒代も増える事になります。また冷やす働きがあるので体温を発生するようなスポーツや労働の前、熱い屋外に出る前などに服んでおくと熱発生が抑えられ持久力が増します。

 

逍遙散加減方

Rp.当帰・芍薬・茯苓・白朮・柴胡・甘草・薄荷・生姜 (散剤)
加減方(牡丹皮・山梔子・香附子・川窮・地黄・半夏・丹参・枳殻・釣藤・牛膝など)

良く出来た処方に関心させられます。良く効き、応用範囲も広く、適当に使っても何らかのメリットのある薬方で、この薬方の加減方は最も繁用しているものの一つです。他の薬方との合法にも便利で、完成度の高い薬ではないかと思っています。

長距離走などで脇腹が痛くなることがありますが、これは運動によって肝血を消耗し肝気が鬱結し、痛みに変わったものです。ストレスや長く続く過労でも起こりやがて化熱し、自律神経のコントロールを失います。熱は上昇し、心や脳を犯しイライラが生じ、ノイローゼをひきおこすこともあります。

配合されている当帰が肝血を補うため、服用すると早い回復が見られます。「漢方は長く根気強く服まねば効かない」と言うのは漢方屋が延々と生活の糧を得るための方便です。効果は瞬時に見られます。治ることを問われるなら、ある程度の治癒レベルまでは時間がかかると言わなければなりません。また治癒したと判断されても、過労やストレスが続けば再発の可能性は残ります。このことはどのような病気にもいえることです。治ったとしても以前のような生活に戻れる病気とそうでない病気があります。女性の更年期症候群や軽いストレスや少し肝を酷使した時、男女の区別なく使えます。私は、店が閑散としてストレスが溜まると補腎の六味丸とともにお世話になります。

 

漢方胃腸薬

Rp.桂皮・延胡索・牡蛎・蒼朮・茯苓・陳皮・茴香・甘草・乾姜・縮砂・丁香 (散剤)

わが家特製?と言っても同業のかたが見れば、何の処方を参考にしたのか一目瞭然。顆粒などの製剤を買えば高くつくが自分で作れば、安価でよく効く薬が出来ます。

胃の丈夫な人は、何を食べても元気そのもの。しかし食に節制を欠けば、肝や心を酷使してしまいます。「肝も心も大丈夫。」と自分の体を過信し更に不摂生を続けると胃腸の不調では済まなくなります。酒、煙草、暴飲暴食の果て長命の人に「長生きの秘訣は酒、煙草を美味しく頂くことだよ。」などと言われると、それがまた妙に説得力があったりします。こんな人は特異体質です。凡人が真似てはいけません。

私は、虚弱というほどではありませんが、自慢できる胃腸でもありません。生・肥・甘冷・粘膩の食物を食べた時、胃がもたれたり、胸焼けが起ったりします。生(刺身.. )肥(肉・乳製品・卵...)甘(菓子・ケーキ・ジュース...)冷(アイスクリーム・冷水.. )粘膩(餅・麺類・パン.. )こんなものを食べるとその食材の性質上、胃に滞ります。

胃もたれ、胸焼け、満腹感ですっきりしません。こんなときこの胃腸薬を服むと、10分で位軽いゲップが発生し胃腸が動き出すのがわかります。胃に滞った食物や水分や動きの鈍くなったガスが移動します。薬理学では芳香性健胃薬の分類になりますが、利水薬が配合されているところが、漢方の漢方たるところです。しかし、食の節制さえできれば本来無用である筈の薬です。

 

補中益気湯

Rp.黄耆・人参・白朮・当帰・大棗・陳皮・柴胡・甘草・升麻・生姜 (湯剤)
加減方(半夏・茯苓・五味子・麦門冬・香附子・地黄・枳殻・防風・丹参・芍薬など)

別名、医王湯。その名に相応しく、病気の療養になくてはならぬ薬。補中とは脾胃を補うことで、益気とはそれによって元気を増す事です。漢方薬は薬草名から付けられた名前や、このように効能から付けられた名前もあります。

日頃強壮な人でも過酷な労働や運動の後、食欲も失せるほど疲労することがあります。過労のあまり脾胃のエネルギーも減退する訳です。病中、病後も似たような状況が想定されます。こんなとき脾胃を助け、食物のエネルギーの吸収をよくしようとする薬です。薬で生きるためのエネルギーは補給できません。食物に頼るしかありません

テレビの宣伝のせいか、ドリンクをまるでエネルギー源かの如く勘違いしてる人が多く見受けられます。あの手の薬は、ただ興奮させるだけで何の役にも立ちません。少なくとも病気の人、疲れた人は絶対飲んではいけません。更に激しい体力の消耗が待ち受けています。健康な人のみに許される気休め薬であることを銘記しましょう。

体の働きを車に例えるなら、アクセルとブレーキを同時に踏んで調節しながら走っているようなものです。長く続く微熱、これはブレーキを踏む力が弱って熱が出るものです。西洋医学の治療では延々と抗生物質や解熱剤を使い続けます。補中益気湯を風邪の後の微熱や不調の時使うと、ブレーキを踏む力が出てきて早い回復が望めます

 

桂枝茯苓丸加大黄

Rp.桂枝・茯苓・牡丹皮・桃仁・芍薬・大黄 (丸剤) 蜂蜜で丸剤とし清酒にて服用。

桂枝茯苓丸との違いは大黄のみ、あとの処方は同じです。しかしこれは体の機能を考える上で示唆深い処方でもあります。オケツが生じると幾分便通が悪くなります。オケツによる熱や血行障害により、便のスムーズな排出を妨げるものと思われます。また、日頃便秘気味の人は、さらに重症の便秘になることがあります。このときこの処方を用いると、大黄の量はそれほど多くないにも関わらずスムーズな排便が起ります。体内に生じたオケツを桂枝茯苓丸で処理したとしても、それを下し排除する為には少量の下剤を配合したほうが良いのかも知れません。大黄は下剤として良く使われますが必ずしも好ましくありません。下剤ならセンナのほうがまだ優れています。私はオケツを排除する目的の薬味としてのみ使用しています。

便秘のあるオケツは、便を排出できれば案外容易に改善します。便秘がなくても重症のオケツなら、少し下すように大黄配合のものを使います。瞑眩(めんげん)反応というのがあります。治癒する上での激しい体の反応の事ですが、治療家の中には明らかな副作用や不適応の症状にも関わらずこの言葉を弄します。瞑眩など頻繁に起るものではなく副作用や不適応と認識しなくてはいけません。ところがこの桂枝茯苓丸はじめ大黄が処方された薬方では、稀に起ることがあります。

私は2例経験があります。柿の木から落ちて起き上がれなくなった人、夜間自転車で電柱にぶつかった人、いずれも激しい下痢とともに治ったわけです。厳しい苦痛のさなかこれで治ってしまうような期待感があったと、喜ばれました。もし苦痛の最中、どうしようかと相談があれば、ためらわず「薬の服用をやめて下さい。」と言った筈です。

丸剤になっているため、数を増減し便通の状況に合わせます。また桂枝茯苓丸と併用し、例えば桂枝茯苓丸50丸+桂枝茯苓丸加大黄10丸など割合を変えて使うことがしばしばです。

今まで、清酒で服用する薬を幾つか紹介しましたが、その理由は既に述べたとうりです。各自酒に好みがあるので、清酒(日本酒)の他、ウイスキー、ブランデー、焼酎、梅酒、ワイン、などでも構いません。ビールは薄すぎて泡立つので不都合かも知れません。量は丸剤が浸るくらい少量あればいいのですが、私は嗜好上、多めに飲みます。

これらの薬でオケツが改善されない場合を陳旧性オケツと言って蛭や虻など抗凝血作用の成分を持った動物薬を使います。以前は、これらを配合した抵当丸や大黄シャ虫丸などを作る人から分けてもらい使っていましたが、今は入手困難になりました。

漢方の得意とするオケツ、この考え方を基に難病や、長期に渡る病気はオケツを念頭に生薬を処方します。他の療法に於いても血行障害は病気の大きな原因のひとつであるという認識は共通していますが、漢方ほど詳細に観察し対策が用意されたものはないと自負しています。

 

五苓散

Rp.沢瀉・桂枝・茯苓・猪苓・蒼朮 (散剤)

真夏、炎天下の農作業で激しい発汗。その時の冷水の美味いこと絶品です。ところが渇きはなかなか止まらない。それもそのはず、冷水は胃を冷やし胃の動きを止め、水は胃に溜まるばかりで殆ど渇いた組織中へは移行しないのです。渇きが止まらぬため更に飲み続ける事になります。胃腸が長時間冷水で水浸しになると、血や気の昇提が妨げられ、眩暈や頭痛、吐き気を催します。

こんな時、五苓散を服むと水分(不都合な作用をもたらす事から水毒とも...)を速やかに組織中へ移行させてくれます。その他、水や湿気で起る諸々の症状の改善に使います。

頭痛や歯痛など血管が拡張したり、腫脹の見られる疾患は、水毒が絡んでいます。抗炎症剤として使う生薬とともに配合すれば、更に良好な効果が期待できます。

口渇・尿不利・五苓散と、呪文のように覚えた薬方ですが、夏は発汗のため尿量減少は当然の事。水がどのようなメカニズムで体に吸収されるか理解の上で五苓散を服まなくてはいけません。そうすると水の摂取の仕方も自ずと理解されます。出来るだけ温かいものを、少しずつ、空腹時に、頻回に分けて飲むのが水の摂取の注意点です

 

理中丸(人参湯)

Rp.人参・甘草・白朮・乾姜 (丸剤) 必ず温湯で服用

人参湯が元々の処方で、簡便に使いやすいように丸剤にしたものを備えています。霍乱という急性吐瀉病に使いますが、冷水を飲んだり氷を食べたりして急速に腹を冷やすと、その寒冷を下痢や嘔吐として排除します。排除してしまえばさっぱりするのですが、それまでは大変苦しい思いに耐えなくてはなりません。長時間に及ぶと体力も消耗します。

理中丸は生姜を蒸して乾燥させた乾姜が配合され、乾姜は辛味が裏に入りやすく生姜より辛温性が増しています。これを服むと胃腸を急速に温めます。冷たいものの飲食後冷えたかな?と思ったとき、すかさず服んでおけば大事に至るのを予防できます

子供が小さいと煎じ薬などなかなか服もうとしませんが、理中丸を必要とする事はしばしばあります。人参が配合されているので、子供に限らず冷え症で胃腸虚弱の人腹を壊しやすい人、生理不順の人、子供の夜尿症などにお勧めの薬です。

 

柴胡桂枝湯

Rp.柴胡・半夏・桂枝・人参・黄今・大棗・芍薬・甘草・生姜 (湯剤)
加減方(香附子・丹参・枳殻・黄耆・金銀花・当帰・茴香・牡蛎・地黄・桔梗・石膏など)

既述の逍遙散も良く出来た処方ですが、これも守備範囲が広く、その効果に文句のつけようのない薬です。漢方修行時代に店長から「処方の見当がつかない時、とりあえず柴胡桂枝湯を渡しておけ。」と、、、よく言われました。

表裏気血水五臓に配当する生薬が万遍なく配合されています。繁用して苦情もなく一定の成果も得られ、効能効果も風邪の初期から後期まで。さらに肝臓・膵臓・胃腸の病気まで対応できます。これくらい使えるなら万能薬としても良さそうですが、守備範囲が広くても、スペシャリストとしては力不足です。この処方を基本として加減・合法の必要があります。

私は風邪の時、また風邪が長引き微熱が取れないとき、そして胸・脇・腹・背中が痛む胃腸病のとき服みますが、痛みの激しい時は後述の四逆散に頼ります。

処方の見当がつかないとき、いまだに柴胡桂枝湯を使います。薬局を開業して20年近くになろうというのに、、最初に漢方の手ほどきを受けた人の影響は大きい...(^^」

 

ドクダミ(十薬)

次に述べる金銀花とともに、薬草写真で紹介しています。なんとなく皮膚に痒みを感じたり、暑い夏のあせもや、湿疹、蕁麻疹、虫刺されの痒みに、ハブ茶と混ぜお茶として飲みます。分量を増やせば、ある程度重症の皮膚病にも対処できます。新薬の痒み止めなどより余程優れています。利尿作用もあるので緩和な利尿降圧剤として高血圧にも応用できます。

水虫に蒸した生葉を貼ったり、鼻炎に生葉を揉んで鼻に詰めたりもします。異臭を放ちますが、私は嫌いではありません。これを天ぷらに、あるいは茎をきんぴらにして食べる人もいます。葉なので煎じる場合長く煎じてはいけません。せいぜい3〜5分。これを半日〜1日七輪で煎じて服む人もいるようです。気持ちはわかりますが、長く煎じると有害成分まで抽出されたり、あるいは有効成分が分解したりします。

 

金銀花(スイカズラ)

ドクダミとともに薬草写真で紹介しています。ドクダミと併用する場合は、皮膚病や鼻炎に繁用しますが、これ単独では風邪に使います。生薬で流通しているものは開花前の蕾を採集乾燥させてあり臭いも味も今ひとつですが、開花したものを採集すると香りはジャスミンに似て、味も甘く大変飲みやすいハーブティーです。

咽喉が乾燥したり、副鼻腔の乾燥や炎症で始まる、風熱の風邪に単独又後述の銀翹散と一緒に軽く(5〜10分)煎じ、冷ました後、うがいしながら服み下します。熱くして服むと風寒の風邪や肩こり、筋肉痛にも効果があります。乾燥重量で10〜20g、時に30gくらいを1回または1日分とします。

 

銀翹散

Rp.金銀花・連翹・芦根・板藍根・竹葉・薄荷・荊芥・香鼓・桔梗・前胡・牛蒡子・杏仁
桑白皮・甘草 (湯剤) 

傷寒論・金匱要略を聖典とする日本漢方古方派なら咽喉の炎症から始まる風熱の風邪には葛根湯に桔梗や石膏、あるいは石膏剤の白虎湯加減で対処してきました。炎症には石膏などが入った重い薬が効きそうな気がします。

中医学では風熱の風邪に、銀翹散を繁用します。軽浮の薬草で、量が多い割りに重さは軽く、煎じるときも「軽からざれば上らず。」として短時間、薬草の香りが部屋に立ち込めたくらいで、火を止めます。軽い発汗作用と、清熱作用で熱を下げます。

私が漢方の勉強を始めた頃は書店で中医の本が手に入らず、傷寒・金匱花盛りでした。やがて中医の本も出版されるようになり初めて温病・風熱風邪を知った時は、正に目から鱗でした。わが家では銀翹散加減方を調合し、ミキサーで粉々に粉砕したものを10分程煎じ、茶漉しで滓を去り、湯液をうがいしながら服み下します。

 

山査子末

脂肪や蛋白質食の比率が増え、それに伴い生活習慣病という困った病気も増えてゆきます。あるお客様から、抗脂血症薬メバロチンを服んでいるが副作用が心配だから漢方薬でこれに代わるものはないか、という要請を受け中国薬膳で肉料理によく使われるこの生薬を勧めてみました。

2週間ほどして血液検査の結果、コレステロール値、230→180。何ら生活は変えていないのにと、喜ばれました。ついでに体重も2kg減。良く効いた例なのですが、これに気をよくして、これ以来、山査子を勧めているうちに、1ヶ月・10kgは楽に売れる人気生薬になりました。食後1.5〜2gをお茶でも、水でも、ジュースでもよいから服んで下さいと言って渡しています。

また魚や肉など煮込むとき、この生薬を匙一杯入れて煮込むと早く柔らかくなり脂肪蛋白質の消化吸収を助けます。私も、高蛋白・高脂肪食のあと服んでいます。

思いがけない事にダイエット目的に服んでいた高校生が、体重は減らなかったが、ニキビが見事に治ったと報告があり、体表に溜まった脂肪も分解するのかな?などと考え、それ以来脂肪・蛋白に関する事には広く応用しています。

 

三黄瀉心湯

Rp.黄連・黄今・大黄 (振り出し) 冷やして頓服。

わずか三味で配合量も少ない処方なのに、いや、だからこそ止血効果抜群といえるのかも知れません。刀傷の出血に使われたという薬で、動脈性の出血に血管を収縮させて止血すると言われています。常用するものではありませんが、今までかなりの回数使い、そして、これからのためにも冷蔵庫に保管しています。黄連解毒湯に似ていますが、黄連解毒湯が下方の出血に用い、三黄瀉心湯が上方の出血に用いるとされています。配合生薬が似ているので、それほど区別する必要もないと思います。切れ味は、断然、三黄瀉心湯です。

作業中、刃物で指を切って血が止まらぬ時、鼻血が止まらぬときなどに服んだことがあります。また歯科で抜歯の前などに服んでおくと出血も痛みも少なく、抗生物質なしでも後で腫れることがありません。

服みかたに要領がいります。まず生薬を湯呑みに入れ沸騰したお湯を注ぎます。5〜10分放置していると、だんだん明るい黄色になります。ここで滓を茶漉しで取り去り、別の器に薬液を移します。そして大切な事で、これに氷をいれ冷たくします。冷やすと更に絵の具をといたように鮮明な黄色になり、これを服用します。苦寒の生薬にもかかわらず苦味はそれほど感じません。温かいものを服んでは効果がありません。

ある高血圧のかたにこの薬を渡していました。いざ血圧が上がったり、気分が悪くなれば、最悪の状況を想定し、まず出血を疑う、、「出血があろうとなかろうと副作用のない薬なので、これを振り出して冷服してください。」と...そして・・・ある日、家族のかたの具合が悪くなり病院へ行くと、どんどん血圧が低下し白血病からの出血との診断。そこで相談の電話が入り「三黄瀉心湯を服んでいいですか?」との事。ちょっとためらいはあったけど、「副作用の心配はありません。服んでください。」と答えたものの心配していると、翌日連絡があり医者が不思議がる位効きました。との事でした。

使わないに越したことのない生命保険のように備えておけば、時として命を救ってくれる時があるかも知れません。

大黄が入っていますが、振り出しで服むと瀉下効果はそれ程なく、おそらく三味の生薬が何らかの化学変化を起こし、各々の効果や色や味が消え、三味による新しい成分が生じるのではないかと思っています。

止血剤として四物湯の入った処方も使いますが、これは凝血のメカニズムに作用して止血すると言われていて、黄連の配合剤と併用することもあります。事故の直後、手術前後など出血が予想される前にのんでおけば、西洋医学の治療の助けになると思います。

 

三黄丸

Rp.黄連・黄今・大黄 (丸剤) 冷水で頓服。

三黄瀉心湯の生薬末を丸剤にしたものです。急迫の時、湯を沸かしたり、氷を入れたりする余裕がないとき、また旅行中の救急箱に準備すれば安心です。振り出しの瀉心湯と違い各々の生薬が自己主張し、特に大黄の瀉下作用は強く便秘薬としても使えます。桂枝茯苓丸、黄連解毒丸などと併用し、瀉下作用を調節しながら用います。

 

四逆散加減方

Rp.柴胡・芍薬・枳穀・甘草 (散剤) 
加減方(香附子・丹参・延胡索・釣藤・黄連・地黄・半夏など)

逍遙散は四逆散を基にした処方です。胸脇腹部に起る急迫の痛み、平滑筋の過緊
張や痙攣を除く働きがあります。この他にも加減合法して多彩な応用のできる薬です

私事ながら、数年前、尿路結石の激痛に襲われ、病院へ行きました。そこで診断がつくまで不安ながら痛みを緩和するためこの薬を服みました。10〜15分で、嘘のように痛みが止まります。痛みを止めるのは必ずしも良いことばかりではありませんが、脂汗が流れ、息絶え絶えになるような痛みは耐え難いものです。この続きは最後の項で詳述します。

 

生姜

生の生姜です。台所漢方のNO1。この辛味は裏に行って肺や胃腸を暖め、表に行って発汗作用があり、嘔吐、眩暈などにも効果があります。スパイスとして食養増進、脂肪蛋白の消化吸収を助け、漢方薬としてもなくてはならない薬味のひとつ。生姜を入れて煎じる処方には、生の生姜を入れて煎じます。

生の生姜には精油・辛味成分が温存され効果的です。軽い悪寒の時、少し鼻水が流れる時、親指大の生姜を茶漉し網にすりおろし熱湯を注ぎます。その湯に蜂蜜とレモン汁少量を注いで、単独で、あるいは、このしょうが湯で葛根湯や麻黄湯などのエキス顆粒を服みます。体が温まって風邪をひかずに済みます。初発の時期を判断し迅速な服用が好ましいのですが、侮っていると初発の治療期を失してしまいます。しょうが湯の熱もちを良くするため葛粉をいれるのも効果があります。

他に、乗り物酔いの予防や、めまい、吐き気を伴う胃腸病にも使います。

 

麻黄湯

Rp.杏仁・麻黄・桂皮・甘草 (湯剤) 必ず熱い湯液を服み、暖かくしておく。
加減方(葛根・芍薬・大棗・生姜・石膏など)

風寒。ゾクゾク寒気がし、筋肉が強ばり、鼻閉、鼻水、頭痛などの症状から始まる風邪があります。葛根湯が有名ですが、麻黄湯を基にした加減法が便利です。発汗力に差があるので、発熱の状況に応じて薬味を加減します。しかし麻黄剤は夕方以降は使えません。麻黄のエフエドリンが覚醒を催し一睡もできぬ夜になる恐れもあります。

風寒の風邪でも、麻黄剤が有効な期間は短く限られています。時期を失すると高熱がでて...こうなると相当の量・回数を服んでも、さらに布団を被って横になっていても容易に発汗しません。それでも半日は耐えますが、ついに新薬のアセトアミノフェン坐薬を使います。まもなくジワジワ発汗が始まります。

そもそも発熱は、体温設定のスイッチが狂って起るものと教わりました。その狂った設定を正常に復帰させるのが解熱剤の役割であると...ところが近年、発熱はウイルスを殺すための体の防衛反応として、解熱せずに放置する治療家が見受けられます。意味は良くわかりますが、経験上、このことには全面賛成できません。発熱を放置しておくと数日続く場合もあります。私の子供は3日続き、いつ解熱するかの見当もつきませんでした。あまりに苦しそうで体力の消耗も懸念されたので、新薬の解熱坐薬を使いました。たちどころに解熱し、翌日は元気に学校へいけるようになりました。

これ以来、放置して耐えさせるのではなく、半日ほど様子を見てから解熱剤を使うようになりました。使えばすぐ解熱し翌日には治ってしまいます。一体これは何を意味するのか?いままでは熱を徒に放置していただけではなかったのか?

実験もしないでの推測ですが、一度、高熱を一定時間維持すると、ウイルスは死滅・弱体化してしまうのではないか?ところが熱の設定は狂ったままである....このように仮定すると、ウイルスは存在しないのに、温度設定が狂ったまま、生体の機構のみが発熱という暴走を続ける・・・このように考えられないでしょうか?

この時、解熱剤は、その狂いを正常にセットしなおすための契機を作るのかも知れないと考えた訳です。これを即、本当かのように他に勧めることはしません。また、このことには健康が絡んでいる以上慎重であらねばならないと思っています。しかし、自分と自分の家族の場合、今のところ、熱を何日も放置することはしません。

比較的安全性の高い解熱剤であれば、ためらわず使えばよいのにと思います。微熱が残ったり、咳が残ったり、だるさが残ったりはあります。病気の後なら当然の事でしょう。後処理は漢方薬の出番です。既述した柴胡桂枝湯などで表裏を和解させ、残りの炎症を処理すれば程なく回復します。

 

小青竜湯

Rp.半夏・甘草・桂皮・五味子・細辛・芍薬・乾姜・麻黄 (湯剤)
必ず熱い湯液を服み、暖かくしておく。
加減方(茯苓・黄耆・防風・白朮・石膏・天南星・蒼耳子・辛夷・杏仁など)

風寒+水滞。葛根湯や麻黄湯に見られる風寒の症状に、薄い多量の鼻水がみられるなら利水剤の入ったこの処方です。朝夕冷え込むとき、夏の冷房の部屋で鼻水が流れ落ちるようだったら、これを煎じて、あるいはエキス顆粒などを熱湯に溶いてふうふうと冷ましながら熱いうちに服みます。瞬時に鼻水は止まります。

近年増加しつつある花粉症もこの小青竜湯の病態を呈します。症状はほぼこの処方で改善します。さらに重い花粉症のかたには、この加減方を勧めています。前項の麻黄湯と同じく、熱くして服まないと効きません。服んだあと、冷房の部屋にいては服む価値がありません。

病院や薬屋でこの薬を渡される時、服む温度の指示の在るなしで、この処方に対する渡す人の理解度が推測できます。これで効かない時は蒸しタオルをお勧めします。一時的ですが効果的。

 

二陳湯

Rp.半夏・茯苓・陳皮・甘草・生姜 (湯剤)

吐気を止め、痰飲を伴う胃の病気に使う基本処方です。効果を発揮させるためには生の生姜で煎じなくてはいけません。更に、服むとき生姜の絞り汁を入れると効果がよくなります。

私は、乗り物酔いや、酒酔いなど吐気を伴う胃の不調が見られるとき服みますが、吐いているときには、服んでも服んでも、すぐ吐き出してしまいます。こんなときは少しづつ頻回に服用すると、吐き出しても少しずつ吸収され、やがて服まないでいるより早く止まります。

 

センナ

「便秘でセンナばかり服んではダメよ!」とは良く耳にします。素人も、時に専門家も口にする言葉です。女性で便秘の人はかなりの数見られます。適度の運動、繊維質の食事をしていても便秘なのです。根拠にも乏しい、この親切なアドバイスを信じて、便秘に耐え苦しんでいる人のなんと多いことでしょう。生活や食生活の改善で治る便秘ばかりではありません。

漢方家でさえセンナの害を煽り、別の処方を勧め生活改善という自己責任を押し付けます。それで治れば言うことはないのですが、そう簡単には行きません。残念ながら生涯付き合わねばならない体質の人もいます。便を出す位で延々と高額の薬代を払うなどバカバカしい気がします。

センナに害があるように便秘にも害があるのです。あなたはどちらの被害を選びますか?効果・副作用の多少・値段、この三つを満足させてくれるものはセンナをおいて他ありません。もし他にあるならは是非教えて欲しいものです。たった今からそれを推売致します。

センナの正式な用法を見ると、15分煎じるように書かれてあります。そして普通ティーバッグに入ったものが服用されているようです。軽度の便秘にも重症の便秘にも一定量を服用しているという事になります。軽度の人は腹痛が起こり効きすぎる。重症の人は効かないので、ティーバッグを一包単位で増やし濃く煎じ、今度は効きすぎて腹痛が起る。「ダメよ!」の根拠は、こんなことだろうと思います。

センナは便通の状態に応じて、枚数単位で葉っぱの量を加減しなくてはいけません。そして15分も煎じてはいけません。タンニンなどの有害成分まで抽出され、それが腹痛や、次々に量を増やさないと効かないという原因になります。「振り出し5分で1回きり。」このようにセンナを勧めると、面白いように効いてくれます。殆ど苦情もなく、稀に出難い重症の人がいるくらいです。5分のところ7分蒸らすと腹痛が起ると言うかたが幾人もあって、この経験から5分という時間にしています。

これで1日分3〜6円の薬代で済みます。少なくとも私は費用対効果の配慮なしに薬を勧めることはしません。安価でしかも5分の手間で便秘が解決出来るなら、500円も800円も払った上、月に何万円もする健康食品まで押し付けられ購入する事が愚かに感じられます。

既に説明したように、有害成分を摂取しないためにも粉末や錠剤、顆粒剤は避けるべきです。体の不調やアンバランスは探せば誰にも見つかります。それほど不都合でもない体調なのに、ただ便秘だけで困っているという場合の特効薬と言っても過言ではないでしょう。

 

田七人参末

既述の復方丹参散に配合して服んでいます。田七はかつて、ベトナム戦争のときベトコンが銃創に散布したり、その鎮痛に内服して効果があったという伝説?で有名になりました。

薬用人参の親類みたいなものです。止血、鎮痛、強心、肝保護作用があるため、あたかも万病の薬かの如く喧伝し、田七人参業界は百花繚乱。しかし高価で、また高価なものほど講釈も立派で、MLMやマルチの人々もこれに注目し盛んに売り込んでいます健康だ長寿だと言いつつも、利益率の表を抱えマネーゲームをやってるに過ぎません。

私は、早くから田七を扱い、しかるべき製薬会社から入荷し適正な価格で販売しているつもりですが、彼らのものと比べ10分の1程度の価格なので、彼らから、、、「温心堂の田七人参はニセ物、まがい物、、、」とのいわれなき中傷を受けます。「どっちがニセ物なんだ!」と言いたいところですが、マルチの皆様、どうか他の仕事を貶すのはやめて下さい。ついでに、温心堂の田七人参は5年根を扱っています。5年根以上は中国当局が出荷していないそうです。ところが「幻の7年根..」などという売りこみが見受けられます。まさに幻の7年根というべきものです。

私は単独で外用、止血剤として使います。不器用ゆえ、樹木の剪定中に自分の指を切ったり、鋸で挽いたり、なにをやっても生傷が絶えません。そんな時は三黄瀉心湯を内服し田七人参を傷口に散布します。

 

牛黄

牛の胆石、へ〜ッ、最初は私も「こんなものが..」と思いました。決して常用するものではないけど、なくてはならぬ時もあります。単独で、また麝香(ジャコウ鹿の雄の生殖腺の分泌物)なども配合した牛黄丸と併用します。

中薬学の教科書で牛黄は開竅薬に分類され、一部抜粋すると....

 心は神志を主り、邪気に内擾され心竅が閉ざされると、意識障害が現れる。
 その時心に入って邪を除き、閉塞した心竅を開く事により、神志を常態に
 回復させ意識を蘇醒させる。

高熱による意識障害、一過性の失神発作、てんかん、中風による意識障害など重篤な状態の急場を救う頼もしい薬です。今まで風邪の発熱時や、激しい労働で息も止まらんばかりの動悸が起ったとき使いました。噛んで口中舌下錠のようにして服用すると、数分で動悸は収まり落ち着きます。

さらに中薬学の教科書では...

 「急場をしのいだあと弁証論治を行う。」「開竅薬は元気を消耗しや
 すいので、短期間の使用にとどめ、長期に服用してはならない。」

これは何を意味するのか?

というのは、これら開竅薬は急場をしのぐための代価として著しく陰を消耗します。例えば、急場をしのぐため大切にしていた虎の子の貯金・・・牛黄などの開竅薬は、これを引き出し急場をしのぐ訳です。次々に使い続けるうちに、ついに虎の子の貯金を使い果たしてしまいます。あとはどうなるのか?わずかの金も残っていない事態を招きます。こうなる前に弁証論治を行い貯金(陰)を戻す治療が求められます。

牛黄製剤の事を見聞すると、苦々しい思いに駆られます。1個数千円から1万円もする金箔の丸剤を10個のめば高血圧が治る。20個のめば肝炎が治る。30個のめば癌が治る。40個のめば○○が治る.. と言った具合に高額な薬代を要求する薬屋があります。本当にそれで良いのですか?自分が癌になったらそれをのみますか?

肝臓癌で100万円ほど、この薬をのまれた患者さんが見えられたときは驚きました。眼球が反転したように上を向き軽度の意識混濁が見られ、呂律が回らず「一時期大変調子が良くなったのですが、また...」と、話されました。この後1〜2ヶ月で亡くなられました。一時期急激に改善したように見えるのは、虎の子の貯金で、力を振り絞っていたからです。使い続けると金や抵抗力を蹂躙されます。

牛黄は必要な時、見事に役割を果たす大切な薬です。利益やノルマのためにある薬ではありません。この手の生薬は資源も限られています。中薬学の教科書に書かれているように、急場をしのいだら弁証論治にもどるという使いかたを守りたいものです。健康のためにも、患者さんのためにも。漢方家が漢方の本質を伝えないのは嘆かわしいことです。

 

独参湯

お種人参 50g (煎剤)

お種人参一味のみの処方で、その名も独参湯、これはまだ使った事がありませんが冷蔵庫に保管しています。冷蔵庫で夏場、虫やカビの発生をしのげば100年や1000年は使えるくらい生薬は安定しています。1000年以上を経た正倉院の薬物が今も使用に耐えると言われています。

人参一味の大量投与で補気固脱、大出血、嘔吐、下痢、発汗など、とにかく常軌を逸脱し損耗したときや、心臓発作や急激な血圧降下などショック状態の救急に使うものです。準備しているだけで、使わないことを祈るのみ。またイザ使う事態になっても気が動転している状況で、冷静に水を汲み火をつけ煎じることが出来るかどうか自信がありません。きっとあわてて救急車をお願いするかも知れません。

 

紫雲膏

Rp.当帰・紫根・ゴマ油・蜜蝋・豚脂 (軟膏剤)

華岡青洲創製の軟膏剤。やけど、しもやけ、ひび、痔、などによく使いますが、保湿剤としても効果的でアトピー性皮膚炎にも使われます。ゴマ油が成分に配合されているので、この臭いがどうにかならないものか?とよく言われます。このため椿油やオリーブ油で製造した事があります。しかしこれを作るときは、油が飛散し台所の床は滑るし器を洗うのに一苦労なので、現在、出来上がったものを買っています。

肉芽形成に優れているので、ひび割れたあかぎれに埋めるように塗り込んで、判瘡膏で保護しておくと2〜3日で治ります。やけどはさらに効果的で、朝に受傷すれば夕方には治ってしまうくらい即効性があります。口角炎や口内炎に応用されるかたもあります。飲み込んでも害はありません。

 

中黄膏

Rp.欝金・黄柏・ゴマ油・蜜蝋 (軟膏剤)

紫雲膏が温なら、中黄膏は寒。温は寒に適用し、寒は温に適用します。とはいえそれほど厳密に使い分ける必要はありません。炎症々状や熱を帯びた皮膚病、虫刺され、化膿性のできものに使います。

 

黄柏末

これは専ら外用剤として、時々起る口内炎の時に使います。この粉末を、患部に散布すると糊状に固まり、張り付きます。そのまま飲みこんでも苦寒剤として胃の熱を冷まして有効に働きます。

この粉末を水で練って打ち身、捻挫にも使われますが、打撲直後の炎症、熱のあるときは効果があっても、やがて炎症や熱が去り、青い打撲斑や痛みだけが残ったら、今度は温めてオケツを散らす方法をとらなくてはなりません。延々と冷湿布を続けるのは逆効果です。

 

最後に...

退屈な、わが家の薬箱でした...これは私が推奨する薬と言う訳ではありません。いつの間にか自宅の薬箱に集まったものを整理かたがた、お客様と雑談を交わすようなつもりで書いてみました。

昨日までは、あるいは5分前までは何事もなかったのに、突然、病気は襲ってきます。健康な時は、次の瞬間起りうるかも知れない病気の事など考えもしません。その時の動揺、死を垣間見るような恐怖は臨死体験に似ているような気がします。

学生のころ、風邪で病院にかかって以来、病院へは行った事がありません。病院に勤務していた頃、その病院で血液検査を受けたくらいです。ちょっとした不調は、薬で治すか、放置していると治ってしまいました。ところが数年前の夏の朝、目を覚ますと突然激しい腹痛に襲われました。前日に飲んだビールで腹を冷やしすぎたのかも?と薬箱の理中丸を服んでも効かず。四逆散で何とか収まるが、やがてまた痛みだす。2日ほどこんな事の繰り返しでした。痛みが気になるので、病名だけは明らかにしておいた方が良いと思い久しぶりに病院へ行きました。結果は、尿路結石。

そこで、漢方薬の尿路排石方を服み、さらに2日、、、なかなか痛みが止まりません。脂汗が流れ、吐気がし、耐え難い痛みに四逆散やブスコパンで対応しました。しかしついに耐え切れず、衝撃波で結石を破砕する治療を受けました。

病院で医者の指示が下ると、スタッフの面々が動き出し、ベルトコンべアーに乗せられた製品のように、粛々と治療が進んでゆきます。胸部レントゲンまで撮ると言われ「結石なのに何故だと!」拒みました。知らずにいれば、患者は医療費を生むためのメニューを消化させられるのです。しかし痛みから解放された時は、医者や看護師さんが神さまのように思えました。

ウロカルンを半年服むように処方箋を頂いたけど、あのタール系色素で着色された薬はとても服む気になれず、生薬の裏白柏と連銭草のお茶をのみました。

さて、いつの間にか結石を忘れて...数年後の夏。
夕食後2時間ほどして、激しい腹痛、脂汗、吐気...戸惑うことなく尿路結石であることが確信されました。例の如く、四逆散とブスコパンで痛みを押さえ、今回は前回の轍を踏まぬようにしっかりした服用計画を立てました。

 Rp.(1)猪苓10 沢瀉10 茯苓10 芍薬10 甘草3 滑石5 茅根10

 Rp.(2)連銭草50 裏白柏20  

 Rp.(3)山東阿膠5

 Rp.(4)四逆散5g

 (1)、(2)を別々に煎じた薬液をあわせ、それに(3)を加え溶解し(4)を冲服。

上記分量は1回分でこれを1日2回朝・昼服用しました。朝食抜きで朝服用し、昼の分を服用してから昼食をとる。

2日続け3日目の朝には、痛みから解放されました。前回は分量も少なく、熱心に服まなかったのですが、今回は真剣に服用しました。痛みが止まってから更に3日のみ続け、何とか平常に復帰しました。分量を増やしたり服みかたを工夫すれば薬は効くのだ。ということを痛感させられました。幸い漢方薬で治ったからこんな事が書けるのです。これは自己責任で行った事。お客様にも、親しい知人にも勧められるものではありません。失敗していたら悲惨なことになったかも知れません。自らの体験談として報告した次第です。  

 

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